表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/40

第9話 放課後の図書館ですわ。



 そして、いざ図書室。

 まだ日暮れ前だというのに、図書室には司書のひとりいる様子がない。こんな私的な勉強会のために貸切るとは……さすがに権力の横暴ではなかろうか。


「珍しく一人なんだな」

「きゅるるん♡」


 それでも先に待っていたブルーノ様(青のヤンデレ)お辞儀(カーテシー)とともに慣れてしまった挨拶をこなせば、彼はうっそりと目を細めた。


「そうか。俺もリュミエールと二人っきりで嬉しいよ」


 ――誰もそんなことは言ってません。


 だけどわたくしの設定上、そんな反論はできないので。

 聞かなかったことにして彼の対面に座って教科書等を出せば、ブルーノ様はわざわざわたくしの隣の席まで移動してくる。


「それで、どこがわからないんだ?」


 ――そういえば、どうやって質問すればいいんだろう?


 それ以前に、授業でわからないところがないのだけど。

 勉強さておいて彼のヤンデレ化の原因を探るべく、近況を色々とお伺いしたいのだが……「きゅるるん♡」だけでどうやって聞き出せばいいものか。


「じーっ」

「どうしたんだ?」


 とりあえず隣のブルーノ様を見ていると、彼は気まずそうに視線を逸らす。

 お。もしや、そのまま『俺を見つめるなど不敬だ』とか言ってくれるかと期待するも、


「少しだけ待ってくれ。初めての口づけはもっと雰囲気のある場所でしたい」


 などと宣いやがったので、わたくしは「がっくり」と肩を落として。

 ふと、ノートが目に入る。


 ――これなら……。


 わたくしはペンを取り、ノートの端に書いた。


【最近おかしなことはありませんでしたか?】

「……そうか。筆談なら話せるのか」


 目を見開いたブルーノ様に「こくこく」と頷けば、ブルーノ様もペンを取ろうとして……自分は書く必要がないことに気が付いたのだろう。小さく苦笑してから、ご自身の顎を撫でる。


「おかしなこと……そうだな。やはり運命がおかしいのだと思う。どうして俺とリュミエールは親戚なんだ。結婚できないわけではないのが、せめてもの救いか」


 ――そんなことは聞いてません。


 なので、


【そうではなくて】


 と前置きしてから、わたくしは再びペンを取る。


【最近、ブルーノ様の身の回りに変化などございませんか?】

「リュミエールの愛らしさに気が付いたことではなく?」

【わたくしに関すること以外で!】


 感嘆符を強い筆跡で書いたわたくしに「ははっ、恥ずかしいのか」などと言ってきますが……もうそういうことでいいです。わたくしが「やれやれ」と肩を竦めたら、ブルーノ様が普通の口調でおっしゃった。


「やはり、義理の妹ができたことだな」

【アイリーンさん?】

「そうだ。彼女が家に来てから、だいぶ家の中の様子が変わったな」


 正直、ヤッターメン家における噂で、あまりいい話は聞かない。

 別に何か不正をしていたり……というわけではないのだが、昔から家族仲があまりよろしくないようだ。たびたびパーティーの雑談などでは、「それに引き換えラムネリア家は――」と、使用人含めて仲の良いことを褒めてもらうことが多々あった。別にうちも、朝食は必ず家族全員で集まることと、週末は使用人含めて「一週間おつかれさま」とお酒(勿論、わたくし含めた未成年はジュースで)無礼講に盃を交わしていたくらいである。わたくしとシルバーが指相撲大会で白熱しすぎて、翌日わたくしの親指が腱鞘炎を起こしたこともあったか。


 ともあれ、そんな我が家に比べて淡白な家庭で育ったらしいブルーノ様が、どこか嬉しそうに苦笑された。


「まぁ、いい変化だとは思う。父上も母上も喧嘩が減ったし……こないだの連休に家に戻って、初めて家族団らんというものを経験したよ。あんなに美味しい食事は初めてだった」

【そんな義妹さんに……あんな態度をとって宜しいので?】

「それとこれとは話が別だ!」


 途端、ブルーノ様がテーブルを強く叩く。思わず自然に背筋を伸ばすものの、ブルーノ様の怒気は収まらない。


「俺とリュミエールの貴重な逢瀬の邪魔をするなど、たとえ家族だろうと許せるものではない。もしも法律が許してくれるなら、あの場で打ち首に処してやりたいほどだった!」

「……うるうる」


 ――ぶ、物騒がすぎるッ!


 そんな食堂で編入して間もない妹が、兄に話しかけたから処刑だなんて……そんな国に暮らしたくない。そもそも冗談だとしても、そんなことを容易く口にするような人が、人の上に立ってよいはずがない……!


 ――これは、本気でどうにか致しませんと……。


 最悪彼の変化を父上に連絡して、国王陛下などに相談してもらわないと、本気で国家転覆の原因になってしまうやも。わたくしも『ぶりっこ』なんておかしな真似をしている手前、できれば穏便に解決したいところなんだけど……。


 わたくしの「うるうる」の意味を履き違えたブルーノ様が、無駄に優しい手つきでわたくしの頬を撫でてくる。


「あぁ、また怖がらせてしまったな。……少し頭を冷やしてきていいか?」

「こくり」


 ――わたくしも一気に疲れました……。


 迷うことなく頷けば、ブルーノ様が「すぐ戻る」と席を立った。名残惜し気に残していく視線に笑顔で手を振って――扉が閉まった後で、わたくしはどっとため息を吐いた。


「疲れましたわ……」


 ここにシルバーがいれば、即座にお茶を淹れてもらいたいところ。

 今頃、彼は何をしているのかしら……。


 一瞬そんなことを考えながらも、ようやくできた解放感にわたくしは体を伸ばす。そして、今仕入れた情報に思いを馳せて――至った。


 ――これ、やっぱりわたくしが元凶なのでは?


 今までブルーノ様の浮いたお話を聞いたことがない。あまり考えたくないことだが、ブルーノ様の女性の趣味が、こんな馬鹿っぽさ全開の『ぶりっこ女』だったとするならば。


 恋は盲目、という言葉の通り、頭の栓が外れてしまったのではなかろうか。

 せっかくできた家族の温かみを蔑ろにしてしまうほどに。


「つまり本当にわたくしの自業自得ッ――」


 誰もいないことをいいことに、バタバタと地団太を踏んだ時だった。弾みでテーブルからノートが落ちてしまう。


 ブルーノ様は本当にすぐ戻るつもりなのだろう。その落ちて開いてしまったノートはブルーノ様のもので。その乱暴かつ緻密な文字の羅列が、思わず目に入ってしまう。


 ――なに、このノートは……⁉


 そして、思わず読みふけってしまった。

 だってそのノートには、本当に王太子レッドモンド殿下の暗殺計画が、何パターンにも分けて事細かに書かれていたのだから。


 ――そんな、あんなのただの冗談だと……。


 その恐ろしい計画書をパラパラ捲っていると、ひときわ強い筆跡で書かれた文字が目に入る。

 

【また負けた】

【また負けさせられた!】

【俺はこの正答を間違えてなどいなかったのに‼】

【あいつさえ、いなければ……‼】


「見てしまったのか?」


 背後から、ドンと机に下ろされる腕の持ち主。

 それは紛れもないノートの持ち主、ブルーノ=フォン=ヤッターメンのものだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【去年のイロモノ小説】 捨てられた未亡令嬢ですが最強家政婦でもあるので、隣国の聖王子と幸せになりました。
ヒロインの名前はコジマさん
そろそろコミカライズが始まります。 『100日後に死ぬ悪役令嬢は毎日がとても楽しい。』
fv7kfse5cq3z980bkxt72bsl284h_5m4_rs_13w_9uuy.jpg
特設サイト
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ