第39話 人気No1ヒロインの事情
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あたしには前世の記憶があるんですけどぉ~、すっごく異性にモテていた女の子だったんです。モテることこそ宿命ってやつ? だからキャバ嬢ってモテることが仕事の職業についていたくらいなんですけど……まぁ、モテることが運命だから? 私生活でもたくさんの男の子にモテてあげてたんですね?
なので……その時は三人の彼氏と付き合ってあげてたんですけど。
ちょ~っと些細なすれ違いがあって、三人ともヤンデレ化してしまったんですよ。最初はヤンデレいいなぁ、なんて思ってたんですけど、さすがに刃物持ち出されて監禁されるようになったら、ちょっと笑っていられなくなりまして。
最後に兄貴が助けに来てくれたりもしたんですけど? まぁ、兄貴ともどもヤンデレスプラッタで死んじゃったわけですよ。あはは~。ちょっと兄貴、顔こわ~い(笑)
それで死後の世界で? 悲劇の美女・あたしを哀れんだ女神様は言ったんです。
『そんなに悔しいなら、リアル乙女ゲームでも体験してみる?』
まぁ、男を管理しきれなかったこと、あたしめちゃくちゃ悔しくってさ。女神さまに当たり散らしてたんだよね。あたしのヤケ酒に付き合ってくれる女神、ちょーいいやつ☆
その際に色々とリクエスト聞いてくれた結果、特殊コードを発行していただけることになりまして。
『その名をずばり『ヤンデレコード』‼ 攻略対象者をみんなヤンデレ化しちゃうコードだぞ☆』
ぶっちゃけ女神、酔っていたと思うんだけどさ。
そんな面白そうなゲーム、やらないわけないじゃん⁉
というわけで、転生しました! 幼少期はね、ヒロインのあらすじ通りけっこう貧しい生活だったんだけど……この世界のお母さん、とってもいい人でさ。実際ヤッターメン家に引き取られて、食べるには困らなくなって、あたしとしても感謝しているんだよね。元のゲーム関係なく、あたしもここで玉の輿狙って、お母さんをもっとラクさせてあげたいなぁ、なんて思ってるくらいには。
だから、どいつを落とすかよくよく吟味していたんだけど……そこで、悪役令嬢のリュミエールちゃんが「きゅるるん♡」なんか初めて逆ハーレム狙ってたから、ビックリして今に至っております――が。
え~、みなさんは改めて、ここが乙女ゲームの世界だとご存知でしょうかぁ?
そもそも『ゲーム』という概念から難しいでしょうか~。まぁ、どっかの誰かが創ったストーリーの中の世界だと思っていてください。どっかの誰かが女神さまなのではないかって? 神様的にはちょっと違うらしいのですが……あたしたちにはな~んにも関係ない話なので、割愛します!
あたしが何を言いたいかっていうと~、あたしと兄ちゃん……あ、このシルバーね。は、いわゆるそんな転生者ってやつでして~。このゲームのシナリオをちょこ~とだけ知っているんですよね。まぁ、現世で乙女ゲームなんて興味なかったから、この世界のことも女神からきいたあらすじだけなんだけど。
あ~そうそう、ブルーノお義兄ちゃん。あらすじは予言とでも思ってくれてればいいよ。
んで、この世界の予言というのは――『平民だった顔だけ可愛い女の子が、突如『王家の血が流れている』ってことで貴族学校に通うところから始まるシナリオなんですよ。そして、その学校で『真実の愛』で結ばれた相手と世界を救う!』みたいなやつでして……。
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「その経歴はどこかで聞いたことあるな?」
そう首を捻るのは、アイリーンさんの義兄であるブルーノ様。
そんな彼に、アイリーンさんはずいっと近づいた。
「そーなの。あたしがそのヒロインちゃんです。ね? 顔はかわいいデショ?」
間近に寄ったアイリーンさんの顔に、ブルーノ様は「わ、わからんっ!」と叫びながらも再び顔を赤らめる。だけどその反応に彼女は大満足な表情をしつつも、一同に向かって指を突きつけてきた。
「でも、これだけは言っておきたい――この顔は前世からの自前だ! あたしはゲーム補正なんかなくても可愛い! 渋谷ナンバーワンのキャバ嬢を舐めるな!」
「どーでもいいわっ! ちなみに、俺も顔は前世からの自前です。ね? ちゃんと銀座ナンバーワンに相応しい顔してるっしょ?」
――兄妹どれだけ仲がいいんですの……。
前世からの顔自慢は昨日もシルバーから聞いている。『シブヤ』だの『ギンザ』だのの基準は知らないし、知りたいとも思わないが……兄妹の仲がいいのは十二分にわかった。
――はじめ、二人の関係がわからずモヤモヤしていたのがバカみたい……。
わたくしはホッと安堵の息を吐く。ずっと胸に引っかかっていた棘が取れたような気持ちだ。それがなぜなのかはわからないけれど。
そんな間に、話は元に戻るらしい。
「まーそれで話が逸れちゃいましたが。転生特典として、女神さまから特別な能力をもらったんです。『ヤンデレと恋がしたい!』と‼ ……なので、あたしが入学した時から、その『ヤンデレコード』が発動したらしくってですね――」
独壇場で話し続けていたアイリーンさんのツインテールの片方を、シルバーは容赦なく引っ張った。
「解除しろ」
その低いどすの利いた声に、アイリーンさんは口を尖らせるだけ。強い。
「え~⁉ せっかくのヤンデレリベンジ攻略が……」
「喧しいわ! 実際この世界におまえごのみのヤンデレがいたのか?」
「それは――」
彼女は指折り数えながら再び語る。
・ブルーノ様は……義理とはいえ、兄妹ラブコメは兄貴を彷彿させて鳥肌もんだからナシ。
・イエーロ様は……暴力はいかん。論外であると。
・グリムヴァルド殿下は……まだ見込みはあるけど、これといった決め手はない様子。
・ラグリさん……これもまた素行が悪い。女に手を挙げるのは以下略。
・レッドモンド殿下は……赤髪嫌いなんだよなぁ。とのこと。
「なので、今は隠しキャラを探していて――」
「解除しろ」
「え~~?」
「ヤンデレ三人を管理しきれず殺されかけてたところを助けてくれた兄に恩義はないのか⁉」
「それでむりやり割って入って兄貴も刺されたじゃ~ん」
「尚のことだっ‼」
そのひときわ強い怒気に、アイリーンさんはしゅんと肩を竦めて。
うつむいたまま、小さく舌を出した。
「……ごめんちゃーい」
たとえ兄に頭を叩かれようとも、パチンと指を鳴らすアイリーンさん。
途端、シルバー以外の男性陣が膝を崩しかける。だけど、意識を失うまではいかなかったようで……全員すぐに姿勢を戻した。
とっさに駆け寄ろうとしていたわたくしに、レッドモンド殿下が片手をあげる。
「大丈夫だ。なんだか頭がすっきりしたよ……」
「レッドモンド殿下……」
「改めて、一度きみとの婚約を白紙に戻させていただきたい」
その、真面目な話に。
わたくしも居を正し、表情を引き締める。
明日の朝で完結です





