第30話 女と女の秘密の会話ですわッ!
そして、なぜかわたくしとアイリーンさんで仲良く手を繋いだまま、校舎の陰から中庭のあずまやを凝視する。
そこでは、シルバーが令嬢三人に囲まれてお茶をしていた。
「へぇ、キミはミルクちゃんっていうんだ? え、違う? でも俺の前だけそういうことにしておいてほしいかな。だって、俺だけの特別っぽいでしょ?」
「……ほんとにそんなことを言っているんですの?」
距離があるから、彼らがどんな話をしているかまで聞こえない。
代わりに……シルバーの口の動きを読んで、アイリーンさんが言語化してくれていた。なんか適当がすぎるようだが。
「一字一句合っているとは言えないけど、概ね正しいと思うよ。だってこれ、アニキが女口説く時の十八番だもの」
「そんな適当で靡く女性なんていないと思うけど」
「残念ながら、そーでもないんだなぁ」
そうして、アイリーンさんは指す。
“ミルクちゃん”と呼ばれた令嬢はうっとりと頬を赤らめていた。なんか解せない。
「……だとしても、彼の行動は理にかなっているんですの? 彼女らが首謀者なんですか?」
「んーん。あの子たちもリュミエールちゃんのこと面白くないと思っているようだけど、今回は違うかなぁ。だって特にミルクちゃんはなんかの事業でラムネリア家に出資協力してもらってるでしょ。さすがにそこまでバカじゃないっしょ~」
「意外とお詳しいですわね」
実際、ミルクちゃんの家の伯爵家の領地では、最近新しい鉱山が見つかった。だが残念ながら彼女の家に潤沢な資金がなかったため、事業開始金の援助をする代わりに、採掘された鉱石を割安で融通してもらえるよう契約をしたのだ。
ただ、ミルクちゃんの仲の良い右隣りの令嬢は少しだけ因縁がある。どうやらレッドモンド殿下に憧れていたようで……それで入学した直後に、少しだけトラブルがあったのだ。
――そのことで逆恨みのケースをシルバーは睨んだようだけど。
「お~っと。アニキは次の必殺技、手相占いを始めたようだね。あれはね~、占いとかこつけて女の子の手を握るのが目的なんだよ~。年頃の女の子は占いに興味あるコが多いからね。だからリュミエールも『オレ占いみれるよ?』なんて言ってくる男には注意してね。そいつは十中八九やましいことしか考えて――」
とても話が脱線しているが……。
わたくしはジッと熱心に話してくれるアイリーンさんを見やる。
だって今の話とて、なんやかんやわたくしの身を案じてくれたわけである。わたくしと友達になりたいというのも、あながち嘘とは思えなかった。正直仲良くなれるタイプかと問われたら難しいが。だからといって憎めるわけでもない。
だから、わたくしは尋ねる。
「あなたは……どうしてわたくしと仲良くしたいんですの?」
「あ、それ聞いちゃう~?」
すると、苦笑した彼女は口元に指を立てていた。
「まぁ……無難な答えからいけば、あたしたちって親戚なんでしょ? 同じガッコに通う親戚の女の子と仲良くしたくない理由なんてないよね?」
しかも「あたし腹黒いことなんかするつもりないし」と付け足すところから、やはりそれなりに敏い子のようである。親戚同士だからこそ揉めるなんて話、ごまんほどあるのだから。
「あとは昨日も言ったけど……別に乙女ゲーのヒロインと悪役令嬢がわざわざ憎み合う必要もないじゃん。まぁ、リュミエールちゃんは転生者じゃなかったにしろ……別にリュミエールちゃんに処刑してもらいたいほど憎んでるとか、そんな気持ち全くないし」
「はわわッ⁉」
――わたくしが処刑? なんで⁉
――どうしていきなりそんな物騒な単語が出てきますの⁉
たしかに「きゅるるん♡」などと高位なるお方に失礼な態度を重ねてはおりますが、命をとられるほどでは……あったのかしら。直接的に失礼なことは言ってないはずだけど……なにせ「きゅるるん♡」しか言っていないわけだし。レッドモンド殿下もそんなに短絡的な方ではない。……それに、甘えていたのかしら。
思わず考え込んでいると、アイリーンさんが半眼を向けてきた。
「そのオノマトペ、もう癖になってるでしょう?」
「……慣れたら、意外とラクでして」
「ほどほどにした方がいいよ~。最初はね~、それで男にチヤホヤしてもらえるかもしれないけど。でも単に玩具……愛玩にされているだけだから。男もいい加減なもので、最初は可愛いしてくれていても、自分の都合が悪くなるとすぐに『馬鹿なおまえが悪い』とか言ってくるからね。それに対してまともな人ほど離れていくから。あっという間に泥船化するよ~」
「肝に……命じます……」
胸が痛い。
こうあくまで『わたくしのために』と諭されてしまうと、非常に胸が苦しい。
罪悪感に胸を押さえていると、
「まぁ、その……なんだ? 転生者じゃないにしろ、ゲームキャラの一人なら嫌でも関わり合い出てくるからね。お互い幸せになれるように協力して損はないだろうってわけ」
アイリーンさんが自身の頬を掻いた。
「それにね、あたし結構リュミエールちゃん好きかも」
少し照れながら言うアイリーンさんが、とても可愛くて。
「裏表ないコね~、タイプなんだ♡」
そのウインクに思わず胸が高鳴ってしまう。
さすがシルバーの妹というべきか。そのあざとい動作がいちいち可愛い。
だけど、そんな新たな扉を開くのも……そう心の中で格闘していると、アイリーンさんが笑う。
「あたしは百合な趣味ないから安心してね~。タイプはヤンデレ一筋なんで!」
「えっ?」
その感嘆符の意味を問おうとした時だった。
アイリーンさんが立ち上がる。
「おや。そろそろイベントが始まるっぽいよ――次に行こ、リュミエールちゃん!」
そしてまた、わたくしたちは手を繋いで校舎の中を駆けるのだ。





