第28話 脅迫状(?)ですわッ!
「お嬢様は甘い物を欲しているんですよね?」
「コクコク」
一応、シルバーもわたくしの欲していたものはわかっていた様子。
だけど後手に回った分、どうこの素敵なパフェを上回るものを用意するのか。そもそも、わたくしも甘味への欲求は満たされてしまっている。お腹もけっこう膨れていますし、如何に挽回するのか……。
ジッと見つめていると、シルバーは不敵に笑う。
そして、彼は顔を近づけてきた。
「今日も俺のお嬢様は愛らしいですね」
「はわわッ⁉」
吐息たっぷりに耳打ちされた言葉に、思わず肩を跳ねさせる。
だけど、シルバーの猛攻は止まるはずがなかった。
「甘い物を食べて破顔する様、まさに天使かと思いました。俺をあの世に連れて行くおつもりですか? まぁ、お嬢様と一緒なら何処へでも共に参ります。もちろん、一人で行きたいのならお好きにどうぞ。だけど世界のどこへ行こうとも、必ず俺も馳せ参じますので。その心積もりだけは忘れずにいてくださいね」
「はわわわわ⁉」
「天国でも地獄でも、行きたい場所にご随意にどうぞ。どんな場所でも、俺は変わらぬお嬢様への愛を囁いてみせましょう。だけど、どうか他の男に余所見だけはしないで? その目を抉ってしまいたくなる……俺はお嬢様を傷つけたいわけではないんです」
「はわわわわわわわわわッ⁉」
思わずシルバーを見やれば、彼はにっこりと微笑んでいた。
「お腹いっぱいになりましたかね?」
――誰も糖分を言語化しろとは言ってませんわッ⁉
全力で「コクコク」と頷けば、シルバーは「それじゃあお昼は引き分けってことで」と勝手に勝敗を決めてしまう。
――それは反則なのでは⁉
だけど、わたくしはオノマトペしか話すことを許可されていないから。
やっぱり今日も、わたくしは文句を言えやしない。
――シルバーの前世での職業、何だと言っていたかしら……?
何かの分野で世界一だったと言っていたはずである。
あのペラペラと減らない口と、どこでも図太い神経……それが活かせる仕事はなんだったのだろうか。
そんなことを考えながらも、常に授業を受けるのが学生の本分なわけで。
先生が教室に来て、わたくしも何も考えずに教科書を開いた時だった。
「なっ……」
上げかけた悲鳴を、とっさに押さえる。
だって、その経済学の教科書の一ページに、こう書かれていたからだ。
【大好きなリュミエールちゃんへ♡ 今度二人っきりでお買い物に行きましょう。お友達になりたいです♡】
それはピンクのインクで書かれていた。だけど絵筆で書いたのだろうか、かなり立派な字体である。おかげでその下の文字が読めやしない。……基礎の基礎の部分なので、読めなくても何も問題ないのだが。
――だけど、それはどういうことですの?
これで物騒な文面でも書かれていれば、脅迫状やいじめとして大々的に声をあげることもできるのだが……なんだ、この無害で微笑ましい文面は。
――実は、何かの暗号が隠されていたり?
終業のチャイムが鳴るまで、わたくしはずっとそのピンクの文字と睨めっこしていたのだった。
結果『誰かの可愛らしい悪戯』以上の答えが出てこなかったわたくしである。
――不甲斐ないですわ……。
そう落ち込みつつも、一応目の前の不可思議な出来事を専属従者に報告するのも、自らの危機管理のひとつである。まぁ、その専属従者が現在二人いるのだが。
空き教室に連れてきてもらったシルバーとラグリさん。二人は真面目な顔で教科書のピンクの文字を見てから……先に動いたのはシルバーだった。
「犯人を連れてまいります」





