第27話 実際に食べたパフェは珈琲ぜり―入りでしたわ。
――せっかく今日はのんびり羽を伸ばせると思ったのに!
だって、殿下方が誰もいないのだ。強いて言えばイエーロ様が元気に登校しているが……朝の時間にわたくしの教室へ来た時も、コンスタンツェさんが隣にいらっしゃった。
先日の詫びとして、わたくしにレースのリボンを贈ってくださったのだ。職人が作った繊細なレースは宝石に並ぶ高級品。少量といえど価値のある代物だ。
なので詫びの品としては不相応だと断ろうとしたが、なんとコンスタンツェさんに教わってイエーロ様が作製したものだという。そのため、二人は昨日徹夜したのだそうだ。お揃いのくまがとてもお似合いで……わたくしは喜んで、その不格好なリボンを受け取らせてもらった。部屋に置いていある小瓶にでも結んでおこうかと思っている。
そんな微笑ましいエピソードがあったくらいだ。一応「きゅるるん♡」は続けておいたが、もうイエーロ様からのヤンデレの心配はないだろう。
他の方に対しては「きゅるるん♡」しない設定だったし、久々に頭の無駄遣いをしない一日を満喫しようと思っていたのに。
お昼休みの鐘が鳴った直後。
「リュミエールお嬢様、お迎えに参りました」
「お嬢様、授業中にお腹は鳴らさなかったですか?」
わたくしの元に、二人の従者がやってくる。
物腰丁寧なのがラグリさん。不遜極まりないのがシルバーである。
わたくしは前者に「きゅるるん♡」を、後者に「ぶーっ」を返してから、ラグリさんに椅子を引いてもらって席を立つ。
そう――なぜか、今日もオノマトペ生活を続けることになってしまったのだ。
理由は簡単。二人が従者勝負をすることになったから。
わたくしに仕えたいラグリさん。
当然(……であることは有難いのかしら?)、わたくし付き従者を下りるつもりのないシルバー。
そんな二人が見つめ合った瞬間に決まったらしい。
『それじゃあ、勝負しますか!』
――どうしてそうなるんですのッ⁉
昨日といい、今日といい。
どうして男というものは、こうも勝負が好きなのか。
しかも普通に仕えるのは勝負がつかないだろうと、『主の言葉なくして、意図を汲み取れるか』ということを焦点に充てることになったらしい。
そう――すなわち、わたくしは『きゅるるん♡』以外話すなと言われたのだ。
横暴である。それこそ、主を何だと思っている。
だけど、それに文句を言おうものなら、
『楽しんでいたのではなかったのですか?』
と、真顔のラグリさんに言われてしまい。
大笑いするシルバーの手前、断りづらくなったわたくしである。
そんなこんなで、「きゅるるん♡」するくらいなら極力喋らない方がマシ、とだんまり教室へ移動していた時だった。
廊下ですれ違ったアイリーンさんが、何かを察したのか一言。
「毎日ウケんね」
「うるうる」
こちらも冗談半分、四文字しか返す気が起きなかった。
そんなわけで昼休み、食堂で。
わたくしは二人を試さないといけないらしい。オノマトペのみで。
――またこれ、かなりの難題なのでは?
どうしてせっかくの「きゅるるん♡」休憩日に、頭を悩ませないといけないのか。
もしも、この勝負が一日で終わらなければ?
明日も無駄に「きゅるるん♡」しなければいけないのか。しかも、明日にはレッドモンド殿下やブルーノ様も戻ってこられる。ヤンデレを相手しながら二人の勝負に付き合うなど、御免こうむりたい。
それをまたシルバーに文句を言えば「自業自得」と笑われてしまいそうなので、口を閉ざし――ない頭で考える。頭を使う時には、甘いものが食べたい。
勝負になりそうなネタを与えるべく、食事を並べてくれているラグリさんを「じーっ」と見上げてみた。そしてチラチラと食事もみる。ランチということで、甘味が添え物程度の果物しかないのだ。同じような動作を、水を運んできたシルバーにも繰り返す。
すると、ラグリさんは「少々お時間をくださいませ」とすぐさま厨房の方へと歩いて行った。対して、シルバーは動かない。
――これは、もしや……?
先行きを考えながら、わたくしは大人しく食事をする。
静かな昼食など久しぶりである。ここ数日、ヤンデレと食べていたせいか、食べた気がしなかったのだ。やはり学園の食堂は味も一流。メニューが選べないという難点があるけど、これだけ高い味のレベルを維持しながら品揃えも増やすのは無理というものだろう。
だから、急に甘味を要求したとて、通常ならば売店で焼き菓子でも買ってくるくらいのものであるが……わたくしの従者は、一向にわたくしのそばから動く気配がない。
――本当に、従者交代もあるのかしら?
なんせ、ラグリさんは王太子殿下に仕えていた方なのだ。お父様に交代をお願いしたとて、うちが断る理由はないだろう。わたくしとしても、日常生活や今後こなしていくだろう業務に差し障る心配は何もない。むしろ余計な雑念が入らない分、あんなヤンデレ国王の相手だろうと身を引き締めて王妃業をこなしていけそうな気さえする。
――だから、もし……。
たとえ、シルバーがラグリさんに負けたとして。
――その上でわたくしが『シルバーがいい』と言ったら、どうなるのかしら?
勝負を馬鹿にするなと怒るのだろうか。それとも、そこまで見越した上で、シルバーは『負けない』勝負を挑んだのだろうか。
どうも話す相手がいないと、無駄に考え込んでしまう。
きっと、ここ数日のランチタイムが騒がしすぎたせい。
だけど、そんな食事ももうすぐ終わり。わたくしが最後のひと匙を口に運んだ時だった。
「お待たせしました」
ちょうどいいタイミングで、ラグリさんが戻ってきた。そのトレイの上には、小ぶりながら見事なパフェが乗っている。
「紅茶パルフェでございます」
目にも美味しいパフェだった。紅茶であろう茶色は一見地味ながらも、間のフレークの黄色や果物やアイスの淡い色がとても落ち着きながらも、一目で「美味しい」であろうことが窺える。
その統一感のあるパフェに匙を入れて、口に運べば。
わたくしは落ちそうになる頬をおさえずにはいられなかった。
「はわわ~ん♡」
「上に乗せたのは洋ナシのアイス。備えたのはマロングラッセでございます。中にはフレークや生クリームの他に生のベリーも混ぜており、酸味と触感によるアクセントとさせていただきました」
――なんて無駄のない解説……⁉
しかも「はわわ~ん」なんかで以心伝心できているし。これをシルバーに問おうものなら、『お嬢様への愛情です♡』とだけ言われるのが関の山である。有能執事、ありなのでは?
「こてん?」
「はい……ですが、作ったといえど厨房に残っていた材料をお借りしただけです。マロングラッセも売店の既製品ですし……大したことはしておりません」
「ふるふる。きゅるるん♡」
「恐悦至極でございます」
――とても『令嬢』している気分だわッ!
いや、まぁ「きゅるるん♡」していようが立場に変わりはないし。今も言葉にしているのは「きゅるるん♡」だけなんだけど。
それでも従者やヤンデレに散々振り回されて、正直、庶民以下の売女にでもなったような気分だったのだ。こんな茶番さえ乗り越えれば、待っているのは気品と規律のある令嬢生活だろう。
「それじゃあ、次は俺の番ですね?」
落ち着いたささやかな幸せに心を満たしていると、シルバーが動く。
タイトル変えてみました!
どっちの方がいいですか……?





