第23話 女同士のナイショ話ですわッ!
その後。どういうわけか、どんなに場所を移動しても。
「あ、またいるね」
必ず近くにいるシルバーとアイリーンさん。
そして必ず見つけてわたくしに報告してくるグリムヴァルド殿下。
――作為的な何かを感じますわ……。
それでも、昼下がりにようやくカフェ兼食事処で腰を落ち着けることができたのだ。
「そろそろ頃合いかな」
ぼそりと殿下の低い声が聞こえた直後だった。
「おーい! シルバーさーんっ‼」
可愛らしい少年声が、賑わう店内でひときわ響く。
当然、シルバーたちはその声に気が付いたらしい。
彼らは揃ってこちらに近づいてきては、それぞれ一礼した。
「リュミエールお嬢様、そしてグリムヴァルド殿下。本来ならこちらから挨拶するところ――」
「あぁ、堅苦しいのはいいよ。貴重なお休みを満喫しているかな?」
「はい、おかげさまで」
殿下が声をかけているのに、主君のわたくしがだんまりを決めているのはおかしいだろう。二人が気にしてくる中、わたくしの口から出たのは一番慣れたオノマトペだった。
「きゅるるん♡」
「ふふ、お嬢様も楽しんでるようで何よりです」
――これのどこが楽しそうに見えるんですの⁉
思わずシルバーを睨みつければ、隣にいたアイリーンさんが白々しく顎に人差し指を当てた。
「あたし、ちょっとお花を摘んでこようかなぁ」
そして座ったままのわたくしを見下ろせば、にやりと口角をあげてきて。
「リュミエールちゃん、付き合ってくれる?」
わたくしは無理やり立たされる。腕に絡められた手は、思いのほか強い。
「それじゃあ、ちょっとお借りしま~す」
――わたくしの意思は~⁉
そうして連れていかれた先は、女性用トイレ。
従者とではなく、令嬢同士で入っていく様に店員も驚いた様子を隠しきれていなかったけど……アイリーンさんは「お気遣いなく♡」とあっさり無視して、扉に鍵をかけた。
お店のトイレとはいえ、ここは貴族が通う学生の多くが利用する街のカフェテリア。トイレもきちんと貴族仕様になっており、まさにちょっとした豪奢な個室だ。便座周りはセンスのいいパーテーションで区切られている。
それでも気まずい思いでいると、アイリーンさんは腕を組んでわたくしを凄んできた。
「で? あんたは誰狙いなの?」
「……こてん?」
彼女の意図がさっぱりわからず小首を傾げてみせれば、アイリーンさんは舌打ちを隠さない。
「その下手くそなぶりっ子いい加減にしてくれない? ふつーに喋れるんでしょ?」
――まぁ、そうなりますわよね。
だって教室では普通に話しているから。この『呪い』は、殿下方の前だけ効力があるもの……という設定だ。
なので、わたくしも小さく息を吐いてから腕を組む。
「誰狙いとは、どういうことですの?」
「まったく、役まで徹底しちゃって……だから、あんたは誰ルートを狙ってるのか聞いてるのよ。悪役令嬢だって、まさか破滅したいわけじゃないんでしょ? あたしだって同じ転生者同士、別に陥れたいとかないからさ~。ここはお互いが幸せになれるように協力し合うのがベストだと――」
――本当に、何をおっしゃってますの?
ルート? 悪役令嬢? 転生者?
そんなまったく聞き馴染みのない……いえ、一つだけたまに耳にしていた単語がある。
――転生者……?
それは、シルバーがたびたび自分を語る時に出していた単語だ。
「て、転生者ということは……あなたはシルバーと同郷の方なんですか?」
「え、なにその反応……は? まさかあんた、現地人⁉」
またもや出てきたよくわからない単語・現地人。
――本当、彼らは異世界の住人か何かなのかしら。
そう頭を抱えていると、アイリーンさんは大口を開けてわたくしに指を突きつけてきた。
「はあ~~⁉ なんで現地のリアル悪役令嬢が逆ハーレムルート狙ってるかなぁ⁉」
「逆はーれむ……」
一度そう考えると、途端この意味不明な単語の羅列が親近感あるもののように思えてくる。そう、これはシルバーがよくする妄想話。いつも「はいはい」と聞き流していたものと同質と思えば……不思議なことに、この桃色髪の令嬢も彼と面影が似ているように見えて――
「え、じゃあ何? 兄貴はマジでモブのくせに悪役令嬢を落とそうとしてるってこと⁉ あ~もうめんどくさっ!」
そう吐き捨てるや否や、アイリーンさんは「あんたちょっと後回し!」とすぐに踵を返してしまった。
「えっ、ちょっと……しっかり説明を……⁉」
わたくしの手は彼女に届かない。
――兄貴って……本当にシルバーの妹なの⁉
急いでアイリーンさんのあとを追うものの、あっという間に彼女はカフェテリアへと戻ってしまう。その背中を追って……わたくしはまた目を見開く羽目になった。
まず、店員含めて他の客が一切いなくなっていた。
そして、貸し切りとなった店内で、
「男に二言はありませんね?」
「勿論。負けた方は二度とリュミエールに近づかない……ちゃんと守ってもらうからね?」
なぜかテーブルの上にたくさんの小さなグラスを並べたシルバーとグリムヴァルド殿下が、お互いを睨んでニヤニヤと口角を上げ合っていたのだった。





