第22話 油断大敵ですわッ⁉
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嫌われ大作戦七日目。場外戦。
「うわぁ、リュミエールの私服、久々だなぁ。綺麗だね!」
シンプルな賛辞を嫌味なく送ってくるグリムヴァルド殿下に手を取られて。
乗った馬車で向かう先は近くの繁華街だった。
私服といえど、ウィッグも着けて軽く変装をしている。
だってこれでも王太子の婚約者。将来の義弟であれど、あらぬ噂が立たない方がいい。
――シルバーには『婚約破棄を目論んでいる方が今更では?』って笑われたけど。
そんなシルバーには身支度だけ手伝ってもらい暇を出した。彼も今頃……恋人とのデートに向けていつもよりオシャレでもしているのだろうか。
出そうになるため息をグッと飲み込んでいると、横に座ったグリムヴァルド殿下がわたくしの黒い髪を指で梳いてくる。
「でも、ぼくはいつもの薄紫の方が好きだなぁ。今度は変装なんかしないでお出かけしようね」
――お断りいたします。
そう言ってやりたいが、今日の目標も殿下のヤンデレ化の原因を探ることだ。
可愛らしい見た目と裏腹に狡猾な殿下から、わたくしがオトマトぺだけでどこまで探れるかが不安だが……とりあえずわたくしは、この場を「にっこり」と躱す。
学園から少し離れた場所にある繁華街はそれなりに栄えている。
それもそうだろう。こうして休日ともなれば大貴族の令息令嬢らがこぞってお金を落としに来るのだ。むしろ大人を相手にするより見栄えがいい店が増えるのも必然である。
「何か見たいものはあるかい?」
それはまるで、本当のデートのように。
馬車を下りてから自然と手を繋がれ、当然のようにわたくしにお伺いを立ててくるグリムヴァルド殿下。もちろん、この握られた手はあんがい固くて、わたくしには振りほどけそうにない。
「ねぇ、リュミエールはアイス好き?」
視線の先に、新しそうなアイス屋があった。そういや、クラスの令嬢らはそんな噂をしていたっけ……そんなことを思い出していると、殿下が目を細めてくる。
「ちょっと待っててね」
そうして、念願かなってその手はすぐに解放された。従者に行かせればいいものの、グリムヴァルド殿下は手慣れた様子でアイス屋に話しかけている。
わたくしは空気のようにじっと控えているラグリさんを確認してから……小さくため息を吐いた。
――さて、どうしましょう……。
一応、まともに会話もできるように小さなノートとペンも持ってきている。
それで筆談に持っていくためにはカフェなどで休憩を持ちかけるのが自然だが、着いて早々休憩というのも不自然だろう。ただでさえ、これからアイスを食べるのに。
――少しだけ適当に散策に付き合ってから。
あっというまにグリムヴァルド殿下が戻ってきてしまう。その手に持っているアイスはひとつだけだった。
「こてん?」
「ぼくは甘い物が好きじゃなくってさ」
――初耳ですわね。
正直今まで親密な交流がなかった相手だ。食の好みもほとんど知らない。
それでも言葉少なく会話が通じるのは、さすが殿下と感心すべきか。
殿下から「どうぞ」と差し出されたピンク色のアイスはベリーのほのかな酸味が効いてとても食べやすい味をしていた。ミルクの濃厚さと相まってとても美味しい。
「きゅるるん♡」
「気に入ったようで何より」
そんな和やかな会話(?)をしていると、
「あ、ほら。奇遇だね」
殿下が指した先に、見覚えのある二人組がいた。
シルバーとアイリーンさんだ。
二人とも私服だった。アイリーンさんは生成りのワンピース。シルバーは茶系のベストに同色の編みブーツ。わたくしのように変装しているわけでなく、ごく自然なオシャレをして歩いていた。
彼らは従者を連れていない。アイリーンさんもヤッターメン家の令嬢ということで従者はついているはずなのだけど……学園内でも見かけたことがなかった。不仲なのだろうか。
そんなわたくしの心の中を読んだかのように、殿下が話してくる。
「アイリーン嬢はヤッターメン家からの従者提供の申し出を断ったらしいよ。自分のことは自分で出来るからと……不思議な子だね」
彼女を見つめる目が、好奇な色を隠していなかったから。
――それなら、彼女を目にかけてやっては?
わたくしが少しだけ眉間に力を込めれば、こちらに向き直ったグリムヴァルド殿下が小さく笑う。そして、わたくしの食べかけのアイスをペロッと舐めてきた。
「残念でした。興味があるのと、手に入れたい欲求は別腹なんだよね~」
――あなた、甘い物はお好きじゃないのでは⁉
思わず「はわわ⁉」と目を見開けば、殿下はくつくつと笑う。
「あ、別に甘い物も苦手じゃないよ。リュミエールの食べかけなら食べたくなっただけ」
美味しいね、と笑う可愛らしい狡さに、わたくしは思わずアイスを落としそうになった。





