第17話 あなたの嗜好など知りませんわッ!
そうして、その日も寮の部屋へと戻り。
わたくしは制服の上着も脱がずにベッドに寝転んだ。
「あ~、とっても疲れた一日だったわ……」
「ご安心ください。まだ倒すべきヤンデレ戦隊は二人います」
半分ですよ、と微笑むシルバーはテキパキとお茶の用意を始めた様子。
その光景をぼんやりと眺めながら、わたくしは思わず愚痴た。
「彼らが戦隊ということは……わたくしが悪役なの?」
「男を不必要に誑し込む時点で悪女では?」
「誰も誑し込みたくてしているわけじゃないわッ!」
むしろ、わたくしは嫌われようとしているのに!
今日のイエーロ様がどう転ぶかは明日にならないとわからないけれど。今日できることはやったはず。頑張った。何を頑張ったかと言われたら……自分で何したのか思い出せないけれど、とにかくこんなに疲れ果てるほど頑張ったのだ。少しは成果があってほしいものである。
お茶のかぐわしい香りを鼻腔で楽しみながら、ぼんやりと今日の出来事を思い返す。そしてぼそりと、わたくしは零した。
「わたくし、明日から被虐令嬢とでも揶揄されてしまうのかしら?」
「ぷっ」
それにシルバーは茶葉を入れながら吹き出した。
「元からあんな不器用なぶりっ子しておいて、どMと言われる方がお嫌なのですか?」
「それはそうでしょう⁉」
「誤差だと思いますけどね」
お湯を入れたポットに蓋をしたシルバーは「それなら」と小さく笑うとジャケットを脱ぐ。そしてわたくしが寝そべるベッドへ近寄ってきたかと思えば、わたくしの上で、四つん這いになるように乗っていて。
「えっ」
わたくしの上でシルバーは真面目な表情で首元のネクタイを緩める。その首元から覗く赤い首輪と鎖骨に、思わず唾を飲み込んだ時だった。
まばたきする間に、視界が反転する。気が付いたら、彼はわたくしの下でベッドに寝そべっていた。わたくしは彼のお腹の上に座っている状態。
「きゃっ、失礼……」
「どうかそのままで」
とっさに下りようとしても、シルバーに腰を掴まれて動けない。
彼はうっそりとわたくしを見上げる。
「本当はね、俺、女性に踏まれる方が好きなんですよ」
「えっ」
突然の性的嗜好発言に、思わず言葉を失くしても。彼はゆるく目を細めるだけ。
「だって俺の上で、俺を虐げていると悦に浸らせてもらっている女を間近で見上げることができるんですよ。こんなベストポジションはないでしょう?」
「あ、えーと……」
ふと思い出すのは、夕方のアイリーンさんの言葉だ。
『どSのSはサービスのSっ!』
その理解してはいけない恐怖から本能的に逃げようとしても。
「もうこのまま最終手段、シてしまいましょうか」
シルバーが腰を強く抱き込んでしまうから、わたくしはそのままシルバーの上に倒れるしかできない。そして、彼はわたくしの耳元でくつくつと笑ってくる。
「赤くなりすぎ……冗談ですよ」
ぱっと手を離されて、わたくしはようやくシルバーの横に転がる。
ベッドから起き上がる気力もない。ただただ、熱い顔を押さえるだけで精一杯だった。
「もうシルバーなんか嫌いよッ!」
「ははっ、俺はお嬢様のことが大好きですよ」
――もうっ、もうっ!
隣でお腹を抱えて大笑いするシルバーに、わたくしはゴロンと背を向けた。





