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02 異世界からの迷い人たち

2023・10・25に書き直しました。

 いつの間に寝てしまったんだろう?……目を覚ましたフィヨルは見知らぬ部屋の中にいた。

 一瞬だけ、目を開けてすぐ閉じる。人がいた気がした。


 さっきまでは土の香りがする山の中にいたのに、いまはひんやりとした石の床の上にいる。

 倉庫だろうか……湿度が高くジメっとしていてかび臭い。

 部屋の広さに対して明かりが足りないのか、部屋の中は薄暗かった。


 近くに人の気配がした。

 もう一度ゆっくり目を開ける。

 〝ここはどこなんだろう……この人たちは一体〟近くにいた大人たちを見て、僕は唖然とした。

 オカシなほど統一感のない服装をした四人の大人が、僕の目の前にいたのだ。

 初めて見る服装が多い、長い袖の服を着た人もいれば、袖の無い服を着た人もいる。中には鎧姿の人まで。


 僕はどこにいるんだろう?不思議だった。


 体が動いてしまったんだろうか、四人の大人たちの視線が僕に集まる。

 緊張から自然と鼓動が早くなった。

 部屋は広いが、窓どころか家具ひとつない。

 部屋にあるのは階段とその上に扉が一枚、壁には松明がさしてあり〝めらめら〟と燃えている。

 かび臭さの他には、松明用と思しき癖のある油の匂いがした。


 僕以外子供は誰もいない。

 僕は、この四人に攫われたのだろうか?


 もちろんそこには、僕がいま一番に会いたいと願うエミル(にい)の姿はなかった。


 〝エミル兄に会いたいよ……〟悲しくて涙が出そうになる……そう思った瞬間、僕の中で何かが弾けた。〝エミル兄って誰だっけ……僕のお兄さんだよ……ね〟何が起きたんだろう。怖い。

 ずっと泣いていたせいか、目の下はまだ濡れたままだ。どうしてだろう、いまは泣きたいとは思わない。悲しいとも思わない。

 心は気持ちに反してすっきりしている。


「おっ、坊主、目が覚めたか……大丈夫か?」

「おじさんたちが、僕を攫ったんですか」声が震えた。

「違う、違う、俺たちも被害者だ。ここにいるのは全員被害者なんだ」


 目の前にいたおじさんが、慌ててそう言った。

 僕がその場でじっとしていたからだろう、四人が僕の近くに集まってくる。

 四人は服装どころか肌の色や顔の作り、髪の色まで違う、目の前にいる四人はすべてがばらばらなのだ。

 四人の会話から時折〝異世界召喚〟という聞いたことのない言葉が漏れる。異世界召喚って何なんだろう?僕の頭の中にその単語がこびりついた。


「坊主が俺たちを見て怖がるのもムリはない。でもな、俺たちも知らないうちにここにいたんだ。信じてくれ、自分がどうやってここに来たのか分からないんだよ」


 四人は僕を囲むように近くに座った。一人が僕に向けて手を伸ばす。〝殴られる〟思わず目を瞑って身を固くする。男の手は、僕の頭の上に乗ると優しく左右に揺れた。

 撫でてくれた。


「怖がらせてしまったんなら謝る。ごめんな」


 ――悪い人ではないのかもしれない。


 僕は自分が体験した出来事を頑張って伝えた。

 地面に光る沢山の円と幾何学模様、見たこともない文字や数字らしきものが浮かんで、そしたら急に光に包まれてすぐに暗くなって、目が覚めたらここにいた……覚えていることを全部話した。

 驚くことに全員がここに来る前、同じ目に遭っていた。


「あの……異世界召喚って何ですか?」


 大人たちの会話に登場した知らない言葉について質問する。


「それは、俺から説明するよ、俺は地球っていう星から来たんだ。そこで流行っている物語(ラノベ)に、人を別の世界に呼び出すって内容のものがあってな、その呼び出す手段を物語では『異世界召喚』って呼んでいるんだ。俺が見た地面に浮かんだ光の円や文字が、その物語に登場するものによく似ていて、あくまでフィクションだから自信はないけど、俺たちは異世界に召喚されたんじゃないかって思ったんだ」


 説明した男は、僕の次に年が若かった。そうはいっても二十代くらいだと思う。


「まっ、こいつがいう異世界召喚かどうかは分からないが、この部屋を見る限り、俺たちが人為的に連れてこられたことは間違いないと思う。扉には外側から鍵がかかっていて、出られないしな」


 そう話したのは一番年上に見える。重そうな鉄の鎧を着たオジサンだ。


「てか、坊主、この状況で泣かないなんて偉いな」

「不思議なんです。怖いはずなのに辛いとか悲しいとか、強い気持ちが急に消えちゃって……」

「随分としっかりした子だな」

「しっかりしているのは確かなんだが、この状況で、みんな妙に落ち着いてないか、これっておかしいだろう?俺たちは見ず知らずの国にいるんだぜ。別の国どころか、まったくの別の世界に来ているかもしれないんだ。それなのに誰一人騒ぐでも泣くでもなく、こうして冷静に話が出来ている。しかも、こんな子供までもがだ」


 男の言葉で、全員が自分たちの異常さ(おかしさ)に気が付いた。こんなおかしな状況の中なのに全員が落ち着き()()ている。

 それが分かったところで、何が出来るわけでもないのだが、〝せっかくだし、みんなで自己紹介しねーか、名前くらい知らないと不便だろう〟その一言で、自己紹介をはじめようとしたが、自分の名前は憶えているのに、それを口に出すことが出来ない。


「あの……思ったんですが、名前を言えないのも、私たちが妙に落ち着いているのも、全部魔法のせいではないでしょうか」青い髪をしたお兄さんが手を挙げた。

「魔法、なんだそりゃ?」

「私がいた世界には、魔力を使って奇跡を起こす力があって、その力のことを魔法と呼ぶんです。凄い人になると他人の記憶を書き換えたりもできるんですよ」

「こえー力だな」

「そうなんです」

「魔法の話は後にしようぜ、名前が無いとお互い話しにくくて仕方がない。先にこの問題を解決しないと」


 異世界召喚について説明した男が、二人の話に割り込んだ。

 鎧を着た最年長の男も〝それもそうだな、呼び名くらいは決めておこうぜ。でも、何がいいかな、そうだ!お互い恨みっこねーよーに坊主に全員のあだ名をつけてもらおうぜ〟と提案する。

 僕以外の四人は、それに賛成した。

 確かに名前が無いと話しにくいけど、でも、どうして僕があだ名を付けることになるのさ。

 グヌヌヌヌ、納得出来ない。

 五人の中で唯一の子供という理由だけで、僕のあだ名は〝ボウズ〟で決まった。


 僕の次に決まったのが鉄の鎧を着た〝ヨロイさん〟である。理由は鉄の鎧を着ているから、ヨロイさんは最年長の四十七歳、この中では一番背も高く体が大きい。唯一、武器らしい武器も持っており、あだ名と共に満場一致で暫定リーダーに決まった。

 僕も一緒になって〝パチパチ〟と手を叩く。


 次は、異世界召喚について話してくれたお兄さんだ。あだ名は〝ネクタイさん〟理由は、お兄さんの首にネクタイという不思議な布が巻かれていたからだ。

 見たこともない服を着ているので、なんて名前の服なんですか?と質問したところ〝この白いのはYシャツで、下の黒いのはスラックスって呼ばれているかな、首のこれはネクタイだ〟と話したのでネクタイさんに決めた。

 彼は地球という世界からやって来た二十七歳の会社員なのだそうだ。


 次にあだ名が決まったのが、僕の次に背の低い魔法について教えてくれたお兄さんだ。

 あだ名は〝ローブさん〟年齢は二十九歳で、髪の色がきれいな青い色をしている。ローブさんにするかアオさんにするかで最後まで悩んだ。


 最後が、半袖を着たおじさんで、あだ名は〝ナガグツさん〟である。

 理由は、ここに来る前、雨が降っていたらしく、長靴という名のつるつるしたブーツを履いていたからだ。

 服装はTシャツに短パンという薄手の服で、ネクタイさんと似た世界から来たと彼は言う、年齢は三十六歳である。


 みんな自分のあだ名に思うところがあるようだが、一時的な名前ということと、子供である僕が決めたあだ名ということで、文句を言わずに、気持ちも無理矢理飲み込んだようだ。


 その後五人でこれからについて話し合った。


 といっても、僕は意見を出さずに聞いているだけなので、実質、僕以外の四人の話し合いである。

 最初に話し合ったのが、壁にある松明について、いつ人が来るかも分からない状況だ。少しでも油を節約した方がいいという話になった。

 だからといって、真っ暗なのは困る。

 松明より油の持ちがいい、僕の持っていたランプに火種を移すことになった。


 次にみんなが持っている食べ物を集めて量を確認した。

 持って二日か三日か、とヨロイさんが呟く。

 最初は、リーダーであるヨロイさんが食べ物を全部預かって管理するって話になりかけたのだが、取り合いになったら怖いという理由から、食べ物は各々が持ち、必要な時に分け合おうという話で落ち着いた。


 その後、気を紛らわすように、それぞれ自分のいた国の話をしようということになった。

 まったく知らない異国の話というのは、聞いているだけでも面白いしワクワクする。特に見たことがないモノの話は、どんなモノなのか想像するだけでも楽しかった。


 それから、暫くして、頭上から数度大きな音がした。その度に部屋が大きく揺れる。


「爆発か……」


 ネクタイさんが呟いた。ナガグツさんも同意見のようである。

 僕らは部屋の中心に固まり音が止むのを待った。

 じっとしていたせいだろう、僕らは知らず知らずのうちに眠ってしまった。

 みんな精神的に限界だったのかもしれない。


 ・・・・・・


「ボウズ起きろ……起きるんだ」ヨロイさんが、僕の体を大きく揺らす。

「おはようございます。ヨロイさん」


 四人は僕を守るように立っていた。


「全員起きたみたいですね」


 女性の声だ。

 眠い目を擦りながら声の主を探す。

 そこには、ヨロイさんよりも上等な鎧と兜で身を包んだ、物語に登場しそうな大勢の騎士たちが、僕らを囲むように立っていた。

読んでいただいてありがとうございます。

面白い、続きを読みたいと思った方は、ぜひブックマークと評価をよろしくお願いします。

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