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伽羅様のクラブ活動

「そろそろかしら?」


 私は1人、大学のカフェテリアで愛しいあの人が来るのを待つ。

 早く来ないかな?

 本当に待ち遠しい。


「明日美先生!」


「あ...来た」


 元気に手を振りながら走ってくる愛らしい姿に胸が高鳴る。

 長袖のパーカーにジーパン、ラフな格好なのに伽羅様の姿は天使の様。


 私が合格祝いにプレゼントしたキャンパスバッグをテーブルに置き、伽羅様は向かいに座った。

 ...本当は隣が良いんだけど。


「こんにちは伽羅様」


 一年先輩らしく振る舞う。

 顔、赤くなってないわよね?


「午前の講義はどうでした?」


 伽羅様は一時限目から授業を受けていたので、二時限目からの私は気になって仕方無かった。


「うん楽しかったよ」


「良かったわね」


『楽しかった』か。

 そうじゃないよ、私が居なくて寂しく無かったかを聞きたいのに。


「明日美先生達のお陰です」


「あら、もう先生じゃありませんよ」


 ペコリと頭を下げる伽羅様。

 もう家庭教師は終わったんだけど。


「そっか、まだ抜けないな」


「はいもう一回」


 意地悪じゃないよ、名前で呼んで欲しいだけだから。


「...明日美さん」


「呼び捨てで良いのに」


 思わず本音が出てしまった。


「そんな、僕の名前には様をつけてるのに...」


「ダメかしら?」


「明日美...さん」


 照れ臭そうな伽羅様、気づいたら私は身体を乗り出していた。


「な...なんでもありません」


 慌てて座り直すがもうダメだ。

 取り繕う事が出来ない。


「あらあら青龍さん」


「本当、明日美ったら」


「あ、優里さん!」


 笑顔で優里さんの名を呼ぶ伽羅様だけど、後ろで寂しく見てる黄龍さんを忘れていても良いのかな?


「伽羅くん、私は?」


「ごめんなさい、黄龍さん」


 伽羅様ちゃんと言えたね、一安心。


「...違う」


「え?」


「何が?」


 呻き声を出す黄龍さん。

 何が違うの?


「...由美」


「「先輩?」」


「ちゃんと由美って呼んでよ!

 青龍さんと朱雀さんは名前で呼んだのに!」


 そっちか!

 私と優里さんは意外な黄龍さんの言葉に唖然とした。


「いや...さすがにそんな」


 言い淀む伽羅様の気持ちは分かる。

 だって私と優里さんは伽羅様の婚約者候補。


 対して黄龍さんは大学の警備等で、色々と便宜を払って貰ったが一先輩、学生自治会の会長としてだもの。


 でも黄龍さんのお婆様が伽羅様の為に大学の警備費を3倍に増額してくれたのは本当に助かった。

 お陰で不審者は大学に立ち入る心配は無くなった訳だし、後は通学の危険だな。


「後生のお願いだから」


「そこまで?」


 凛々しい先輩と思ってたんだけど、今の黄龍さんは恋する乙女そのもの、分かるけど。


「...由美さん」


 恥ずかしそうに呟く伽羅様。

 なんて愛らしい姿。

 私と優里さんは嫉妬する事さえ忘れていた。


「ありがとう...」


 嬉しそうな黄龍さんに思わずホッとしてしまう私達でした。


「それで今日は?」


「そうでした、ようやく準備が整いましたの」


 伽羅様の言葉に咳払いをする黄龍さん。


「準備?」


「クラブ活動ですよ」


「本当?」


 伽羅様は思わず立ち上がりました。

 でも大丈夫でしょうか?

 伽羅様の加入を巡ってクラブやサークルが引き起こした大騒動は記憶に新しいです。

 公平を期する自治会のメンバーさえ、我先にと手を挙げた程でしたし。


「危険分子は全て排除しました。

 このクラブは安全です」


「ありがとうございます」


 黄龍さんは1枚の紙を伽羅様に手渡します。

 そこには3つのクラブ名が書かれていました。


「演劇サークルに弓道部、後は空手部か」


「やった!」


 空手部があった事に喜ぶ伽羅様ですが、心配です。

 だって北陵大学の空手部って、


「黄龍先輩、空手部ですが...」


「大丈夫よ、確かに北陵の空手部はフルコンタクトありの実践的で強豪です。

 しかし伽羅くんの安全は保証しますわ」


「はあ...でも」


「やっぱり心配よね、明日美」


 優里さんも心配そうですが当然でしょう。

 万が一、伽羅様に何かあれば私達は一生許しません。

 例え黄龍家といえど、ただでは済ませませんからね。


「明日美さん優里さん、僕行きたいんだ」


「伽羅様」


 そんな潤んだ目で見ないで...


「それじゃ、今から貴女達も来なさい」


「はい?」


「来るってどこに?」


「伽羅くんと空手部によ、先ずは体験入部だから」


「今からですか?」


 見られるのは嬉しいけど、いきなり過ぎない?


「今日は道着を持ってきてないです」


 ほら伽羅様もそう言ってる。

 他人の道着なんか着せる訳にいかない。

 第一、こんな可愛らしい伽羅様に合う道着なんか滅多に無いだろう。


 それじゃ女子部員の?

 とんでもない!!


「安心なさい、伽羅くんの道着は新品をこちらで用意してますから」


「いつの間に...」



「ありがとうございます、由美さん」


「ハゥ!!」


 熱を帯びた伽羅様に黄龍の嬉しそうな顔、この女狙ってたな...と、いけない!


「的にしてやろうかしら...」


 優里さんは更に怖い事を、そういえば彼女は弓道部だったね。

 私は何もクラブに入って無い。

 大学には薙刀部が無いのだ。

 せっかく15年も続けて来たのに。


「さあ行くわよ」


「はい!!」


 さすがは黄龍家の人間、私達の殺気を気にする事無く歩き出した。


「ここよ」


 大学の敷地に立つ武道場、ここが空手部の練習場か。


「お、来たな」


 扉を開けると黒帯を締め、道着に身を包んだ男性が凄い笑顔で待っていた。

 190近い長身、鍛え抜かれた身体、一目で分かる。

 彼はただ者じゃない。


「伽羅くん、彼は空手部主将の阿邉(あべ)よ」


「教育学部4年の阿邉孝和(あべたかかず)だ。

 話は黄龍から聞いた、宜しく」


「よ、宜しくお願いいたします」


「オゥ!」


 何で後退る?


『ダメだ、コイツは』

 私の直感がそう叫んでいた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 大学に嵐を呼ぶ男。
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