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僕は伽羅、大学1年です。

「行ってきます!」


「いってらっしゃい」


 お母さんの声に送られ家を出る。

 愛用の自転車に乗って一路駅まで急ぐ。

 なにしろ初めての電車通学、高校までずっと歩きで行ける範囲だったから、一時間の通学はまだ慣れない。


 念願叶って北陵大学に受かって早1ヶ月、大学生活にはようやく慣れてきたと思う。

 なにしろ高校と全く違うのが大学なんだ。


 初めての講義を受ける為に入った教室に明日美さんが座って居たのはビックリした。


『教養科目は1年生から4年生まで一緒の授業は珍しくないですよ』


 驚く僕に明日美さんは微笑みながら教えてくれた。

 明日美さんが同じ経済学部で良かった。

 僕の高校から北陵大学に進んだ人は数人居たけど、友人と呼べるくらいは親しく無かったし...

 あれ?僕って親友が居なかったのかな?


 そんな事ないよね?

 明日美さんや優里さん、それに大学受験の時お世話になった黄龍由美さんは大切な友達だし。

 でも黄龍さんのお婆ちゃんと何度か会ったけど、僕のお婆ちゃんと知り合いみたいだった。


 一度お婆ちゃんに聞いたんだけど。


『そんなババアは知りません』


 そう言ってたけどね。

 あれは怖かった。


「いけない!」


 駅の階段で立ち止まっていたら電車の発車を知らせるメロディが聞こえた。

 この電車を逃したら不味い、一時限目の講義に遅れちゃう。


「ふう、間に合った」


 なんとか扉が閉まる前に乗ることが出来た。

 駆け込み乗車はダメだから、危ないところだった。


「あれ?」


 車内を見ると周りは全て女の人。

 どうやら間違って女性専用車両に乗ってしまったみたいだ。


「すみません、間違って乗っちゃったみたいです」


 隣の車両に移ろうと連結部の前に塞がる様に立っていた若い女性に声を掛ける。

 知らない人に声を掛けるのは勇気がいるけど、これは仕方無い。


「あ、え?嘘...男の子?」


 僕を見て女の人は驚いてる。

 やっぱり恥ずかしいね。


「はい...ごめんなさい」


 気まずい空気を払いながら女の人をすり抜け隣の車両へと移った。


「...うわ」


 隣の車両は満員だった。

 これじゃ150センチしかない僕の身体は揉みくちゃにされるだろう。

 しかし戻る訳にもいかない。

 僕は肩に掛けたキャンバスバッグを下にして足を進めようと...


「ダメよ」


「え?」


「早くこっちにいらっしゃい」


 さっきの女性が僕の腕を掴み、元の女性専用車に引き戻した。


「え...でも」


 確かに女性専用車の方が空いてるけど、僕は男だよ?


「良いわよね?」


 女性は周りの人達に声を掛けた。


「「「「もちろん!!」」」


「...ありがとうございました」


 一斉に頷かれたので僕は大人しく従う。

 だって隣の車両は怖いんだもん。


「良いのよ」


「さあ座って」


 別の人が席を譲ってくれた。

 そこまで好意に甘える訳には...


「そんな、良いですよ」


「ダメよ、女性専用車も危険だから」


「...はあ」


 譲ってくれた人が耳元で囁く。

 よく分からないがここも従おう、だって真剣な顔で言うんだもん。


「へえ大学生なんだ」


「はい、一年です」


「そっか、頑張ってね」


「はい!」


 譲ってくれた女性と軽く会話を交わす。

 さっき引き戻してくれた女性と知り合いみたいで、目配せをしながら僕の前に壁を作ってくれた。

 きっと僕が男だって事が周りにバレない様に気を遣ってくれてるのだろう。


「ありがとうございました!」


 目的の駅に電車は着き、僕は降りる前に女の人達に頭を下げた。


「明日も待ってるから...」


「ダメでしょ!

 ごめんね、次はもっと空いてる時間の電車にしなさい」


 不思議な会話をしてるけど、僕は聞かなかった事にして、親切な女の人達を見送った。

 この事は明日美さん達には黙っておこう。

 だって明日美さんや優里さんはタクシーで大学に通っている。


『電車は危険よ、なんなら一緒に通う?』


 何回も言われた。

 そういえば黄龍(由美)さんは、


『家でハイヤーを用意致しますわ、そっちの方が安心です』


 さすがに遠慮した。

 だって通学も含めて大学生活を楽しみたいからね。

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[一言] 痴漢電車か。
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