表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

002.dat 目指しまSHOW!!


 神姫しんきロウ。銀髪で平常時の顔から判断するとやや無表情気味で中性的な見た目。自己紹介のサンプルボイスが用意されていたが、声もこれまた中性的な感じで性別を判断するのが難しい。声も含めて判断すると、ダウナー系というよりは表情が硬いだけかもしれない。


 まあ、どっちでもいいのだが。

 どうせ推すし。


 キャラクターとしては、元々は人形の国のお姫様だったのだが魂が宿って人間になった……という設定。

 実際の会話内容から単語を拾っていくと――勉強、部活、宿題、小遣い――学生だろうと類推される。中高生、もしくは大学生でいずれにしても十代という結論に至る。

 所謂『中の人』は、普通の子。

 現実世界に居場所がないわけでもなく、かといって一攫千金を目指しているわけでもなく、流行りに乗じて始めてみたというありふれた理由でなんとなく続けているらしい。


 これはVライバーに限らず、本家のVTuberにもよくあることだ。

 キャラ設定、つまり『なりきりキャラ』とでも言うべきか。もっと噛み砕いて言えば『ごっこ遊び』だ。それを演じているリアルな中の人と表にいるCGキャラクターは別人であり、キャラクターにはキャラクターの設定があるのだ。

 ここでいえば『人形の国の姫』がそれにあたる。自分で好きな設定を作り、キャラに加えていく。姫、というのだから便宜上彼女とするが、彼女は人形の国の姫である『神姫ロウ』を演じているのだ。

 もちろん表向きのキャラの性別と中の人の性別が一致しなければならないということはない。男が理想の女の子を演じることもあるだろうし、逆もまた然り。


 そして難しい話だが『お約束』というものがある。

 つまりキャラとしての設定は存在するのだが、それは絶対に演じ切らなければならない台本のようなものではなく、むしろ台本通りに演じないことでキャラの個性を出す、という手法が一般化している。


 具体例を上げれば、神姫ロウが「今日は宿題がたくさん出た」と言ったとする。それに対して「おいおい人形の国の姫が学校に行ってるのかよ」と突っ込みたくなるのだが、それは野暮だ。

 もちろん「人間になったんだから学校にも行くさ」と反論してくるかもしれないし、それに対して「どうやって手続きしたんだよ。保護者は誰だよ」などと深堀りすれば設定の破綻は次々と見つかる。

 それらはもちろん中の人のプライベートの出来事であって、神姫ロウ自身の出来事ではない。しかしそういうチグハグさ、というか人間らしい不完全さがある方がウケが良いのだ。

 完璧なキャラ設定を心がけるとそれを崩したくなるような視聴者リスナーというのは一定数存在しているらしく、完璧を演じるよりも等身大の自分を演じた方がよりVライバー『らしい』のだ。


 身内のノリという表現があるように、理解するまで時間がかかる。

 だからいきなり相手の配信に参加しても頓珍漢な行動をしてしまう可能性がある。そのため最初は匿名で潜り込み、他の常連との会話を見て学習する必要がある。つまり「ROMる」というやつだ。……今どきはそんな言い方しない? そうなのか。



「あ、名無しさんいらっしゃーい」

 名無し、とは自分のことだ。毎回そうなので、デフォルト名だろう。

 今日は他にも三人ほど参加していた。全く無名というわけでもなさそうだ。


「あのねー、今目玉焼きには何かけるかって話してたんだ。名無しさんは何かける? 私はしょう油派!」

 普段食べないからわからないな。何もかけないと返しておこう。


「あー、そうなんだー……」

 マズイ、彼女のテンションが下がっている。どうしよう。そうだ、統計的に一番多いのは醤油派だと伝えよう。

 多数派だから大丈夫だぞ、醤油派の姫君。

「へー、そうなんだ。あっ、励ましてくれたの? ありがと。姫様がんばる」

 何とか機嫌を取ることに成功したようだ。

 時々設定を思い出させるようなワードを伝えるとテンションが上がるようだ。


 それからしばらく、誰も何も発言しない。音声通話アプリではないので、しゃべるのはVライバーだけだ。視聴者は文字によるやり取り、つまりチャットで反応するしかない。

 無音の時間が続くこともしばしばあるが、その静寂さえも楽しめてこその視聴者である、とどこかの誰かがライブ配信アプリの楽しみ方をレクチャーしていた。


 配信時間も人によって、また時と場合によってまちまちだ。1~2時間も配信する人もいれば、15分だけ配信と銘打って配信する人もいる。毎日決まった時間に配信することを目的に頑張っている人もいる。



『そろそろ抜けるわ』

 愚連という参加者が書き込んだ。

「あっ、そうなんだ。こないだはありがとう。また行くね」


 忌魔きま愚連ぐれん。彼もVライバーらしく、神姫ロウが彼のところにリスナーとして訪問した時のことを言っているようだ。

 相互フォローというらしく、Vライバー同士がお互いの配信に参加しているのだ。小さなコミュニティでは珍しいことでもない。


『おう、待ってるぜ。なんたってロウは俺の最推し(・・・)なんだからよ』

「ふふっ、嬉しいこと言ってくれるなぁ」


 何とも親密な様子を見せつけてくれるものだ。

 どうやら一番親密になることを『最推し』と言うらしい。


 なるほど。



 つまり、神姫ロウの『最推し』になるためには、自分もVライバーになるのが一番手っ取り早いのではないだろうか。


 ――やろう。


 思ってからは早かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ