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お父さんが守り続けたもの  作者: カサハラケント
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お父さんが守り続けたもの

『お父さんが守り続けたもの』




私には息子がいる。名前は「しんご」。



私は、しんごにひとつだけ隠しごとをしている。


実は、私としんごは、血の繋がりがない。



つまり、しんごは私にとって実の息子ではない。

しんごは、妻の連れ子だったのだ。



妻が病気で亡くなった今、しんごは私が一人で育ててきた。



という事実は、しんごが小学校に上がった時にすでに話している。

しんごも割とすんなり受け入れた。


私がしんごにしている隠しごと。


それは・・・





私がまだ「童貞」であるということ。





え?と思うのも無理はない。

理由があるのだ。理由が、あるのだ。



話を続けよう。


あれは、しんごが小学3年生になった時のことだった。



今でも忘れない夏のある日。

学校からの帰宅しな、しんごは私にこう質問してきた。



「ねぇねぇお父さん、ドウテイってなぁに?」


「なっ!?」



私は、想像もしていなかったしんごの質問に慌てふためいた。



「ど、どうした急に?」


「ドウテイだよ!ドウテイ!」


「そ、それは、あれだ・・・とっても美味しい食べ物だよ!」



嘘にしても酷過ぎた。

まさか私の口からでた答えが「おいしい食べ物」だなんて・・・


まぁ、一部の人種にとっては、それが美味しい食べ物だと捉えられても、間違いではないのか・・・



「そっかー、美味しい食べ物なんだね、ドウテイって!」


「そ、そうだぞ。甘酸っぱいフルーツなんだ。」



私は馬鹿か。

あながち間違っていないような、返答をしてしまった。



「へぇ~!フルーツなんだ!」


「そうだ。とっても珍しいフルーツなんだ。だから植物図鑑にも載ってないんだぞ!」


「へぇ~!」


「あ、そうだ、しんご。ドウテイのことはみんなには内緒だぞ。」


「なんで?」


「悪い大人たちがドウテイを探して、いろんなところで悪さを働いているからな。」


「怖いよぉ!」


「だから、ドウテイのことは絶対ヒミツなんだ。お家以外では、ドウテイのことを話しちゃ絶対ダメだからな。」


「うん!わかった!」



子どもは素直で助かる。私はまるでドウテイが、某アニメの「悪魔の実」のような危険なものだという印象を、上手くしんごに植え付けた。


その翌日のことだった。



「ねぇねぇ、お父さん!シゲル君がドウテイ捨てたって!」


「何っ!?」



私は一瞬、意識が飛びそうになった。

どういうことだ?シゲル君がドウテイを捨てた?

っていうか、シゲル君って誰!?


私は、一度冷静になった。

シゲル君・・・あぁ、そうだ。前にしんごが言ってたな。よく公園で一緒に遊んでくれる大学生がいるって。そうか、なるほど、そのシゲル君が…童貞を捨てたのか!?



「なぁ、そのシゲル君って、よく公園で遊んでくれる大学生のことかい?」


「違うよ、それはタカダさん。シゲル君は同じクラスの友達!」



だーーーーーーーーーーーーっ!!!!

おいおい、しんごの同級生ってことは小学3年生?つまり・・・9歳!?

一旦冷静になれ、一旦冷静になれ私!



「あ、シゲル君、ドウテイ捨てちゃったんだ…」


「そう!せっかくのドウテイ。甘酸っぱくて美味しいのに!ねぇ?」


「あ、あぁ、そうだったな。それはもったいないことをしたな。」



なんだ、この噛み合っているようで噛み合っていない33歳と9歳の会話は・・



「あっ!ねぇお父さん!」


「な、なんだ?」


「もしかしてシゲル君、ドウテイを捨てたんじゃなくて、ドウテイを奪われちゃったのかな・・?」


「へ?」


「昨日お父さんが言ってたでしょ?ドウテイを探している悪い大人たちがいるって!もしかしてシゲル君、悪い大人たちにドウテイ奪われちゃったのかな・・?」


「な、なんてシチュエーションだ!」



卑猥なことを想像してしまった私がいた。



「きっとそうだよ!シゲル君は、奪われたって言うのが恥ずかしくて、自分で捨てたって言い張ったんだ!」


「じ、自分で捨てる・・・」



もう、訳の分からない状況を想像している私がいた。



「お父さん?」


「ん?あぁ、そうだな。きっと恥ずかしくて捨てたって嘘をついたんだろうな。」


「やっぱりお父さんもそう思うよね?」


「うん。・・・そうだ、しんご。」


「なぁに?」


「しんごは、もしドウテイを見つけても、大切に扱うんだぞ。」


「え?」


「ドウテイは、とても傷つきやすいんだ。」


「やわらかいの?」


「あぁ、だから皮をむく時も優しくしてあげるんだ」


「ももみたいなフルーツなの?」


「いや、あえて言うなら、チェリーだ。」


「さくらんぼ?」


「そうだ。だから、ドウテイは大切にするんだぞ。」


「うん、わかった!ぼく、ドウテイに優しくする!ぼく、ドウテイを大切にする!」


「あぁ。」



なんて会話だ。



「よし、しんご。今日はお父さんと一緒にお風呂にでも入ろうか?」


「え?」


「久々に、親子、水いらずだ。」


「うん!ねぇ、お父さん?」


「なんだ?」


「お父さんも、ドウテイって大切にしてた?」






「あぁ、今でもちゃんと守っているさ。」





とりあえずその日の夜は、ドウテイを捨てた息子の同級生のことと、なぜだか溢れ出る涙のせいで眠れなかった。


ただ、その翌日も同じように一睡もすることができないとは、まだこの時は知るよしもなかった。



つづく…


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