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老人病院  作者: 長谷川ゆう
7/9

未来

みかこは15秒目を閉じ、頭の中のマイクロチップからネットを通して軽い夕食を頼み15分後にドア前に届くと店から通知が届いてから

カードで払い、ネットをシャットダウンにして瞳を開いた。



低賃金だが、今のセキュリティ付きの3LDKのアパートに食費を少し切り詰めれば老人病院「ゼイタク」で働いても、週3のバイトで働いても住むことはできる限りの生活は変わらない。



山ほど仕事が正社員としてある二千三百年は、仕事に困ることはない。



ただ、正社員で働く友人達から「バイトの方がましだよ!何で老人病院なんかで」と言葉を詰まらせたメールを何通か受け取った。



人から産まれたロストヒューマン世代最後の世代がいる老人病院でなど、みんな働きたくないのだ。



なぜなら、産まれた時は病院で国に管理されマイクロチップを脳内に埋め込められてから両親の元へ預けられ育てられるみかこ達の親からの世代は、人との関係が希薄だ。



みかこ自身も両親との関係が悪くロストヒューマン世代の祖父母に中学卒業まで育てられ、祖父母以外とは学校でも授業はほぼ個室が与えられ、ネットで授業を受ける。



せいぜい、人との関係を育むのは幼い小学生くらいまでだ。



みかこだって不安だったが「ゼイタク」の運営者亀田さんに会い、祖父母を恋しくなると同時に会ってみたくなったのだ、国にマイクロチップを返上し、自由に生きる「人」に。



正社員だろうがバイトだろうが出勤は自動運転の自家用車または会社から支給される車での通勤になる。


みかこのように道を歩く人間など皆無で通勤に徒歩など合理的ではないと見下される社会だ。



老人病院「ゼイタク」から初出勤の前日に亀田さんからメールが来ていた。国から支給される資金が少なく車を支給出来ないと。



歩くのが好きだから構わないと脳内のマイクロチップのネットのメールから送り返すと亀田さんは申し訳なさそうに謝罪してきた。



誰かが自分に申し訳ない気持ちになってくれるのはこの時代ほとんどない。当たり前のように親の遺伝子から産まれ、国に管理され、親元または国が運営する施設や里親の元で暮らし、中学を出たら正社員として働ける。



感情すら親子関係ですらなく、世間と社会と国に従順に暮らしていれば死ぬまで苦労もせずに生きられる二千三百年。



アパートの前を無人の朝食を配達している車が通ったので引き止め、出社前に軽いトーストとサラダのセットを買い食べるとみかこは、ゆっくり歩きだした。



まだ太陽は、眠そうにゆっくりと昇り始めている。出勤や登校する車の中から人々が珍しそうにミカコを見る視線にも慣れた。



ぼんやり歩いていたら「ゼイタク」に着いた。



すでに亀田さんは、老人病院の前の掃き掃除をしていた。



歩いてきたみかこに気がつくと、しわくちゃの手を小さく振り微笑んでくれた。



久しぶりに人の優しい笑顔を見て呼吸が出来たような気分になりみかこは、大きく息を吸う。



みかこは頭を下げ、顔を上げた。久しぶりに自分もつられて微笑んでいた。自然に笑ったのはいつぶりだろうか。



昇り始めた太陽の光がみかこの背中に当たり、みかこの影が亀田さんに向かってまるで未来を繋ぐようにキラキラと伸びていく。





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