面接
あの懐かしい場所に帰りたいと思って帰っても、あの場所は変わりすぎて自分を受け入れてくれる場所なんてなかったけど、それでも自分は愛おしいのだ。
そんな事を、面接場所の小さな部屋で亀田さんは突然、話した。
「昔、五百年前の話だよ、時計は1日を知るための術だったのに今は人間が時間に管理されてる。この社会のマイクロチップだって同じだ」
だから、私は国にマイクロチップを返上したよと亀田さんが話す。
さっきから面接ではなく、支離滅裂な事を話す亀田にみかこは戸惑った。
国にマイクロチップを返上した人間は、理性すら失うんだろうか?
みかこは、この面接を受けた事を後悔しはじためた。
受かっても、家に帰ったらこの仕事は蹴ろう。
面接場所の小さな部屋のテーブルの上に置かれたお茶を見ながらみかこは決めていた。
しかし、みかこを育てた亡くなった祖父母は国にマイクロチップを返上していた筈だ。
「話が、ずれてしまったね。いずれ安田さんも知ることだ。老婆心すぎる」
独り言なのか、みかこに呟いたのか亀田さんは苦笑いをした。
それと、時々起こる頭痛は、私の歳になりマイクロチップを国に返上すればおきなくなる。
「えっ?」
目をそむけていたみかこは、思わず顔を上げて亀田さんを見た。
「頭痛は、マイクロチップのバグ・・・副作用みたいなもんだ。命に関わらないから安心したらいい。どちらにしろ、安田さんの年齢では、義務としてマイクロチップは外せない。それは社会と縁を切る事になってしまう」
亀田さんは、苦虫を噛み潰したような顔で無理矢理、笑った。
一方的に話すだけ話すと、亀田さんは面接は合格だと言い、老人病院では三人の入居者は、全て機械とAIで管理されているから、仕事は職員が入居者が呼んだ時に、部屋に行き、話を聴くだけだと言う。
「働きたくないと思ったら、お家に帰ってネット経由で連絡をお願いするよ。もし仕事がないなら、安田さんに合いそうな私が紹介しよう」
みかこの考えを見透かしたように亀田さんが言うと、面接はそれで終わった。
しかし、辞めて良いと言われれば辞めなくなくなるなが人間の性だ。
「働きます」
みかこは、自分でも驚きながら亀田さんに頭を軽く下げていた。