表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
老人病院  作者: 長谷川ゆう
3/9

居場所

二百年前の安田みかこの曾祖母の時代は、就職するのに書類審査があったらしい。


二千三百年の日本では、生活以外の紙は高級品になり図書館の本でしかみない。


今の日本では、産まれた時から脳に埋め込まれたマイクロチップの中に全ての学歴、職歴、病歴まで書かれた履歴書が入学やバイト、就職をするたびに自動的に更新される。


入学や入社したい求人募集されている場所に、目を15秒閉じて、履歴書に目をとおし、アクセスした学校や会社にネットを通じて送るだけだ。


ほぼ、9割で書類審査は受かる。落ちたとしても2つ目の場所が大抵拾ってくれる。


書類審査に合格すると自動で、翌日にはネットにアクセスすると面接会場の地図が送られ、人間は面接だけ受ければよいシステムだ。


安田みかこは、2日ほど都内の老人病院の求人を5社見たが、最初に見た老人病院、「ゼイタク」と同じように条件は同じなのにどの老人病院にも惹かれない。


3日目の朝、老人病院「ゼイタク」の求人募集にマイクロチップから自分の履歴書を送った。


安田みかこがバイトをして住んでいる3LDKと言っても正社員として働く同級生は、月給50万円以上はもらっているため、独り暮らしでも戸建てに住める。


食事は、五百年前の江戸時代の文化の人がザルや樽で魚や豆腐を道を歩きながら売る、「振売り(ふりうり)」を逆に取り入れ、脳内のマイクロチップで登録してある食堂やデパートで注文を頼めば、自動的に無人の車が家の前まで配達さる。


たとえ登録していなくても、家の前を通る無人の車が運ぶ魚類や肉類、野菜など調理出来る食材を止めれば、置いていってくれる。


お金は全て、クレカかプリペイドカードから払う。百年前にはお札や硬貨は廃止され、本物を見たければ、国立博物館に行くしか見ることの出来ない代物だ。


みかこも、祖父母が1度だけ国立博物館に連れていってくれた時にしか、強化ガラス越しにしか紙幣と硬貨を見たことはない。


この時代に、人と会うのはせいぜい学校か職場か病院、家族か親戚にしか会わないので人と会うのすらまれだ。


移動手段は、主に自動で動く個人で所有している自家用車か、無人のバス、無人タクシー、徒歩以外にない。


二百年前に通勤手段として使われていた電車はなくなり、残された車両の上を埋めてその上を自家用車やバスやタクシーが走っている。


車の免許は、成人して市や町に申請すればだれでもとれる。車は自家用車が主だが、仕事によってはレンタカーを借り登校や出社をした。


みかこは、この時代には珍しく面接会場までは徒歩で行く。


車やタクシーやバスは、個人情報流出を防ぐため、どの窓も人が乗ると自動的に曇りガラスへと変わる。


みかこは幼い頃、亡き祖父母と手をつなぎ、よく散歩に出た。空はどこまでも高く、閉鎖的ではない。


あの時の感情を味わいたくて、歩く。


自家用車は、三万から五万で手に入る時代だが、みかこはあえて買わなかった。


歩き、どこまでも手の届かない空を見上げ、亡き祖父母の記憶をたぐりよせる事だけが、みかこにとっての居場所だからだ。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ