ポンコツアンデッドとの共同生活
ノアが家に襲来する事件があってから数日後。
フレアとの共同生活にも少しずつ慣れてきた頃。
リビングの椅子に座ってコーヒーをすする俺に
フレアが詰め寄ってきた。
「お外に出たい!!!!!」
「今日のコーヒーはうまいな。
前より腕を上げたんじゃないか?」
「わかりますか!
実はいつもより手間をかけて焙煎したんです!
香りが立つように一粒一粒丁寧に・・・・・て!!そうじゃなくて!!!」
コントのようなノリをするフレアには目をくれず、
コーヒーの香りを楽しむ。
「もう夜なんだからあんまり大声を出すなよ。近所迷惑だろ?
それに、俺は一人暮らしってことになってるんだ。
夜中に女の声がしたら、近所の住民になんて思われるやら」
「この前、ノアさんを連れ込んでたじゃないですか」
「連れ込んだとか言うな!!
あれは向こうが勝手に来たんだ!
それに、あいつはノーカンだ。
どうせ連れ込むならもっと上品な女にするわ」
「へー・・・
他にも女性を連れ込んだりしてるんですか?」
「してねえよ!!!!!!
冗談だわ!」
フレアが半目で訝しげな目をこちらに向けてくる。
そんな疑いの目で俺を見るのはやめろ!
「さすがは司教様ですね。
立派な立場なだけあって女性にも困っていないと。
さぞかし、素敵な女性たちに囲まれているんでしょうね。
そりゃ、私の扱いなんて雑になるでしょうね。」
抑揚のない淡白な声で一気にまくし立てるフレア。
その顔から表情がどんどん無くなっていく。
「ちょっと待てや!!!
黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって!
お前を外に出さないのはアンデッドだってバレないようにするためだろうが!
いくら見た目が人間そのものでも、リスクが大きすぎるんだよ!
もしバレたらお前はもちろん、アンデッドを匿っていた俺も無事じゃ済まない。
だから、そのゴミを見るような目をやめろ!
あと俺は別にモテない!」
「だからってずっと家の中に閉じこもり続けるのも限界があります!
こんなんじゃ私、退屈で死んじゃいますよ!!
アンデッドなのに死んじゃったらどうしてくれるんですか!!!!
それと、モテたいならもっと女性に優しくするべきです!」
ジリジリと至近距離で睨み合いながら、
大声でまくし立てる。
最初は大人しかったこいつだが、
最近はだんだんとわがままを言うようになってきた。
心を許し始めた証拠なのかもしれないが、
果たして喜んでいいのやら・・・・
「・・・どうしてもダメなんですか?」
「ダメだ!!
今、アンデッドの生態やらを調べてるんだ。
それで上手いこと周りから隠せる方法がわかったら連れてってやるから」
「それっていつになるんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・今年中が目標かな」
「長いですよ!!!!!
私に1年近く引きこもれって言うんですか!?
確実に退屈で死んじゃいます!」
「しょうがねえだろ!!
仕事の合間にコツコツ調べてるから時間が取れねえんだよ!!
あと、さっきからちょくちょく挟んでるアンデッドジョークみたいなのやめろ!
死なねえ存在のくせに!」
これ以上話し合っても埒が明かない
もうシャワーを浴びて寝ようと思い、その場を去ろうとすると
フレアが声色を変えながら妙に落ち着いた声で話し始めた。
「ふーん。
ノアさんが家に来た時はあんな歯の浮くようなセリフを言ってたのに、
私には冷たいんですね。
私がノアさんだったらもっと優しくしてもらえたのかな〜」
「っ!!?!!?!?!」
足を止め、体が思わずビクッと震える。
恐る恐る振り向くとフレアが口元をニヤリとさせた。
「ちょっ!!!!おま・・・!!!!
話は聞いていないって!!!
聞いてたのか!?!?
いや、あれは向こうが酔っててからかってきただけで、
俺も少し酔ってて・・・・」
「わあー!!本当にそんなセリフ言ってたんですか!!
耳を塞がずに聞いていればよかった!!
ねえ!どんなセリフ言ったんですか!!!!教えてください!!」
!?!?!?は、はめられた!!!!
フレアが目を輝かせてぴょんぴょんと跳ねながら詰め寄ってくる。
こんなやつにはめられるなんて・・・
素直な奴だと思い込んでいたが、
意外と絡め手を使う奴だったとは・・・・油断した
「ねえねえレナルドさん!!!
教えてくださいよ〜!」
「お、教えるわけねえだろ!
ああ!服を引っ張るな!伸びるだろ!!
今のは忘れろ!いいな!」
「え〜、でもそんな簡単に記憶は消せませんよ〜
・・まあ外に出られたら忘れられるかもしれませんけど」
こ、こいつ!!!!!
「どうしよっかな〜
このままだと毎晩、このネタでレナルドさんをからかっちゃいそうです」
フレアが唇を尖らせて、人差し指を頬に当てながら
猫なで声のような口調で言ってくる。
こいつの料理に今度、
聖水をぶち込んでやろう。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・次の休み・・・・・・・・・・・・・・
街中を少しぶらぶらするくらいだぞ・・・・・・・・」
「やったー!!!!!!!!!!
ありがとうございますレナルドさん!!!!」
なんども万歳しながら満面の笑顔で俺に笑いかける。
俺は毒気を抜かれたように一つため息をつくと
苦笑いを浮かべながら
「あんまり派手なことはできないからな。
本当にちょっとぶらぶらするくらいだからな」
「わかってますよ!
それだけで十分です!!すごく嬉しいです!」
不安材料は残るが、
確かにずっと閉じ込めておくのも限界がある。
まあ、しっかりと注意していれば問題ないとは思うが。
・・・・心配だ
俺は今度の休みを無事に乗り越えられるよう、
不安な心のまま何度も神に祈りを捧げた。