このアンデッドはどうしたものか・・(2)
「・・・調子はどうだ?」
「まだお腹が熱いですけど、少しずつ良くなってきました」
「そうか・・」
「あ、あの・・」
「ん?」
「その・・私、アンデッドなんですけど…
こ、怖くはないんですか?
てっきり悲鳴をあげて騒いだり、退治されたりするかと思ってましたので…」
「あー・・今は自分の目の節穴具合に嫌気がさして、
自己嫌悪している最中だからな。
そういうテンションじゃないんだ」
「そ、そうなんですか?
あの・・・元気出してください」
落ち込んでる元凶から励まされたんだが・・
最悪だな。
そう。
目の前にいる銀色で長く、美しい髪を携える、いたいけな少女の正体は
人々の天敵であるアンデッドだというのだ。
「いや、だとしても信じられないんだが・・」
教会の勉強で、聖水はアンデッド相手にダメージを与えられると確かに習った。
でも、・・・
「教材で習ったアンデッドは醜悪な見た目でもっとこう・・
腐った体だったぞ!!
お前は全然そんなことなくてむしろかわい・・」
「えっ!? そ、そんなことは・・」
だー!!!!!
アンデッド相手に俺はなに照れてるんだ!!!
てかお前も恥ずかしがってんじゃねえよ!!!
「アンデッドは不死ですけど肉体がずっと残るわけではないようです。
少しずつ肉体は腐敗していきます。
中途半端に腐敗が進んだものが、一般的にゾンビと呼ばれるものですね。
完全に肉体が消滅して骨だけになっても生き続けます。
皆さんがアンデッドに持つイメージに最も近い姿だと思いますが」
「ほーそういうものなのか」
たぶん、その授業の時は寝てたな。
「ん?じゃあ、お前のその体も腐っちまうのか?」
「あ、そんなすぐには腐りませんよ。
私は肉体が若いし、魔力で鮮度を保ってるので
数十年は平気だと思います」
「なるほど・・
しかし、アンデッドって初めて見るな・・
見た感じだと人間とそんな変わらないが」
「はい!外見は人と全く変わりませんよ!」
ほ~・・それならアンデッドでも別に悪くは・・・
いや! よくないだろ!!!
メリス教にはアンデッドやモンスターは忌むべき存在として
教えられている。
本当は捕まえて退治するべきなんだろうが・・
「あ~・・悪いがアンデッド。
この街にお前は置いておけない。
すまねえが、街から出て行ってもらえると助かる」
すると、フレアが捨てられて子犬のような悲しい表情を浮かべた
「やっぱり・・ダメですよね・・・
アンデッドがこんな街中にいるなんて迷惑ですもんね・・・」
クッ・・!
そんな悲しそうな顔するなよ・・・
アンデッドのくせになに寂しがってんだよ!
「てかお前!!
アンデッドのくせに何で聖水なんか飲んだんだ!!
あんなもん飲んだら下手したら退治されちまうぞ!!」
すると、フレアは急にもじもじし出した。
「あ、あの~・・・・知らなかったんです。
聖水であんなに体が燃えるようになるなんて・・」
「いや、まあ普通はならないんだがな・・
知らないなんてことはないだろう。
アンデッドは本能で聖水なんかの神聖な魔力が備わったものを
避けるっていうじゃねえか」
かろうじてうろ覚えだった知識をひねり出しながら尋ねる。
「あの・・・実はですね・・・
私・・・アンデッドになってまだ【3日目】なんですよ…」
「・・・は?」
「だからその・・そういった本能がないといいますか・・
よくわからないといいますか・・
自分でも実はまだ人間なんじゃないかって思ってるくらいでして・・
いや、それはないんですけど」
「ちょ、ちょっと待て!!
3日目って・・・
それじゃあ数日前までお前は・・・」
「あ、はい!
普通の人間でしたよ!!」
「・・・・・普通の?」
「普通の!」
ちょっと前まで普通の人間だった。
むしろ聖水のことがなければ人間だと疑いもしなかった彼女だ。
そう言われても違和感はない。
でも、いったいどうして・・
「いったいどうしてアンデッドなんかに」
「そ、それは」
すると、フレアの言葉を遮るようにドアを激しく叩く音が家に響いた。
「ちょっとレナルドー!!!
あんたまだ寝てるの!!
早く出て来なさい!!!!」
「「!!!!!!!!!」」
この声はノア!!
あいつ! 迎えに来なくていいって言ったのに!
「レレレレ、レナルドさん!!!
どどどうしましょう!!!」
「お、落ち着け!
あいつに見つかったら2秒後には退治されちまう!」
「2秒!?」
「とりあえずベッドの下に隠れろ!
急げ!!!!」
「は、はい!!」
フレアをベッドの下にねじ込んだ直後、
激しく叩かれるドアを開けると、
ノアが頬を膨らませて立っていた。
「あんたね!!いつまで家にいるつもり!!
早く行かないと朝の祈りに間に合わないわよ!!」
「わ、わかってるから!
てかドア強く叩きすなんだよ!壊れるっての!」
「いつもは鍵なんかかけないくせに珍しいわね」
「お前がいつも勝手に入ってくるからだろうが!」
・・・念のため鍵をかけておいて本当によかった
「ほら!行くわよ!!
遅刻なんかしたら承知しないんだから!」
「わかったから!
引っ張るな! 自分で歩くから!」
ノアに腕を引っ張られ、そのまま教会へと連れられていく。
部屋にアンデッドを残したまま。
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
「・・・レナルドさん」
レナルド達が家を去ったことを確認し、
ベッドの下から顔だけを出すフレア。
「行ってしまいました・・・・
出て行く前にきちんとお礼を言いたかったのですが」
レナルドの身を案じながらも、
見つかれば2秒で退治されるらしいノアのことが怖くて
顔以外はベッドに隠れたまま亀のような形で固まっているのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「・・なあ、ノア」
「なあに? お金なら貸さないわよ」
「ちっげーよ!!!!
別にそんなに困ってねえよ!
司教なめんな!!」
「あらそうなの?
それなら日頃の恩返しも兼ねて、
おしゃれなレストランでディナーでも奢ってもらおうかしら」
「・・・あれだ・・・
聖職者があんまり豪勢な食事をとることは他の信者達に示しがつかないだろ?」
「あ~ら。
メリス教は自由を重んじる宗教よ。
清く正しい生き方をしながら、人生をしっかり楽しみさいって
あなたも説法で言ってるじゃない」
「そ、それとこれとは話が違ってだな・・・」
「じゃあ、もう書類仕事手伝うの辞めようかな~」
「・・・・次の給料が入ってきてからでいいか?」
「うん!!楽しみにしておくね!」
満面の笑みで鼻歌を歌いながら答える。
どこまでの豪華なディナーを想像しているのだろうか。
・・・財布の中身いくらあったっけ・・・
「そ、それでだノア。
ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「私、海鮮の料理が好きかな~
あとはお肉でもいいよ!
ワインが美味しいとこだとベスト!」
「お前のリクエストなんか聞いてねえよ!!
てか、シスターのくせに酒飲むな!!!」
「あはは!!
せっかくお店選びのヒントあげたのに」
「いらんわ!!」
「ふふっ!
それで、聞きたいことって?」
「あ~・・・いや、なんでもない」
アンデッドのことについて詳しく聞こうと思ったけど、
そんな気分じゃなくなった。
「それで、今日の祈りって誰がくるんだっけ?」
「確か農家の人たちよ。
豊作をお願いしにくるんじゃないかしら」
「あいつらか~
雨が降らないだの、土の調子が悪いだの、
めんどくせーんだよな」
「こーら。
そういうこと言わない」
とりあえず、迷いアンデッドのことは家に帰ってから考えよう。
教会に到着し、いつもの司教服に着替える。
祭壇へと向かうと、教会内には数十人の信者がすでに祈りを捧げるように膝をつき、
俺のことを待っていた。
「おお、司教様。
どうか、今年も私どもに神の恵みをお与えくださいませ。」
「メリス様。
どうか、我が畑にご加護を」
口々に願いの言葉を発し始める住民達。
「・・・これより、朝の祈りを始める。
敬虔たるメリス教徒たちよ。
メリス様への祈りを捧げ、その言葉に耳を傾けなさい」
司教としての祈りの言葉を朗読していく。
住民たちは目を閉じて、その言葉に聞き入るようにしている。
祈りの言葉が半分終わる頃には、
教会に訪れる人の数は倍近くになっていた。
相変わらず、この街の人たちの信仰心って高いな。
教会内に溢れかえる人々を見て、
そんなことを考えながら、流暢に祈りの言葉を口にしていると、
ある人物が目に留まった。
後ろの方に、何やら見たことある髪色の人物を見つけたのだ。
あれって・・・まさか・・・
いや、この街で銀色の髪なんてそうそういない。
・・・・・
・・・・・
なんであいつがここにいるんだよ!?!?!!!!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「さて、お部屋の掃除も終わりました。
そろそろ出ましょう」
きちんとお礼を済ませられなかった
せめてもの償いとして、部屋をピカピカに掃除していたフレア。
きっとこれ以上自分がここにいたら
恩人に迷惑をかけてしまう。
それだけはしてはならない。
「・・・見ず知らずの私に親切にしてくださり、ありがとうございました。
アンデッドだと隠していてごめんなさい。
・・・・・さようなら」
誰もいない部屋に頭を下げながら、
別れの言葉を発する。
そして、レナルドの部屋を後にした。
「・・・さて、これからどうしましょうか」
とりあえず、必要な物資を調達したら街を出よう。
買い物をする店を探すために、人が賑わっている方へ歩いていると
ふと大勢の人が押し寄せている建物が目に入った。
「あれは・・・教会でしょうか?」
中からは神に仕える人が祈りの言葉を紡ぎ、
それを真剣に聞く人々の姿があった。
「・・・これから行く当てもないですし・・」
好奇心と、神のお導きを受けられるように徳を積もうと、
人の流れに紛れて教会の中へと入っていった。
「まあ・・とっても綺麗な建物」
中に入ってみると細部までこだわった美しい造りに感動した。
「あれが司教様でしょうか」
祭壇の中央に立ち、聖典を手に持つ人物に注目する。
「・・・・・あれ?
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・レナルドさん?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
危うく祈りの言葉を止めてしまいそうなところをなんとか堪える。
なんで教会の中にあいつが!?
家にいたはずじゃないのか!?!!
いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない。
他の神官たちに気づかれたら大騒ぎになる!!
聖典を朗読しながら、フレアに向けて目配せする。
向こうもこちらの目線に気づいたようだ。
早く出て行けと思いっきり睨んでやる。
しかし、向こうは何を勘違いしたのか
嬉しそうにこちらに手を振っている。
まるで、気づいてもらえてに喜んでいるように。
あのバカがーーーーーー!!!!!!!!!!
ぜんっぜんわかってない!!!!
頬をひくつかせながら、なんとか朗読を止めないようにする。
必死で平常心を保ち、長い長い祈りの言葉がようやく終わった。
これほどまでに早く終わって欲しいと思ったことはない。
安堵の息を吐くと、側に控えていた神官が口を開く。
「それでは、メリス様の恵みをお与えします。」
神官たちが一斉に両手を天に掲げ、
あたりが光に包まれる。
祈りを終えた後は、神の恵みとして神官たちが
信者たちに魔力を分け与えるのだ。
皆が深い感謝の念を持ちながら魔力を享受する中、
レナルドにある考えがよぎる。
ん? 待てよ・・・
この神聖な魔力をあいつが浴びたりなんかしたら・・・・
おいおいおい!!!!!
「ちょ、ちょっと待った!!!!!!」
レナルドの大声に全員が驚いた表情を浮かべる。
「なんだ?」
「どうかしたのか?」
「司教様、どうかされましたか?」
辺りがざわざわと騒がしくなる。
なぜかフレアまでどうかしたのだろうかと不思議そうな顔をしているのだ。
・・誰のせいだと思ってんだ!!!
「き、今日は俺が一人ずつ直接魔力を渡す。
さあ、みんな順番に並ぶがいい」
「おお!司教様が直接魔力を与えてくださるとは!」
「なんとありがたい!!」
信者たちは自分たちを思っての提案だと、素直に喜んでくれた。
・・・まさかアンデッドをかばってのことだとは口が裂けても言えない。
それから祭壇に大行列を作った信者たちに魔力を順番に与えていった。
「おお、司教様。
感謝いたします」
「神のご加護があらんことを。
さあ、次の人・・・」
・・・あいつ、なんで列に並んでんだ
「レナルドさん!
レナルドさんって司教だったですね!!
びっくりしちゃいました!」
フレアは、皆に聞こえないように小声で話しかけてきた。
「・・お前、後で教会裏に来い」
「??はい、わかりました」
魔力を与えるふりをしながら、
小声ながらもドスの利いた声で馬鹿アンデッドに告げた。
【教会裏】
「このバカがー!!!!!
一体何考えてんだ!!!!」
「す、すみません!!!!」
辺りにレナルドの怒声が響き渡る。
「なんでこんなところをうろうろしてんだ!
お前、家にいたんじゃないのか!!!」
「そ、それがその・・
これ以上家にいたらレナルドさんに迷惑がかかると思って・・出て行こうかと・・
そしたら、皆さんが教会に集まるのが見えて、ちょっと気になって・・」
「なんで入ってくるんだ!!!
お前なんかが神官から神聖な魔力を注入されたら消えてたぞ!!」
「だ、だって・・・
そんなことするなんて知らなかったし・・」
フレアは涙目になりながら、叱られた子供のように縮こまっている。
「それに、レナルドさんが司教様だったなんてびっくりしちゃって・・
その・・」
「自分の身のことを忘れていたと」
「・・・・・・
・・・・・・・はい」
・・・なんなんだこいつは
教会に迷い込んで、一緒に祈るアンデッドなんて聞いたことない。
「とにかく!
これでわかっただろ!!!
俺は司教で、ここはお前の天敵みたいな場所なんだ!
見逃してやるから早くこの街から出るんだ!!」
「レナルドー
さっきからなに騒いでるの~?」
裏口が開かれ、聞き覚えのある声がした。
「ノ、ノア!?
お前なんでここに!?!?
休憩中じゃ・・・」
「あんたの馬鹿でかい声が聞こえたから見にきたんでしょ。
・・ん?
この人は・・?」
やばい!!!!!!!
「あ、あ~!!!!
俺の知り合いだよ!!
たまたま会ってちょっと話してたんだ!」
「知り合い・・?
レナルドにこんな美人の知り合いなんていたっけ?」
「あ、あ~、、まあな・・
じゃあ、俺はちょっとこいつと飯でもいってくるから」
「あ、ちょっと」
「よし、行くぞ!!!」
フレアの手を取って、強引に連れて行く。
いつこいつがボロを出すかわからない。
一刻も早く立ち去らないと!
「わ!レナルドさん!!
引っ張らないでください!」
あっという間にいなくなった二人を呆然と見ながら、ノアがつぶやく。
「・・・・最近、一緒にご飯なんて全然いってくれないくせに・・・
・・・・・・・レナルドのばか」
適当な食事屋に入ったレナルドは、
フレアと向かい合わせで座り、睨んでいた。
「・・・あの、ご迷惑をおかけしてすみませんでした。
反省してます・・・
なので、無言で睨むのはやめていただけませんか・・
な、なんだか怖くて眼光だけで退治されちゃいそうなんですが」
「・・・・」
「あ、あの余計に目つきがきつくなってきたんですけど・・
す、すみません!!・・うぅ」
「・・・はあぁ~~・・・
いいか、それを食ったら本当に出ていけよ!!
これはお前のためでもあるんだからな!
正体がバレたら確実にお前は無事じゃ済まない。
死にたくなかったら大人しく出て行くんだ」
「わ、わかりました。
それにしても・・・」
「あん?」
「アンデッドに『死にたくなかったら』って言うなんてなんだか変ですね。
死なない体なのに!
ふふっ!」
「・・・・・」
「あぁ!!すみません!
もう余計なこと言いませんから!
だからまた睨まないでください!
怖いです!」
「・・・いいから、早く食っちまえよ。
また顔見知りに見つかると面倒だからな」
「そう言えば、さっき会った方どなたなんですか?」
「同じ教会で働く同僚だよ。
ノアっていう幼馴染だ」
「へ~!とても綺麗な方でしたね!!
レナルドさんととてもよくお似合いの方でした!」
「っ!!!
変なこと言うな!!
普通に友達なだけだ!!」
「そうなのですか?
てっきりお付き合いしている方かと・・・
でも、レナルドさん目が怖いですもんね。
女性はみんな怖がって逃げちゃいそう!」
「・・・・・」
「ごめんなさい!ごめんなさい!!!
本当にごめんなさい!!!
もうお口にチャックしますから、
私のご飯に聖水かけようとしないで!!!
食べられなくなっちゃう!!!」
必死でやめてくださいと騒ぐフレアを抑えながら、
なんとか食事を終わらす。
聖水が食事に二、三滴垂れてしまったせいか、
舌が痛いとぐずついてる。
「まったく・・・
悪かったって。
そんなにいじけるなよ」
「だって!だって!
レナルドさんのせいで熱いものを一気に食べたみたいに
口の中が火傷してるんですよ!
どうしてくれるんですか!」
「そりゃ悪かった。
お詫びにメリス教の神聖な魔力を分けてやるよ」
「退治されちゃう!!
やめてください!!!」
「・・・さっきは自分から教会に入って受け取ろうとしてたくせに」
「だって・・知らなかったんですもん・・・
まさか教会の魔力がそんなに恐ろしいものだったなんて・・
あんな怖いところ二度とごめんです」
「お前以外からしたらありがたい場所なんだよ」
アンデッドの本能が備わってないとはいえ、
自分から教会にお祈りに来たくせに勝手な奴だ。
「はあ〜・・・
街の正門はこっちだ。
早くついてこい」
「あ!待ってください!」
また一人にしたら、今度はどこでフラフラしてるかわかったもんじゃない。
確実に街の外まで見送ってやらないとな。
「いいか。もうこの街には来るなよ。
外の世界に行ったらモンスターには気をつけて暮らすんだぞ。
可愛い見た目をした奴もいるが、ホイホイついていくなよ。
食料は森に入れば魚や、きのこなんかが・・」
「わ、私だってやるときはやりますから!
そんな心配しなくても大丈夫です!!」
心配??
・・・俺は心配しているのか?
まあ見た目は普通の人間だし、悪い奴じゃないもんな・・
これ以上、情がうつる前に・・・
「・・・王都の方に行くと、力を持った聖職者はハンターがぞろぞろいる。
そっちの方には近づくなよ。問答無用で退治されちまう。
出来るだけ人の少ない森の方に行け。」
あれ? これ結構、情が移ってね?
・・・この危機感の足りない馬鹿アンデッドにアドバイスしちゃってる・・
「だあー!!!何やってんだ俺は!!!」
「わ!? 急に大声出さないでくださいよ!」
「・・・誰のせいだと思ってんだ」
「へっ???」
フレアが首を傾げて、間抜けな声を上げる。
「お前な・・これからは一人で暮らしていくんだから
もっとしっかり・・・・」
と、フレアへの説教をしようとした次の瞬間。
「キャーーーーー!!!!!!!!!!!!!」
通りに強烈な悲鳴が響きわたり、体を震わせて驚く。
声のした方を見ると、母親と思われる人物が子供を抱えて泣き叫んでいた。
「カイト!!!カイト!!!!
いやああ!!!!目を開けて!!!!!」」
急いで母親の元に駆けつけると、
カイトと呼ばれた少年が頭から血を流して倒れていた。
「おい!!!!
どうした!!!!!!」
「カイトがああ!!!カイト!!!!!」
「おい落ち着け!!!
しっかりしろ!!」
「カイトが!!
息子が二階から落ちて!!!」
「なに!?」
「私が目を離した隙にベランダから・・・!!!
うっ・・うわあああ!!」
「おい!!あんた母親なんだろ!!
息子を助けたけりゃしっかりしろ!!!
・・おいお前ら!!
ぼーっと見てないでさっさと医者を呼びに行け!!!」
いつの間にか周りに集まっていた野次馬に怒鳴る。
レナルドの声を聞いて、慌てて数人が医者を呼びに走っていった。
「・・・頭から落ちたのか・・・
まずいな・・・」
カイトの体に触れて容態を見てみる。
体内の魔力がどんどん小さくなっていくのがわかった。
頭からの出血も止まらない。
「ど、どうしましょう・・
レナルドさん・・・」
「うぅ・・カイト・・・
目を開けて!!!」
母親が泣きながら息子を抱きしめている中、
野次馬の一人が声をあげた。
「お、おい。
あれって司教様じゃないか?」
「ほんとだ。
レナルドさんだ!」
レナルドのことに気づいた人達がざわつきだし、
混乱していた母親もようやくその人物に気づいた。
「司教様・・司教様ですよね!!!
お、お願いします!!!
カイトを・・息子を助けてください!!!!!」
母親は両腕にしがみつき、泣きながら懇願してくる。
・・聖職者達は治癒の魔法を使える。
もちろんレナルドも使えるが・・・・
「よかった!
司教様がいらっしゃって!」
「ああ!
これで大丈夫ですよ奥さん!」
そんな声を口々に上げる人々の中、
レナルドが歯軋りして渋い顔をしていた。
・・・・・魔力が足りない
治癒にはかなりの魔力が必要となる。
普段なら十分可能であったが、
先ほどの祈りの儀式で大半の魔力を信者達に分け与えてしまった。
本当なら何人もの聖職者達が協力して魔力を与えるが、
フレアを隠すために、自分一人で負担してしまった。
完全にガス欠だ。
「司教様!!!
お願いします!!!!
お金なら払います!!!!
どうか・・・どうか・・・」
「・・・おい!!
医者はまだか!!!」
野次馬の一人が慌てて確認する。
「は、はい!
まだのようです!!」
・・・少年の魔力はもはや消えかけている。
それは命も消えかけてるということだ。
事態は一刻を争う。
医者を待っている余裕はない。
「どうする・・・どうする・・・・」
教会から神官達を呼ぶ?・・・だめだ間に合わない
辺りの人たちから魔力を分けてもらう・・・だめだ、一般人の魔力は微弱だ。
10人や20人どころじゃ全然足りない。
そんな悠長なことをしている間にこの少年は・・・
「司教様
どうかしたのか?・・」
「なんか様子が変だな?・・」
「司教様!!!
お願いします!!!!!」
クソが・・・
何が司教だ・・・
こんな子供一人救えないで、何が親父の後を継ぐだ・・・
情けない
こんな時、親父だったら・・・・
「レナルドさん」
手に温かいぬくもりを感じる。
見ると、フレアが俺の手を握っていた。
「・・・私の魔力を使ってください」
「・・え?」
突然の提案に困惑する
「私の魔力量ならこの子を助けられるはずです。
さあ、はやく!」
「い、いや・・
しかし・・・・」
「私のことは心配しないでください。
こう見えてもけっこう頑丈なんで!」
微笑みながら軽い口調で言うフレアにつられて、
思わず軽く笑って答える。
「・・・やばかったら言うんだぞ!
力を借りる!!」
「はい、どんとこいです!!」
フレアの手を握り返し、魔力の吸収を始める。
フレアの魔力が、体内に流入していくのがわかる。
「っ!!」
生命力でもある魔力を吸われてフレアは苦悶の表情を浮かべる。
「おい、大丈夫か!」
「へ、平気です・・
それより、はやく!!」
・・・やってやる・・
アンデッドのこいつがここまで言ってるんだ
絶対に助けてやる!!!!
「最高神メリスよ。
我に力を与え、この小さな命を救いたまえ。」
レナルドが祈りを捧げながら、治癒の魔法をかける。
少年の体が光に包まれ、傷口がふさがっていった。
そして・・・・
「う、うぅん・・・
ここは?・・・・・」
「カイト!!!!!!!!!」
意識を取り戻した少年がゆっくりと目を開けた。
「あれ? お母さん?
どうしたの??」
「カイト!!!
大丈夫なの!?!?
どこか痛いところはない!?」
「?? うん平気だよ」
どうやら上手く治癒できたようだな・・
本当によかった・・
「司教様!!
ありがとうございます!!!ありがとうございます!!!!!
このご恩は一生忘れません!!」
「すげえ!!!さすがは司教様だ!!」
「レナルド様万歳!!!」
「そ、そんなに騒ぐな・・
あんたもそんなに頭下げなくていいから」
「息子の命の恩人です!!
本当にありがとうございます!!」
「もう、いいって。気にすんな。
それより、フレア
お前はだいじょう・・・・・」
後ろを振り向くと、
そこには・・・・
地面に倒れこむフレアがいた。
「・・・・・フレア?」