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神に愛されたアンデッド  作者: しまやん
1/5

このアンデッドはどうしたものか・・

聖職者と、馬鹿でお人好しなアンデッドが織りなすストーリー。

初のオリジナル小説になります!

ぜひ楽しんでもらえれば幸いです!

「私をこの家に置いてください!」



目の前の少女が頭を下げて、必死な声を上げる。


俺は神に仕える聖職者だ。

路頭に迷う人々がいたら、神の名の下に当然の如く手を差し伸べる。



・・・はずだった。



「ダメだ、帰れ」



教会の最高責任者であり、司教である【レナルド】は間髪入れずに言い放った。

この教会の教えには、『迷える人々を見すてるべからず』と言う教えがある。

彼女を放り出すことは教えに反することであり、

いかなる理由があろともあってはならないことであった。



・・・そう、彼女が《人》であるなら。






【数日前】



「ふう~・・疲れたー

司教ってのも楽じゃないな。」



レナルドは教会での一仕事を終え、

椅子に腰掛けながら深いため息をつく。


少し伸びた前髪の隙間から覗かせる

鋭い眼光を天井に向けながらぼーっとする。



ここは王都より離れた町、『エルディアン』


のんびりとしていて平和な街で、商売も盛んである。

外から観光に来る人々も多く、非常に賑わいと活気にあふれた場所だ。


そんなエルディアンの街の、最大の目玉はまさにそう。

このメリス教徒の教会だ。


街の人々は信仰心に厚く、この教会をとても大事にしている。


他の街の教会に比べても荘厳で立派な造りをしているのも

街の人々の多額の寄付による賜物だ。




そんな街の誇りである教会の最高責任者である司教に

最年少で抜擢されたレナルドは、

聖職者の正装である帽子を外しながら愚痴をこぼす。




「だいたい俺が司教なんて早すぎるんだよ。

本当は教会に入るかも悩んでたくらいなのに・・」



「その辺にしておきなさい。

信者にでも聞かれたらどうするの」



祭壇の上で休んでいるところに、

シスターである【ノア】がやってきた。



「もう今日の祈りの時間は終わりだろ?

信者なんていないって」



「だとしてもシスターや神官達はまだいるんだから!

代表のあんたがそんなんじゃ示しがつかないでしょ!!」



ノアは肩ほどまで伸びた黒髪を揺らしながら、

大きな瞳をこちらに向けてむくれている。




「代表って言うけど・・

先代の司教である親父が死んだから、俺になっただけだろ?

まだ18やそこらの若造が司教なんて無理だったんだよ」



親父は街のみんなはもちろんのこと、

王都でも名が知られているほどの偉大な聖職者だった。


・・なんでも生まれ持っての魔力がずば抜けていて、

伝説の不死の王を倒したとか・・


そんな眉唾な逸話まで残されている。



確かに親父の魔力はすごかった。

干ばつに苦しむ民のために街全体に雨を降らせたり、

大事故の際には何十人もの人たちを一瞬で治癒したりと、

その魔法は本当に神でも乗り移ってるのかと思うほど強力であった。


・・・しかし、そんな最強にも思える親父が去年他界した。



親父の遺言で、次の司教には息子をと残したらしい。


メリス教を何よりも重んじるこの町において、司教は街の顔だ。



そんな栄えある地位に、まだ若輩で、

ろくな魔法も使えない俺が司教になることに一部の人たちは反対した。



しかし、親父の信頼と人望に後押しされる形で

18歳の歴代最年少司教が誕生したと言うわけだ。




「またすぐにそうやって言うんだから。

あんたはやればできるんだからもっと気合い入れなさいよ!」



「母親みたいな口ぶりはやめろ!」



ノアは幼い頃から一緒にいる幼馴染だ。

母は物心つく前に死別。

親父にも先立たれた俺を心配してか、こうして過保護にいつもかまってくる。


それは司教になってからも変わらない。



「あ、そうそう。

その司教服、洗濯しちゃうから早く着替えて!

明日までに乾かさないといけないんだから。

それと、夕ご飯は作り置きしたやつまだ残ってる?

もう無いなら後で作ったの持っていくから・・」



「だから母親みたいなことするなって!

洗濯も料理も自分でやれるっての!!」



「なにいってんのよ!

あんた1人じゃろくなもの食べないでしょ!

司教っていうのは体力勝負なのよ!

それに、前にあんたが洗濯してきたらシワだらけだったじゃない!

あんなんじゃ信者達に笑われるわよ!」



「そ、それは・・・

ちょっと濡れたまま放置してただけで・・・


・・って!!おい!

勝手に脱がそうとするな!

この変態!!」



「誰が変態よ!

さっさと脱いで渡しなさい!

この服、無駄に装飾品とかいっぱい付いてて洗うの大変なんだから」



「由緒正しい司教服を無駄とか言うな!」



ノアにむりやり服を脱がされながら、ギャーギャーと言い合いを続ける。




・・・こいつも黙っていれば可愛いんだけどな…



艶のある黒髪に、髪と同じ色の漆黒の瞳。

器量もよく、面倒見もいい彼女は街のみんなからも好かれている。

その笑顔はどんな踊り子達も顔負けの美少女だともっぱらの噂だ。

・・ついでに言うとスタイルも良くて、胸もでかい。


彼女目当てに意味もなく教会に来る人もいるほどだ。

まあ、ダラダラと居座られても鬱陶しいので俺が毎回追い返すのだが。



「それじゃあ、私は帰るわね。

ご飯食べたら歯磨きして夜更かしせずに寝るのよ。

明日も朝から祈りがあるんだから遅れちゃダメだからね。

なんなら朝迎えに・・」



「うるさいわ!

寝坊しないから早く行けっての!

迎えにも来なくていいから!」



同じ年のやつにここまで言われると、

そんなに頼りないのかと少しへこみそうになる。


俺の司教服を持って、ようやくノアは帰りの途についた。



「はあ~まったく・・・

あいつ最近、心配性が悪化してないか?」



俺だって美少女が世話を焼いてくれるのは、男として悪い気はしない。


でも、あいつは度が過ぎている。


仮に一緒に暮らそうもんなら、

なにをするにしてもいちいち口を出されるに違いない。

そんな息の詰まるような生活はごめんだ。



「さて、俺も帰るとするか」



静かになった教会を見渡しながら、

ゆっくりと扉をくぐり、自宅へと歩みを進めていく。


 


今は、親父が残してくれた家に1人で住んでいる。

普段から贅沢もしないような暮らしだったので、

最低限暮らすには十分すぎるほどの蓄えもあり、食うには困っていない。


親父は聖職者であると同時に、

街の人たちの安全を守るハンターを手伝うこともあった。


ハンターは危険がつきものだ。


きっといざという時のために、様々な用意を昔からしていてくれたのだろう。




「・・・これで魔法の才能まで残して欲しかったなんて言ったら贅沢すぎるか」



親父が生まれながらに天才的な魔法の才能を持っていたのに対して、

俺は実に凡庸な人間だ。




鷹がとんびを産むようなものだ。




もちろん、才能がない者でもモンスターと戦って経験を積めば、成長は期待できる。


しかし、ようやく外に出て冒険しながらモンスター相手に魔法を

磨こうとしたところに、司教という重大な仕事ができてしまった。

毎日の司教としての役割に追われ、のんびり冒険するなんて夢のまた夢だ。




「はあ~ぁ・・・

そういえば、晩飯どうすっかな・・・

なんか買って帰るか」



別に教会の仕事が本気で嫌いなわけではない。

親父に憧れが全くないわけではない。

だが、親の七光りでお飾りのトップに立たされてる現状は男として不愉快だ。

見返したくても勉強や修行をしたからといって、

すぐに司教にふさわしい格が身につくわけではない。


それに、いくら聖職者とはいえ、

まだ18歳の若者だ。


正直、自分には他にふさわしい道があるのではないかと悩むときもある。

もっと色々な経験もしてみたかった。

ハンターとして世界を飛び回る道も魅力的だ。

魔法を極めて国の騎士になることもできたのではないか。


悶々とした悩みを抱えているが、

全てを投げ出して街を飛び出すほどの行動力はない。



全てが中途半端である自分に苛立ちながら、

市の方へと歩いていく。




「お、いらっしゃい!!

レナルドじゃねえか!

なに、しけたツラしてやがるんだ」



市に到着し、夕飯前の買い出しに人々が賑わいを見せている頃、

屋台のおっちゃんから話しかけられた。



「なんでもねえよ。

司教ってのは色々と考えることが多くて大変なんだよ」



「ダッハッハッハ!!!!!

若ぇくせになにいってやがんだ!

そんなんじゃお父さんみたく立派な司教になれないぞ」



豪放に笑うおっちゃんの一言が嫌に胸に刺さる。



「・・うっせえよ。

その肉くれ」



「まいど!!!

しっかし今日は、ノアの嬢ちゃんは一緒じゃないのか?」



「あいつは先に帰ったよ。

そんないつも一緒にいるわけじゃねえから」



「なんだ? フラれたのか?」



「っ!!!! は、はあー!?!?

なにいってんだおっさん!!」



「嬢ちゃんを狙う男は多いからな。

ちゃんと捕まえとかねえと、そのうち横取りされちまうぞ」



「バカ言ってんじゃねえよ!

あいつと俺はそんなんじゃ・・・

てか俺は司教なんだぞ!!恋愛なんかしてられるか!!」



「お前さんこそなに言ってんだ。

メリス教は純愛であるならば聖職者でも結婚の自由が与えられてるだろ?

司教だって恋愛していいんだぞ。

・・あっ! もしかして、遊びたい盛りなのか?

それはやめとけ。バレたら教会から追い出されるぞ」



「うっせー!!

もういいからさっさと品物よこせ!!!」



もう二度とこの店で買い物しねえ!!!!



そんなことを心の中で叫びながら、

なおも笑い続ける店主の手から品物を乱暴に受け取り、

早足で家へと戻っていった。




「ただいま~・・って誰もいねえけど・・

くっそ!あのジジイのせいで余計に疲れた!!

さっさと飯食って寝よ」



市で想像以上の体力を使ったせいで腹がペコペコだ。



帰るなりキッチンへ向かうと、

先ほど買ってきた肉を取り出す。


いかにも男の料理という感じに、

それを丸ごと焼き始め、塩をふった簡単ステーキを作る。




ここにノアがいれば、肉ばかり食べてないで

野菜も食べろと騒いでいるだろう。



そんなことを考えながら料理を進めていると、

ふと何かの音が耳に飛び込む。




「ん? 今何か音が聞こえたような・・・」



玄関からゴトっていうような音がしたような・・・


肉の匂いにつられて野良猫でもやってきたのか?




しばらく耳に神経を集中させていると、

今度ははっきりと扉を揺らす音が聞こえた。





なんだ?


客が来た・・・にしては様子が変だな



ノア?・・いや、あいつだったらノックもせずに入ってくる






扉の向こうに得体の知れぬ気配を感じ、

警戒心が一気に高まる。




司教の家に強盗に入るバカはいないと思うが・・


もしかすると、俺が司教になるのに反対だった奴らが?


嫌な想像ばかりが頭に浮かび、

一筋の汗が額を流れた。





さっきまで肉を切っていた包丁を後ろに隠し持ち、

ジリジリと扉まで近づく。



ドアノブに手をかけ、大きく深呼吸をする。



・・・・よし・・いくぞ!!!




意を決して思いっきり扉を開けた先には・・・




「誰も・・・いない?」




目の前に誰もいないことを確認して一気に身体中の力が抜ける。




「なんだよ・・俺の気のせいかよ。

ハハ…ちょっと気を張り詰め過ぎたのかもな」



一人芝居をしていたことが急にバカバカしくなり、

苦笑いを浮かべる。



もしかすると、近所のガキどもがイタズラでもしていたのだろうか。


今度注意してやらねえとな。



不思議な現象に一応の納得をつけ、

部屋に戻ろうとした時、

レナルドの視線は足元にいるものに気づいた。




「???? これは・・・


・・・って!!!!あんた大丈夫か!?」




誰だこいつ!?


見たことないやつだが




扉の前には見たこともない少女が倒れていた。








~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~








「う、うーん・・・」



「お、気がついたか?」



「・・・・・ここは?」



レナルドのベッドで目を覚ました少女は

きょろきょろと辺りを見渡して尋ねる。


まだ意識がはっきりしてない様子だ。




「俺の家だ。

お前が家の前で倒れいたからな。

見たところ外傷はないようだが、

どこか痛いところや、苦しいところはあるか?」



「い、いえ・・大丈夫です」



「そうか。

でも、なんだって倒れたりなんかしてたんだ?

この辺じゃ見ない顔だがどこから・・」




グウ~~~~




レナルドの言葉は少女の腹の音で中断された。



「・・・腹減ってんのか?」



「・・・・・」



「・・・・飯食うか?」



「・・・・いただきます」



少女は恥ずかしそうに顔を隠し、頷く。



聞きたいことは山ほどあるが、

とりあえずまずは飯を食わしてからだ。




「ほらよ、これやるから食え」



「っ!!! あ、ありがとうございます!」



テーブルへ料理を運ぶと、

少女はベッドから跳ね起き、一心不乱に焼いた肉を頬張った。




「お!!おいし~~!!!!!

最高です!!!!」




目をキラキラと輝かせながら、

肉を幸せそうに噛み締めている。




塩をつけて焼いただけの肉をそこまで言ってくれると

なんだか恥ずかしい。



肉はあっという間になくなった。




「ふう~! ごちそうさまです!!

とっても美味しかったです!!!

助けてもらった上にご飯までご馳走になっちゃって

なんてお礼を言えばいいのか」



「あ~まあ気にすんな。

職業病みたいなもんだからよ」



「職業病?」



「それより、体は平気なのか?

医者にでも見てもらった方がいいんじゃないのか?」



「あ、それは平気です。

そ、その・・・あまりの空腹に耐えきれず、行き倒れていただけなので」



「はあ?」



もじもじと下を向いて少女は話す。



この街で、そこまで貧困に苦しんでいる住民はほとんどいないはずだが?


仮に孤児だとしても教会が面倒を見るので、

路頭に迷うこともない。



もしかして借金のカタに売られた先から逃げ出したりしたのだろうか?




「まあ、いいや。

それより腹が膨れたなら帰ったらどうだ?

そろそろ暗くなりそうだし」



「・・・帰る場所はありません」



「はっ!?ないって・・・

じゃあお前どこから来たんだ?」



「・・・こことは違う遠い町から来たんです。

でも訳あってこの街にたどり着いて、

もう行くあてがないんです」



なんとも要領をえない。



結局、この子はどこの誰なのだ。



腰まで伸びた銀色の髪に、蒼く綺麗な瞳。

年齢は同じくらいだろうか。

人形のように美しい少女が物思いにふける姿はなんとも絵になるな・・



・・って!何考えてるんだ俺は!



「あーー・・それじゃあ名前は!

名前は言えるだろ」



「あ!はい!!

【フレア】と言います!」



「そうか、俺はレナルドって言うんだ。

よろしくな。」



事情を話したがらないところを見ると

何やら訳ありなのだろう。



行くあてがないのなら・・・




「なあ、フレア。

もしよければお前みたいなのにうってつけの場所がある。

そこを紹介してやろうか。」



「へっ??」



「俺はそこでは顔が利くんだ。

とりあえず当面は食い物と寝る場所くらい用意してくれる。

その辺ぶらついて餓死するよしマシだろ」



フレアはなんだか考え込んでいる様子だ。


まあ、いきなりじゃ戸惑うのも当然だろうが。



しばらく経って、顔を上げたフレアは微笑んで明るく答えた。




「はい!!レナルドさんはとても親切な方ですし信じます!

ぜひよろしくお願いします!!」





嬉しそうに笑うフレアは、一瞬見入ってしまうほど綺麗だった。





「と、とりあえず食ったなら早く寝ろ。

明日の朝一で連れて行ってやるから。

俺のベッド使っていいから体やすめとけ」



「はい!何から何までご親切にどうもありがとうございます!!」




深々とお辞儀をするフレアを横目に皿を片付け始める。




「あ、片付けは私が!」



「いいから、寝てろ。

また倒れられても困るんだよ」



「そ、そうですか?

・・わかりました。

でもお言葉に甘えて休ませて頂きますね!」



再び俺に微笑みかけて、

お休みなさいと挨拶したフレアは寝室へと入って行った。




・・・・気になる事は多いが、

とりあえず悪いやつじゃなさそうだ。


本当ならここまで甲斐甲斐しく世話をする義理も無いが、

一応は俺も聖職者の端くれだ。


飢えて路頭に迷う人を放っておく事はできない。



それに! めちゃくちゃ美人だったし!!!



・・・・っと、まあ教会には身寄りのない人たちを

引き取る施設もある。


そこなら事情がどうであれ、

引き取って世話してくれるだろう。



そこに顔をつなぐ程度の仕事なら大した手間でもない。



明日、教会に行くついでに話を通すだけの簡単な仕事だ。





・・・・そう思っていた俺が浅はかだった。








翌日。



目を覚まし、気だるい体で起き上がると、

そこにはキッチンで朝食を作るフレアの姿があった。




「あ、おはようごうざいます!!

もうすぐご飯できますからね!」




・・・そうか。


昨日、変な女を助けたんだっけか。


今日はこいつを教会の施設に連れて行かなきゃいけないから

早めに出ないとな。


遅刻したらノアがうるさそうだし。




「お待たせしました!

お口に合うかわかりませんがどうぞ食べてください!」



「おう・・・おっ! うまそうだな!

いただきます!」



ふわふわに焼かれた卵に、肉や野菜など具だくさんなサンドイッチを頬張る。




うん! うまい!!!



ノアからもらっていた作り置きの料理を切らしていた俺にとっては

とてもありがたい恩返しだった。




夢中で食べる俺を見て、ホッとしたのかフレアも自分のぶんを食べ始める。




「ふう~うまかった・・・

ごちそうさん」



「ふふ! とても良い食べっぷりでしたね!

お粗末様です」



自分の朝食を褒められたのが嬉しかったのか、

ご機嫌な様子でこちらを見ている。




キラキラと光る蒼い瞳で見つめられると、

思わずドキッとしてしまう。



こいつ・・施設なんかに預けるより

踊り子や芸者になった方が稼げるんじゃないか?



端正な顔立ちで愛嬌も良い彼女を見ていると

思わずそんなことを考えてしまった。





「っと! そろそろ行かねえとな!

お前も支度しろ」



「あ、はい!」



服は教会で着替えるため、

簡単な身支度を整えたレナルドがふと気づく。




「あ、そうだ。

おいフレア。

ちょっとこっちに来い。」



「はい、なんでしょうか」




俺はカバンから聖水を取り出し、差し出した。




「??それはなんですか?」



「聖水だよ。

向こうに行ったら時間ないかもしれないからな。

特別にお前にやる。」




メリス教には、聖水をプレゼントすることは相手の幸運を祈るという意味がある。


旅立つ人に餞別で渡されることが多い。



実際、聖職者でしか生産できない聖水の効力は確かで、

幸運をもたらし、悪しき存在が近づけない魔力が秘められている




「聖水?・・ですか?

これどうやって使えばいいんですか?」



「ん?聖水知らないのか?

まあ、お守りとして家に置いたり、体にかけたりするが、

一番多いのは飲んじまうことだな。

直接体内に取り入れるのが一番効果があるし。」



「へえ~! 貴重なものをありがとうございます!!

飲めばいいですね?

じゃあ早速いただきます!!」




フレアは瓶の蓋を開け、聖水に口をつける。

そして、ゆっくりと中身を飲んでいった。



もう会うこともないであろう、

謎の少女のこれからに少しでも幸運が訪れますように。


聖職者としての良心からのプレゼントであった。



プハーと中身を半分程度飲み干したフレア。



「おいしい水ですね!

聖水なんて初めて飲みました!

素敵なプレゼントありが・・・・」



フレアの動きが止まる。



どうかしたのかと不思議に思った次の瞬間。





「きゃああああああ!!!!!!

痛ったああああああああいい!!!!!!!」




鼓膜が破れるかと思うほどの強烈な悲鳴を上げ、

フレアは床をゴロゴロとのたうち回り始めたのだ。




「お!おい!!!どうしたんだ!!!」



「喉が!!!!お腹が!!!!

焼けるううぅぅぅ!!!!!

痛い痛い痛いぃぃ!!!!!」




なんだ!どうなってるんだ!!

聖水を飲んで、なんでこんなことに・・


もしかして!!毒が混入された!?




「おい!!大丈夫か!!!

とにかく水だ!!水飲んで毒を薄めろ!!!」




大慌てでキッチンから大量の水を汲んできて、

フレアに無理矢理飲ませていった。
















「うぅ・・・

まだお腹がぐるぐるします・・・」



フレアが半泣きになりながら椅子に座ってお腹を押さえている。




あれから大量の水を飲ませて、トイレに行った後、

なんとか落ち着いてくれたようだ。



フレアがトイレに行っている間に、

急いで聖水の中身を検査したのだが・・・




「大丈夫か?

しかし、なんで聖水を飲んでこんなことになっちまったんだ・・

調べても異物や毒物は出てこなかったし・・・」




神聖なる聖水に毒物が混入されていれば前代未聞の大事件だ。


しかし、そういった痕跡は見られなかった。



彼女が苦しむ理由がわからない。





「聖水のアレルギー?・・・

いや、そんなこと聞いたこともないしな……

それじゃあ、まるで『アンデッド』みたいだ」




ビクッ!!!



べそをかいていたフレアが

俺の言葉を聞いた途端、突然体が跳ねた。




「フレア?」



「な、なんですか!!?

わ、私はなんでもありませんよ!!

何も驚いてないです!!!」




・・・絵に描いたような動揺の仕方だな。



どういうことだ?



『まるでアンデッドみたい』・・・・



これに驚いたのか?




いや、まさかな・・




「・・・・・・・

・・・・・・アンデッド」



「ビクっ!!!!!!!」




だらだらと額に汗をかいて、目線をあちらこちらに泳がせている。



その様子を見て、今度はこちらが焦りの表情を浮かべる。



いや、まさかそんなわけないだろうが!



何考えてるんだ俺は。


ここは街中だぞ!



それに、俺はあの有名なメリス教会の司教だ。



仮にそうだとしたら、

一晩一緒に過ごして気づかなかったことになるんだぞ。

そんなのありえない!



ありえない! ありえない!!



聖水でダメージを負うという特有の効果が出たのも

何かの間違いだ。

きっとこいつは腹の調子が悪かっただけだ!



ありえない!!




「お前・・・・・」




ありえない・・・と言ってくれ





「もしかして・・・・・


アンデッドなのか?」






頼むから否定してくれとレナルドは

メリス様に祈りを捧げた。


数秒の沈黙の後。




「・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・はい」




教会の代表であるはずのレナルドの祈りを聞き入れてもらえなかったのは

普段から真面目に司教の任に当たっていない罰だろうか。


だとするならば、もっと真剣に取り組んでおけばよかった。


後悔の念に苛まれる俺の前で、アンデッドを自称する少女は

聖水でやられたお腹をさすり続けているのであった。


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