第7話
二人が戻ると豪華な料理が並んでいた。
「あら、おかえりなさい。今ちょうどご飯ができたところよ。」
シャルルの肩にはラヴィが乗っている。
「わぉ、豪華だ。」
ラルドは急いでシャルルに近づいた。
「ちょっと!お姉ちゃん!お客さんのぬいぐるみ勝手に持ってきたらダメだよ!」
ラルドがラヴィを抱き上げ、自分の腕の中に置いた。
「どうしたの?」
キャンシーは普通に席に座っていた。
「いえ、このぬいぐるみ部屋に置いてきますね。」
「え?それは困るよ。」
ラヴィの方から声がした。しかし、ラルドの目線はキャンシーに向かっている。
「?なぜですか?」
「なぜって、これから話すことがあるからね。」
(さっきからこのぬいぐるみから声が聞こえる気がする…キャンシーさんも口を動かしてないし…)
ラルドは恐る恐るラヴィに視線を送る。
「?あ、もしかして、私が話してると思ってなかった?」
ラルドは小刻みに震え始める。
「あ、あわ、あわわわわ」
(人って驚くとあんな感じになるんだ?十人十色とはよく言ったものだけど。パク)
キャンシーは勝手に料理を食べ始めた。
「あ、あ、あの、キャンシー、さん?ぬ、ぬいぐるみが、しゃ、しゃべっ、しゃべべ」
「うん、とりあえず落ち着こう。とりあえず座って?」
ラルドはラヴィを抱えたまま席に座った。
「そのぬいぐるみ、ラヴィって名前なんだけど喋るんだよ。」
「そ、そうみたいですね?」
「不思議そうだね?」
「それはもちろん。」
「そうだよね。」
「そうです。」
(一人で腹話術やってる変な人かと思ったけど…違った…)
「モグモグモグ…」
「……?え?それだけ?」
「ゴクッ…何が?」
「何がって、さっき説明するって…」
シャルルは落ち着いて料理を食べている。
「うん、だからそのぬいぐるみ喋るよって。」
「そ、それだけ、ですか?」
「深いとこまで知りたいってこと?」
「深いところ?(喋る理由ってことかな?)…そう、ですね。」
「教えないよ?」
「え?何でですか?」
「だって、見ず知らずの人に情報は教えるものじゃないからね。特に今は冒険家でも色々とややこしくてねー、あんまり情報を漏らすと厄介なんだよ。」
「はい、ストップ。」
シャルルがいきなり声を上げた。不思議そうに見つめるラルドとキャンシー。
「キャンシーさん、今回の依頼、覚えてますか?」
「えーと、確か、変質者の調査。」
「その通りです。」
ラルドはポカンとしている。
「まぁ、それはいいのですけど、それ以外にも頼みがあります。」
「頼み?」
「ラルド、妹に仕事の体験をさせてあげて欲しいです。」
「え?何で?」
「冒険家になりたいと思ってるんですよ。この子。」
「え、そ、そんなことおもってな
シャルルはラルドを睨みつけた。
「思ってます!」
「だから、キャンシーちゃん、体験させてあげて?」
シャルルは笑顔を向ける。
「無理。」
「はぁ…そうよねー、報酬2倍でどう?」
「………それ以前の問題だよ。ラルドちゃんが命を落としても文句言わない?それならいいよ。」
「…最低限守ってくれるなら文句は言わないわ。」
(あれ?私の意志関係ないのかな?)
「最低限守る、ねー、」
キャンシーはラヴィの方を見つめる。
「まぁ、そういうことだよね…んー、悩むなぁ…」
キャンシーは椅子を前後に揺らした。
「あの、悩ましてごめんなさい…お、お姉ちゃんが言ったことは気にしないでください。私は私で頑張って冒険家になります!体験なんていりません!」
ラルドの笑顔は明るい。
「……はぁ、んー、今回はどうしようかなぁ、んー、あ、そうだ。こうしよう。この辺の案内を頼むよ。その方が早く仕事が済みそうだからね。これも仕事のうちと思えばさ。」
「あ、あの…ありがとう…ございます…」
ラルドは不安そうな顔をしていた。
お節介も優しさです。いずれそのお節介には感謝するものです。