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γ:Burst -ガンマバースト-  作者: めんだこ。
3/4

新たなる旅路

 岸頭菖蒲(きしとうあやめ)は振り返る。自身が所属しているラルウァ支部のシンボルマークに太陽の光が当たり、より一層輝きを増している。アヤメは誇らしげに微笑み、そのしなやかできれいな足を動かし一歩踏み出した。

 これから向かう新天地に気を引き締めて。



【1.駆ける餓狼の如く】


   ─ 1 ─


<ラルウァ地方 リンドヴルムラルウァ支部>


「支部長、それは本気でおっしゃっているのですか!?」

 病室で目覚めたばかりのアヤメは、全く予想していなかった展開に驚きを隠せずにいた。

「ああ。本気だ。この結論に至った経緯は後程説明しよう。今はゆっくり休め。」

「あっちょっと支部長!!」

 支部長であるクサナギは、そう言ってそそくさと病室をあとにしてしまった。

「行っちゃったッスね……。」

 隣のベッドから同期であるウグイスがため息をついてうなだれている姿が見えた。

 それもそうだ。新人である二人だけで小隊を設立するなど、聞いたことがない。大抵はエリート兵がリーダーであるチームにそれぞれ配属されるはずだ。ため息をつくのも頷ける。

「一体何を考えているんだ、上層部は……。」

「ま、期待されてるって事っしょ!それってかなり凄いことじゃないッスか!?」

「時々お前のそのプラス思考がうらやましく思えてくるよ……。」

 いきなりの決定事項に各々の思いを寄せながら、病室に取り残された二人の時が過ぎてゆく。


「うん。もう任務に出てもても問題はないだろう。」

 それからしばらくして二人は退院することが出来た。バチの襲来によって深刻なダメージを追ったのにもかかわらず、後遺症はなかった。いたって健常な状態で退院できたことに驚きを隠せない。

「それにしても、君の回復速度は目を疑ったよ。搬送されたときは大腿骨が粉々に砕けていたのに、それがこの短期間ですっかりと元の状態に戻っている。普通なら直るのに平均一年はかかるんだが……。」

「ええ。私も驚いています。一体何が起きているのか……。」

「もしかしたら、君のその左手のお陰かもしれないね。術中ずっと鈍く光っていたし。」

 アヤメは自身の左手の甲を見た。

 蜘蛛のような痕は消え、ひし形の青い水晶のようなものが埋め込まれている。セラピア・コロッセオでの戦いのときに突き刺さってしまった、母体型ズィーガーのエルツ結晶に酷似していた。いや、まさかそんなはずは……。

「それに、君も大したもんだ。」

「えっ!?俺っすか!?」

 意表を突かれたかのように突拍子もない声でウグイスは医師の方を見た。

「そりゃそうだ。背中に多くの擦り傷と打撲痕があったところを見ると、恐らく彼女を庇ったんだろう。彼女と同等のダメージを喰らったはずだ。それにもかかわらず、搬送された時点で骨にも損傷はなく、命に別状がなかった。かなり頑丈な体だな。」

 確かに、この期間で退院できたということは、ウグイスは軽傷で済んだということだ。奇跡としか言いようがない。

「とにかく、今日まで色々見ていただきありがとうございました。これでまた任務に戻ることができます。」

「もう戻ってこなくていいんだからな。体には気を付けて行って来いよ!!」

 軍医からの嫌味に背中を押され、二人は病室を出た。久しぶりの外の空気に、アヤメは深呼吸をする。

「やっと任務に復帰できるッスね。」

「ようやくな……。もうリハビリなんてこりごりだ……。」

 肩を回すと、しばらくぶりに動いたかのようにゴキゴキとクラッキング音が鳴る。

「そう言えば、これからどうするかとか、上からなんか聞いてるっすか?」

「ああ。お前が寝息を立てて気持ちよさそうに眠っている時にな。」

 苦笑いをするウグイスを肘で小突き、さらに続けた。

「退院したらクサナギ支部長のもとに来るように言われている。勿論ウグイス、お前もだ。」

「あの話はマジだったんすねー。了解ッス。行きましょう!」

 二人はエレベーターの方へと歩き出した。



   ─ 2 ─


「アヤメ第十四近衛兵隊隊員、只今到着いたしました。」

「同じくウグイス第十四近衛兵隊隊員、只今到着いたしました。」

 二人は書類に目を通しているクサナギに敬礼をし、その場で直立した。支部長室に入ること自体が初めてであり、緊張が絶え間なく肌に突き刺さる。

「む、早かったな。まぁいい、そっちで座ってろ。」

 クサナギの指示で隣の会議室へと移動すると、そこにはある一人の女性が座っていた。

「貴女は……?」

 桃色に輝く綺麗な長い髪、豊満な胸をぎりぎりまで露出させた際どい衣装、手慣れたように右手に煙管を持ち妖艶に吸う様。どこかで見たような気がする。

「ほーう。この子たちがあの脳筋の育て子、か。」

 口から煙を出し、女は二人を見た。その視線は、肌を嘗め回すようにゆっくりと顔の方へと向く。

「いい筋繊維じゃのう。二人共しっかりと鍛えている証拠じゃ。」

 ウグイスは直視できないのか、頬を赤くしてそっぽを向いている。女のアヤメでさえ目のやりどころに困るような恰好をしているから仕方がない。

「はっはっは!初心(うぶ)じゃのう。まぁ、そこに座るがよい。」

 言われるがままに二人は座席に座る。かなり高級なソファなためふんぞり返りそうになるが、直ぐに姿勢を整えた。

「よし、まだ居るな。」

「なんじゃ、人を気分屋みたいに。」

 女はばつの悪そうな顔をしてクサナギを睨め付けた。支部長であるクサナギに対してもこのような態度をとるとなると、彼女はやはり……。

「何すかこのめちゃくちゃかわいい女の子は!!クサナギ支部長の彼女っスか!?」

「なっ!!馬鹿野郎!!このお方は……!!」

「おっ、もうわかりよったか。なかなかやりおるのう。」

 どうやらウグイスは気づいていないようだ。この方は間違いない、リンドヴルムの入隊式の時に後ろから見ていた……。

「そう言えば、直に会うのは初めてだったな。紹介しよう。彼女は……。」

「よい。」

 クサナギを左手で制し、煙を吹いた。煙はユラユラと宙を踊り子のように舞う。

「妾はラルウァの西に位置する"ニュンパ"のリンドヴルム支部の長を務める、凛 草莓(リン ツァオメイ)。隣にいる脳筋に呼ばれて来た。」

「黙れズベ公。さっさと始めるぞ。」

 やっと意味を理解したのか、ウグイスの顔が一気に引き締まった。



   ─ 3 ─


「なぜ、他地方の支部長がこんなところに……?」

「追い追い説明しよう。まずは君たちに小隊の結成の経緯について話す。」

 クサナギは卓上に肘をつき、説明を始める。

「まぁそんなに勿体ぶって話すのは俺の性に合わんからな、まず結論から簡潔に説明してゆく。」

 唾をごくりと飲む音が聞こえた。それ程に周囲は静寂と緊張に包まれている。

「アヤメ、君は"レーヴェン"となった」

「レーヴェン……?」

 レーヴェン、聞いたことのない単語だ。

「バチ=アーキオータとの戦いを、君は覚えているか?」

 バチ、それは療養中にウグイスから話を聞いた。我々が任務から期間中に襲来したあの敵陣営の幹部格の名前だ。

「それは恥ずかしいことに、バチの大技をくらって吹き飛ばされた後からはよく覚えていなくて……。」

「フフフフフ!!面白いのぅ!!」

 ツァオメイはクスクスと笑った。笑うたびに胸が揺れるのが少し羨ましい。

「覚えてないんスか!? あのデカブツの腕吹き飛ばしたんスよ!?」

 私が?あいつの?いくらなんでもそれは盛りすぎだろう。

「信じられないだろうが、彼の言うことはおそらく本当だ。俺が駆けつけたときには奴の片腕が無くなっていたからな。」

「はぁ……。」

 アヤメは両手を眺める。あの幹部格のバケモノを自分が追いつめたということなのか?

「君のその左手に埋まっているエルツ結晶のことは分かっているな?」

「あぁ、はい。気づいたらこうなってまして。医師の方からもこの結晶のお陰で怪我からの「」が早くなったと言われました。」

「まぁ、そうなるだろうな。」

 予想していたかのようにクサナギは頷いている。ウグイスは待ちきれなかったのか、本題を切り出した。

「つかぬことをお聞きいたしますが、その"レーヴェン"ってのは何なんですか?正直初めて聞く単語なんスけど……。」

「妾が説明してやろう。妾はその辺に関してはちと詳しいからな。そのために呼んだのであろう?クサナギよ。」

「まぁ、な。」

 言葉を発したのはツァオメイだった。ツァオメイは口から煙を吐き出し二人へと顔を向ける。普通の葉でないのか、吐いた煙は花の蜜のように甘く香った。

「レーヴェンというのは、エルツ結晶を体に埋め込むことにより、ズィーガー特有の身体能力や特殊能力を習得した人間のことを示す。」

「それって……。」

然様(さよう)。おぬしの左手に突き刺さったそのエルツ結晶、まさにレーヴェンであることの証明と言えよう。」

「うおおお!アヤメさんすげぇっす!!」

「その小僧の言う通りじゃ。普通なら、エルツが血液に接触した瞬間に体が拒絶反応を起こし、木っ端微塵にはじけ飛ぶからのう。」

 ツァオメイは軽快に笑っているが、よくよく考えたらなかなかエグい内容だ。

「レーヴェンとなる確率は一厘にも満たないからのう。まさに選ばれし存在というわけじゃ。」

 アヤメは、左手の甲を眺めた。埋め込まれた青い水晶が淡く光り輝いている。

「いいなー、俺もそういうのなりたいんスよね。」

 ウグイスは腕を頭の後ろに組み、口を尖らせた。羨ましがっているように見えるが、どちらかというといい気分ではない。ズィーガーの力を得たということは、即ちバケモノの仲間入りをしたと言い換えることが出来るからだ。

「で、どうなんだ?ツァオメイ。」

「うーん。確率は五分五分と言ったところかの。」

 クサナギがツァオメイに言葉を投げる。二人が何を話しているのかは見当がつかなかった。

「何がっすか?」

 こらえきれずにウグイスが問いかけた。クサナギはその質問には答えず、箱を卓上に置く。大きさにして指輪をしまっておくような小さな箱だ。

 クサナギが箱に手をかけ、そのふたを開ける。

「ウグイス。」

「は、はい。」


「お前には、生と死の選択をしてもらう。」

 箱の中には、橙に輝く結晶が入っていた。



【2.緋色の勇気】


   ─ 1 ─


「生と死の選択?え?」

 アヤメでさえクサナギの言っていることが分からなかった。いきなり生と死の選択をしろと言われて理解ができる者の方が頭がおかしいからだ。

「簡単じゃ。そこにある石はエルツ結晶。それをこの器具を使って体に埋め込み、人工的にレーヴェンになるか、危険を冒さずにそのまま人間としてリンドヴルムに貢献するかを選んでもらおうと思ってのぅ。」

 ツァオメイが更に卓上にその器具を置く。ニードル上の拡張器と麻酔が入った注射器がセットになっているものだ。結晶の大きさはおおよそ四センチ四方の正方形の四角推。これを埋め込むとなると苦痛を伴うだろう。

「え?でもレーヴェンになれる確率って、0.1パーセントにも満たないんじゃ……。」

「そうっすよ!!それじゃ俺に死ねと言っているようなもんっすよ!?」

 二人は支部長たちに猛反発する。ツァオメイはにやりと笑い、口を開いた。

「わしをだれたと思っておる?可能性の無い選択肢を与えるわけがないだろう。」

 忘れたわけではない、彼女は別地方の支部長だ。クサナギに近い実力を持っているのには間違いないが、ただそれだけでこの選択肢を用意した理由とは繋がってこない。何か特別な理由があるとすれば……。

「もしかして、ツァオメイさんはレーヴェンだったりするのですか?」

 アヤメは質問を投げた。考えられる理由としてまず挙がるのはこれだ。

「いや、違う。」

 クサナギがアヤメの質問を遮ると、さらに続けた。

「彼女は医療のスペシャリストだ。この世に直せない病などないほどにな。さらに凄いことに、こいつは患者にレーヴェンの適性があるかどうかを見極める才能がある。」

「えっ、そんなこと可能なんですか?」

 驚いた表情でツァオメイの方を見る。二人の注目を浴びた彼女は、そのまま得意げに話を続けた。

「そうじゃ。で、寝ている君たちの全身をくまなく診させてもらったが、ウグイス少年。君はなかなかいい線をいっているかもしれん。仮にレーヴェンになるという選択をしてその結晶を埋め込んだとしよう。そうしたら生き残れる確率はざっと三割くらいじゃの。」

「それでもたったの三割ですか?」

 クサナギは、手を組み目を閉じたまま話を聞いている。納得いっていないという表情だ。

「そこで、少年。君に問いかけているのだよ。この選択を逃げて生きるか、埋め込んで死ぬか。」

「やるっす。」

 答えを出すまで、わずか一秒。間髪入れずに即答したウグイスに、アヤメとクサナギは驚いた。

「お前!本気か!?死ぬ確率の方が高いんだぞ!?」

 アヤメはウグイスの両肩を鷲掴みにして揺すった。この期に及んでウグイスは相変わらずヘラヘラとしている。

「いででで!痛いッス!!ちょ!話してください!!」

「お前は、自分が何を言ったか分かっているのか?」

 アヤメの目線に、ウグイスはにっこりと笑った。

「当たり前っスよ。ここで退いたら、ヒーローになれないし、男でもなくなるっスから!」

「この……!!」

 クサナギが上体を起こした。

「本当にいいんだな?」

 その言葉は、今までに感じたことがないほどに重くのしかかってきた。アヤメは言おうとしていた言葉を引っ込め、元の態勢に戻る。

 ウグイスから笑顔は消え、目つきが真剣なものになる。

「はい。」

 それでもウグイスの意見は変わることはなかった。クサナギとアヤメは、もう何も言うまいと言葉を閉ざした。

「気に入った。よし、じゃあ少年。この痕予定はないと聞いている。おぬしが良ければ早速施術室に向かおうぞ。」


 ウグイスがツァオメイと施術室に向かってからしばらくして、アヤメは様子を見に行くことにした。彼が選択したことだから何も言うつもりはないが、同級生且つ何度も任務を共に遂行してきた仲だ。やはり心配を心から捨てることが出来なかった。

 施術に時間はそうかからないとツァオメイからも聞いている。もしかしたらもう終わっているかもしれない。そう思うと、動かしている足がまた一層早くなる。

(何としてでも無事でいてくれ。小隊の仲間になる予定なんだ、死なれては後味が悪い。)

 アヤメは思いを秘めて無我夢中に歩いた。

 施術室の前まで来ると、カグラが設置されている椅子に腰かけていた。

「カグラ先輩!どうしてここに?」

「よっすあやちん!気になって来ちゃった!」

 カグラは、いつもと変わらない調子で声をかけている。アヤメを元気づけるためなのかはわからないが、少しだけ気は晴れた。

「聞いたよ。彼、レーヴェンになるんだってね!羨ましいなぁ。」

「ええ、でも、成功率は三割だそうです。期待よりは、心配の方が先を行きますね。」

 アヤメは隣に腰かけ、ため息を漏らした。

 カグラはアヤメの方に手を置き、優しく微笑む。

「大丈夫だよ、きっと。ウグちんはこんなのでへこたれる男じゃない。」

 無論、そうでなけれならない。これから彼とチームの仲間として共に切磋琢磨をしていかなければならない。

 そう思った瞬間、施術室のドアが開いた。



   ─ 2 ─


 施術室から出てきたのは、ツァオメイだった。

「お久しぶりです。ツァオメイさん!」

「その声は、カグラか?随分と大きくなったのう。見違えたもんじゃ。」

 他愛もない会話をしているように見えるが、ツァオメイの着ている白衣は血が大量にこびり付いていた。それを見たアヤメは血相を変えて二人の間に入った。

「ご無礼をお許しください!ウグイスは容態は大丈夫でしょうか!!」

「おおう、そんなにがっついてくるな。気になるなら自分で確かめてこい。」

 アヤメはすぐに施術室の方へと走る。それを見て、カグラは苦笑いをした。

「すみません。あの子、いつもあんな感じなんです。」

「よい。あれぐらいの元気でないと将来に希望が持てん。」

「……。またウソついたんですか?」

「まぁな。」

 ツァオメイは煙管を取り出し、禁煙看板の前で堂々と一服をした。

「ここ、禁煙ですよ。またクサナギさんに……。」

「やかましい。禁煙かどうかはわしが決める。」

「まったく……。」

 煙を天井に昇らせているツァオメイを見て、カグラはため息をつく。

「度胸試しじゃよ。度胸試し。」

「やっぱりね……。」

「三割の確率を聞いて怖気づくような小物にはレーヴェンになる資格すら無い。命を優先する判断の方が賢明なのは確かだがの、レーヴェンは三割を必ず成功させるほどの度胸と技量が必要になる。人間を辞めるというのはそういうことじゃ。」

「さすがは、"初代レーヴェン"。ツァオメイさんが成功させると言ったら必ず成功しますもんね。」

「当たり前じゃ。なんせレーヴェンの素質を見抜く力も、レーヴェンだからこそなせる業。これで、リンドヴルム(うちら)に在籍するレーヴェンはわしを含めてちょうど十名になったのぅ。」

「それは、あの方(・・・)を含めてですか?」

「然様。さてさて、面白いことになってきた。」

 宙に舞う煙は、妖しく空気へと消えてゆく。


「ウグイス!!」

 アヤメがベッドの方向へ向かうと、ウグイスが静かに眠っていた。右肩には、オレンジ色のエルツ結晶が綺麗にはめ込まれていた。アヤメのダイヤの形とは違い、こちらは球体のような形をしている。

「よくぐっすりと寝とるじゃろ。全身に痛みを伴うから麻酔をした。しばらくは起きてこんだろう。」

「その血は……?」

「ん?ああ、これか。輸血パックを持っていこうとしたときに一つ破けてしまってな。その時に白衣についてしまったようだ。」

「そういうことでしたか。」

 安堵のため息をついたアヤメに、ツァオメイが顔を近づけた。

「まさかわしが失敗するとでも?」

「いえ!別にそういうわけでは……。」

「ならよい。その小僧には麻酔緩和剤を飲ませておいた。もうそろそろ起きるじゃろうな。」

 丁度そのタイミングだった。


「うおっ!?俺いつの間に寝てたんだ!?ってか、死んだ!?」


 先ほどまで寝ていたとは思えないテンションでウグイスが飛び起きた。

「ウグイス!!」

「おわっ!アヤメさん!?それに、カグラ先輩?どうしてここに?」

「それ程好意を持っていたということじゃ。」 

「違います!」

 からかう様に笑うツァオメイに、二人は声をそろえて否定した。

「そんなに否定しなくてもいいじゃないっスか!」

 落ち込むウグイスを見て、アヤメは更に安心した。



   ─ 3 ─


「で、どうなんだ?体の調子は。」

「痛みは特にないっスね。なんか、肩が温かい感覚がしますけど。」

 平気であることを誇示するかのように、ウグイスはエルツ結晶が埋まっている右肩を叩いてみせた。施術直後にこのような行動をとったら、普通であれば状態が悪化するだろう。しかし、叩いた後も全くの変化がないことから、改めてレーヴェンの回復速度に驚かされる。

「そうか。なら早速支部長室に向かおう。お前の容態が安定したらすぐに向かうように言われている。」

「了解ッス!」

 二人は、一直線に支部長室へと向かった。


「アヤメ、ウグイス。只今到着いたしました。」

「入れ。」

 入室許可の声が聞こえたのを確認し、二人は支部長室に入った。クサナギは資料を見ながら座っている。

「さてと、今後のことについて話さんとな。」

 いつになく真剣な表情をしているクサナギを見ると、緊張で心臓が張り裂けそうになる。冷や汗に似た汗が一滴頬を伝うような感覚がした。

「まずは、小隊のメンバーについてだ。これを見てくれ。」

 クサナギは白いファイルを二人に手渡した。指示されるがままにファイルを開く。すると、顔写真が八人分貼り付けられている。その中にはウグイスとアヤメの姿もあった。

「これが小隊のメンバーだ。写真と名前が記載されているから、暇な時に目を通しておいてくれ。」

 男女四名ずつのバランスが取れた編成だが、見た目からして全員個性的であろう風貌だ。一目でわかるだろう。

「このメンバーは全員レーヴェンだ。お前らと同じな。」

「まっ、マジすか!?」

 ウグイスが驚くのも仕方がない。新規結成の正体として新人二人が即座に投入されたこと自体が異例なことだ。何か裏があるとは思っていたが、まさか全員がレーヴェンだとは予想していなかった。

 全員がエリートクラスの実力だとすると……。

「アヤメ、お前ならこの小隊を結成した意図が薄々感じていてもおかしくはないが……。どうだ?」

「アーキオータを倒すため?」

 それしか考えることが出来なかった。クサナギは満足したように口を開く。

「その通り。迅速にアーキオータどもを殲滅し、この戦争を終わらせる。アヤメ一人でもバチの腕を吹き飛ばすほどだ。十分に勝機はあるだろう。」

「このメンバーたちって、今どこにいるんスか?」

「いい質問だ。それは今後のことについてにも繋がってくる。」

「それはどういうことですか?」

 アヤメたちの質問に答えるように、クサナギが席を立って窓を見た。

「実は、各支部にレーヴェンたちは点在していてな。本部に近いうちらを基点に各地に出向き、合流してもらいたい、というのが本部の意向だ。」

「そういうことですか……。」

「了解ッス!!」

「おい、ウグイス!少しは考えてから発言したらどうだ。」

「考えてからも何も、アヤメさんもどっちみち承諾するんスよね?」

「はぁ……。まあそうだが。」

 肩を落としてため息をつくアヤメに、クサナギの口角が上がる。

「はっはっは。無理強いをして悪いな。承諾してくれて感謝しよう。」

 かなり強引だが、小隊の結成と今後の流れが決まったのだ。


「それで、私たちはどのような道順で合流をすればいいのでしょうか?こちらの見解としては、ニュンパから時計回りに進んで最後にキオナティに行きつくようなルートを予想していますが……。」

「ふむ、あらかた間違ってはいないが、シーレーンに行ったら一度本部に戻ってきてくれ。この作戦でいいのかの最終判断を行う予定だからな。」

「なるほど。承知いたしました。」

 会議室に移動した三人は、着々と計画について話していた。もう既にあらかたの流れは説明され、後は最終確認のみ。一層気が引き閉まる。

「以上だ。ざっと説明したが、大体の内容は把握したか?」

「問題ありません。きちんとメモも残してあります。」

「上出来だ。では、確認としてまずお前らが最初に行う行動を聞かせてくれ。」

「はい。」

 今の段階で、アヤメは大体頭にも叩き込んである。一応書き留めておいたメモを見ずに、アヤメは答えた。

「まず最初に向かうべき場所としては、ツァオメイ様が支部長をしておられる"ニュンパ支部"。そこでツァオメイ支部長に指示を頂き、三人目のメンバーである"インファ"という女性と合流し、バチ討伐へと向かう。という認識でよろしいでしょうか?」

「ああ、それでいい。インファの能力については俺は把握していない。その能力次第でばちに挑む判断は行う。ドタバタですまんが、時間に余裕はそんなにない。各自適宜休息を行った後、速やかに任務を行ってくれ。」

 申し訳なさそうにクサナギが言葉を濁すが、アヤメとウグイスは気にせずに元気に返事を行った。

「こっちは問題ないッス!!泥船に乗った気持ちでいてください!!」

「お前、本当に特待生か?それを言うなら大船だ……。」

「元気で何よりだ。期待しているぞ。」

 クサナギとの対談は終わり、二人は自室に戻っていった。


   ─ 4 ─


 シャワータイムを終えたアヤメは、すぐに自室のベッドに吸い込まれた。柔らかい感触が背後を包み込むように抱き寄せる。大きく深呼吸をすると、今までの疲れが一気に体に押し寄せてきた。

「結構疲れているな……。」

 連日の入院や、今後のことなど、最近は色々とあった。ここまで疲れが出るのは久しぶりのことだったので、少々驚いたのだ。

 アヤメは、自身の左手の甲を見る。ひし形の青い水晶は、まるで大空のように果てしなく青く澄んでいる。じっと見ているだけでも吸い込まれそうだ。

「レーヴェン、か。」

 レーヴェンとなった今、格段に自分の力が強くなったという事実がアヤメの前に立ち塞がる。アヤメは、その事実が受け入れられずにいた。

 バチの片腕を吹き飛ばしたとはいえ、その頃の記憶ははっきりしておらず、まだ自分がやったとは思えないのだ。それに、急に強くなってしまったということは、それ相応の周囲からの期待や重圧などが自身に襲い掛かってくるのは当然のことであり、肩に重くのしかかってくる。

 ウグイスのように明るくポジティブにものを考えることが出来る人間であれば、その重圧を踏み台にして更なる躍進へと進んでいくであろう。だが、アヤメはそれができずにいた。

「私は、君が羨ましい。」

 虚空に思いを吐露したアヤメは、その瞳を静かに閉じる。


 アヤメが瞼を開けると、目の前には少女が立っていた。

「久しいな。」

 少女はアヤメの挨拶に反応するかのように、足を前に出す。

「歯車が、動き出した。」

「動き出した、じゃない。お前が無理やり動かしたんだろ。」

「……。」

 少女は、アヤメの左手を掴む。

「動かさないと、この世界の未来が断たれる。」

 この世界。彼女が言っていることは果たして、人間のためなのか、それとも……。

「お前は、一体何者だ?人か?ズィーガーか?それとも。」

 彼女に目線を合わせ、強く言葉に出す。

「私と同じ、レーヴェンか?」

「私からは、言うことは出来ない。」

 首を横に振り、少女は更に言葉を繋げた。

「いずれ、分かる。その時まで。」

 そして、目の前が真っ白になった。


「さよなら。」


 目を覚ました時には、既に窓の外が明るく光っていた。

「朝、か。」

 あの夢を見ることにもうストレスを感じることはなくなった。体の慣れなのか、それともレーヴェンだからこその体質なのか。分からない。

 アヤメは時計を見た。小鳥が泣いていることから、まだ早朝と言ったところだろう。これから準備をして向かえば出発時間には間に合うだろう。

-AM 9:16-

 前言撤回だ。集合時間は残り十四分、急いで用意をしよう。

 アヤメは飛び起き、いそいで支度に移った。


「アヤメさんが寝坊なんて、珍しいっスね。」

「本当に済まない……。」

 結局アヤメが待ち合わせ場所に着いたのは、集合時間の三十分後だった。

 アヤメが集合場所まで急いでいくと、ウグイスは既に準備を終えて見知らぬ誰かと談笑しているところが見えた。彼のコミュニケーション能力の高さがうかがえる。

「いえいえ!まだ全然待ってないっスから、問題ないっスよ!それじゃ、発着場に行きましょうか。」

 ウグイスは笑顔で発着場の方へと歩き出す。それについていくような感じで、アヤメも歩いた。

 今回の遠征の場合、拘束時間が長くなってしまうため、専属の送迎車はつかずに自ら運転して目的地へと向かわなくてはならない。アヤメたちは、自分たちが使用する移動用バイクの状態を確認する。

「うん、あらかた問題ないっスね。そっちはどうっすか?」

「ああ。大丈夫だ。」

 お互いに確認を取り、バイクに跨る。ただでさえ出発に遅れているというのに、ここでぐずぐずしている暇はないのだ。

「アヤメさん、行きましょうか!!」

「アヤメでいい。」

「え?」

「同じチーム、同い年、そして同僚だ。首席で卒業している私に、下手な尊敬心などいらん。次、丁寧な言葉で接した瞬間、その口を銃で撃ちぬくからな。」

 ウグイスは、アヤメの方を見る。その視線はこれから進む道を真っ直ぐと見据え、口元は微笑んでいる。

「……わかったよ。じゃ、さっさと行こうぜ。アヤメ!!」

「ああ。遅れを取るなよ。ウグイス。」

 エンジンを吹かし、出発の合図を送った。

 応えるように、ウグイスもエンジンを吹かした。


「いざ、華やかなる歓楽の国、ニュンパへ!」

 二匹の駆ける狼が、風に乗って真っ直ぐと進む。 


 その二つの影を見る謎の影がいるとも知らずに。



【3.新たなる旅路】


   ─ 1 ─


[???]


「大分、癒えて来たな」

 丸太のような腕をぶんぶんと回し、大男は吠えた。女に斬られた腕が、ほぼ問題なく再生していることを確認する。

「っは!!あんな小娘共にこの腕を持ってかれるなんてな!!」

 高らかに笑うバチ=アーキオータは、目の前に居る部下のズィーガーに言い放った。

「クサナギとやり合う前の準備運動として、一応奴にマークを入れとけ。」

 小型のズィーガーはコクンと頷き、そのままどこかに行ってしまった。

『随分と楽しそうじゃない。』

 別の小型ズィーガーから、女性の声が聞こえる。

「あん?そりゃそうよ!手ごたえのありそうなやつが出てきたからな!」

 小型ズィーガーがくすくすと笑い、言葉を続ける。

『伝言よ。"次はない"ってね。』

「ちっ……。」

 少々イラつきを見せた表情で、バチは怒鳴る。

「外野ごときが囀るんじゃねぇ!!鬱陶しいハエが!!」

『あらあら。それはごめんな……。』

「ふん!!」

 バチは小型ズィーガーを再生した腕で粉砕した。女の声はもう聞こえない。

「次はないだ?そりゃこっちのセリフだ。」

 言葉を吹きかけ、奥へと姿を暗ます。



   ─ 2 ─


[ラルウァ地方 ニュンパへと続く道、フィリア=ゲピューラ]


「……。ウグイス、止まれ。」

 アヤメの合図でウグイスが止まると、アヤメに言葉を投げかけた。

「どうしたよ。」

「ここから先、レーダーからズィーガー反応が多数検出された。中には大型もいる。」

「なるほど。このまま突っ込んだら、取り囲まれて袋叩きになるだろうな。」

「そういうことだ。往復で数を減らしながら、大型を叩くぞ。」

「了解。へへっ。」

「ん?なんだ?」

 ふいにウグイスが笑い出したことが気になり、アヤメは眉を顰める。

「正体を組んでから、初の任務じゃん?それに俺らのレーヴェンとしての強さがどれほどのもんか、それがわかるんだ。ワクワクしてしょうがねぇ。」

「全く、あまり調子に乗るなよ?体力は備えあれば患いなし。」

「いついかなる時でも対応できるように。だろ?」

「分かっているのなら言うことはない。それに……。」

 二人は上着を脱いだ。

「レーヴェンの強さを知りたいのは、同感だ。」

 体に埋め込まれた水晶は、淡く光る。


 押し寄せる小型ズィーガーの群れに、アヤメは銃口を向ける。

(確か、あの時はこんな感じに撃っていたはず。)

 微かに記憶に残っているバチとの戦いを思い出す。全身に力を込めて体を燃やすような感覚、その感覚を左手に集中させる。しかし、水晶は青く光るものの攻撃には適応されずに終わる。

「やはり難しいか……。」

 水晶が青く光っているということは、手順は間違ってはいないということだ。つまり、何かきっかけがないとレーヴェンの力は使えないというのだろうか。

 ふとウグイスを見る。勘のいい彼なら何か掴んでいるのではないだろうか。

 彼もアヤメと同じく四苦八苦していた。彼の方に埋め込まれている水晶は鈍く光っているものの、それらしい技は放たれていない。

「そっちは大丈夫か!」

 迫りくる雑魚を蹴散らしながら、アヤメはウグイスに問いかけた。

「大丈夫!ただ、ちょっとまだ力の制御が出来なくて……。」

「力の制御?」

「うん!気を抜くと、一気に出し切っちゃうわ!これ!」

 ウグイスをの動きを再度見る。よく見たら、全ての動きが洗練されており、ズィーガーが彼の一撃で簡単に吹き飛んでいることが分かった。一撃を放つときに結晶の光が数段増していることから、彼はレーヴェンの能力を発動したのである。

「ウグイス!その力、どうやって出してる?」

「え?今聞く!?それ!?」

 確かに、ズィーガーと交戦中の中、雑談をしている暇などないということは分かっている。だが、アヤメは今すぐにその力の出し方を知りたい感情の方が勝っていた。

「いいから!教えろ!!」

「えっと、体の中心に力をためて……。おわっ!あっぶねぇ!」

 間一髪でズィーガーからの攻撃を避け、カウンターをお見舞いする。その軽い一撃だけでも相手は力を失っていた。

「で、その次は!」

「その次!?そんなん力を放出するくらいしかないよ!!」

 おかしい。手順は同じだ。だとしたら私にもできるはず。しかし水晶からは何も効果が無いように感じた。一体何をトリガーとして効果が発動しているのだろうか。

 アヤメはその答えがわからず、その戦闘を終えた。


「ふぅ、いっちょ上がり!」

 周囲の雑魚の掃討が終わり、二人は一息ついた。

 以前の状態であったら、疲労が少しは溜まっているだろう。しかし、二人に疲れは全くなかった。

「ウグイス、お前のレーヴェンの力は何だ?」

「あぁ。分かりにくかった?ツァオメイさんに教えてもらったんだけど、"重いものを簡単に持ち上げて振り回せる"能力らしいんだ。」

 なるほど。どおりであの大黒天を軽々と振り回していたわけだ。

「そういや、レーヴェンの力は使ってなかったね。一体どうして?」

「いや、それが……。」

 チームメンバーだ。ここで隠して足を引っ張っては元も子もない。正直に話そう。

「なるほど。出さなかったのではなく出せなかったのか。うーん、不思議だな……。」

「あと一つ足りない気がするんだ。力を溜める以外に何か特殊なことをやったか、感じたということはないか?」

「うーん。力を溜める以外ねぇ……。あっ。」

 思い出したかのように、ウグイスが話し始めた。

「俺は英雄になるんだ!っていう決意を心に留めて、気分を高めてた、かな?」

「気分を高めて……。」

 確かに、気分を高めるという動作という者はアヤメは戦闘では一切行っていない。技をどう出すかということに専念していた。まさか、気分を高めることがトリガーとなっているのか?

「あんまし参考になんなくてごめんなぁ……。いっつも適当だから……。」

「いや、参考になった。」

 バチの腕を吹き飛ばしたあの時、確かに私は気分が高まっていた。私の気分が高まるとすれば、あの感情しかない。

「アヤメ?」

 アヤメはウグイスと少し距離を置き、道路横の林に銃を向けた。

 私を動かしている感情。それは、


 怒りだ。


 アヤメの咆哮と共に、左手の結晶から光が放出し、銃口へと吸い込まれた。放たれた銃弾に纏わりつくかのように光は凝縮され、木への着弾と共に一気に爆ぜる。目の前の林は、そこに巨大な球体が押し込まれていたかのように一気になぎ倒された。

「ありがとう。もう、問題なくレーヴェンの力は使える。」

「お、おう。そうか。」

 ウグイスは、アヤメの笑顔に少し恐れを抱いた。



   ─ 3 ─


「これで、終わりだ!」

 ウグイスは大黒天を振りかぶり、群れの親玉である中型ズィーガーにとどめを刺した。

 崩れ落ちるズィーガーにを背に、二人はハイタッチをする。

「連携がしっかりとできていた。」

 ズィーガーの群れの掃討は、難なく終わった。

 昔では苦戦したであろう中型ズィーガーも、敵に攻撃をさせる隙も無く一瞬で倒してしまった。

「意外にあっけなかったね。俺らってこんな強かったっけ?」

「慢心は良くないな。確かに、私たちの実力は格段に飛躍しているだろう。だが、油断しては痛手をくらうことになる。速やかにバイクを拾って移動を再開させよう。」

「了解ッ!」

 二人はクサナギと本部に連絡を入れ、移動を再開した。


 過ぎ去る二人の影は、車輪によって巻き上げられた土埃によって徐々に消えてゆく。

「……。」

 何処からともなく表れた少女は、裸足でズィーガーの亡骸を踏み越える。

「歯車が完全に動き出した。」

 少女は目を閉じ、深く息を吸い込む。今に輝きだしそうなその白い肌は、吸い込んだ空気に呼応するかのように静かに脈を打った。

 すると、みるみるうちにズィーガーの亡骸は、その形を保てなくなったのか風に吹かれた砂山のように静かに崩れ去った。

 少女は目を覚まし、言葉を吐き出す。

「進む先は、天国か、地獄か。いずれにせよ……。」


「もう、後戻りはできないか。」

 そこに少女の姿は、もういない。


[ニュンパ地方 フィリア=ゲピューラ北部]


「アヤメ!あっちを見て!」

「ああ。見えている。」

 暫くバイクを走らせていると、右手に巨大な建造物が見え始めた。

 まだ目的地までに20キロほどはあるだろう。この地点から既に大きく見えているということは、実際の大きさとなるとかなりのものになるだろう。

 しかし、ここからは迂回していかなければならないため到着にはまだ少し時間がかかる。

「どうする、道順のまま迂回していくか、オフロードを突っ切るか。」

 アヤメの提案に、ウグイスは少し悩んだ後に答える。

「おし、乗った!雑魚との交戦で時間を無駄にしちゃったからね!」

「そう来なくては。」

 二人は道路から外れ、荒野に飛び出す。

「どうだ?支部にどっちが早く着くか勝負しない?負けたらがニュンパの美味しい茶を奢る。」

「その提案乗った。ウグイス、ドライブの試験で成績が上の私に勝負を挑むとはいい度胸だな。」

「なんか今日は行ける気がするんだよね!!」

 同時にアクセルを全開にして走り出す。

 地盤はやはり安定はしていない。油断しているとすぐにハンドルを持っていかれそうになるが、二人は一気に荒野を駆け抜けてゆく。

 まず最初に前へ出たのはウグイスだった、華麗なハンドルさばきを見せて目の前の障害物をすれすれで避けてゆく。レーヴェンとなった彼の動きは、益々洗練されていた。

 巻き上がる土煙は、お互いの競争意欲を奮い立たせる。

 アヤメは後れを取らんと後ろに追従し、アクセルを思いきり回す。しかし、ウグイスもすでにアクセル全開で走っているためか、距離はつめれたがなかなか追い越せない。

「やるな。」

 アヤメは太ももに取り付けていた銃を引き抜き、前方に向けた。高ぶる感情に身を任せ、引き金を引いた。

 放たれた青い矢は真っ直ぐと進み、そのまま大きな岩に着弾した。岩はいとも下端に砕け、目の前に道ができる。

「うおっ!?」

 砕かれた岩の破片がウグイスのもとに雨のように降り注ぐ。ウグイスは驚きながらも難なくすべてを躱す。続けて大岩が倒れた衝撃で舞い上がった土煙によって当たりの視界が奪われ、進行方向が分からなくなってしまった。

 瞬間、アヤメがウグイスの頭上を軽やかに飛び越えた。そのまま綺麗に着地し、目の前を走って行く。

「……。へぇ。燃えるねぇ。」

 ウグイスはその言葉を残し、更に速度を上げてアヤメの後を追う。


 デッドヒートの末に勝利したのは、アヤメだった。

「ちっくしょう!あともうちょいだったのに!」

「いや、正直に言うとここまでウグイスが速くなっているとは思ってなかった。」

「あの遠距離攻撃は反則っしょ……。当たったら痛いじゃすまないぞ。」

「ちゃんと避けてたじゃないか。それにお前も使ってただろう。方が光ってたぞ。」

「ちぇー。」

 二人はバイクから降り、目の前にある崖から下を見下ろす。

 そこには大きな機械と共に活気横溢している大きな都市が一望できた。所々から金属が衝突する鈍い音や、機械のため息のような上記の音が仕切りに鳴っている。

 やはりこの街で一番目立つのは山よ理大きいのではないかと思うほどの巨大な建造物ではなかろうか。その迫力で押しつぶされそうになる。

「とにかく、着いたな。」

「ああ。」

 そう。ここが機械都市エレオス。ニュンパの首都である。

「まずは支部長に会わないとな。」

「そうだね。じゃあ、行こう。」

 二人は崖から飛び降りた。



[???]


「じきに、バチとの交戦が始まるかと思います。」

「そうか。ご苦労だったな。」

「私から行動をとる必要はあるでしょうか。」

「いや、必要ない。監視を続けてくれ。」

「御意。では、失礼いたします。」

 息を吐くと、紅蓮に燃ゆる炎が辺りを照らす。

「バチ、君には悪いけど消えてもらう。」

 そのまなざしは、鋭く、真っ直ぐを見据える。


「計画は始まった。俺の意思を託すまで、ここで待つ。」


「必ず来い!アヤメ!俺は、ずっとここに居る。」

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