呼ばれまして、こんにちは。3 〜橘さんの場合〜
座り込んでいるザイル君の横まで歩いて行くと、ザイル君の怪我の酷さに驚いた。
頭から血は出てるし、片脚は不自然な角度に曲がってるしで、とにかく重症だ。
「ちょっと痛いけど、我慢して?」
不自然に曲がってる脚の骨は多分折れてるだろう。
痛みを抑えるために回復魔法をかけながらだけど折れた脚を大体正しい向きに治すと、やはり痛かったのか、ザイル君は小さく呻いて顔をしかめた。
「ごめんね。痛かったよね?」
「へ・へ~きへ~き。」
ザイル君の顔が、半泣きな顔になってる。
それでも私が回復魔法をかけるとザイル君の表情が緩み、手に魔力が集められていた時よりも時間はかかっちゃったけど、無事にザイル君の怪我は完治した。
「ありがとな。ええっと・・・?」
「私、かなえ。橘かなえって言う・・・。」
ドオォォォン!!
な、何?
この地響き??
また何か出てきたの?
「おっ!さっすがボス。やっつけたみてぇだな。」
「や、やっつけたって、あの大きな毛むくじゃらを?」
驚いて音源となった場所を見ると、そこには毛むくじゃらな生物の体の上で凶悪な笑みを浮かべた男の人がいた。
「あの人はおれ達のボスでこの世界を救う勇者なんだぜ!」
勇者?
あの凶悪そうな笑顔は勇者って言うよりも魔王の方が似合う気がする、と言いたかったけど得意げにニコニコ笑うザイル君を前に敢えて口にしない私である。
「かなえ!わりぃけど、あそこに倒れてる二人の怪我も治してやってくれねぇかな?死んじゃいねぇはずだ。」
と、すっかり元気になったザイル君に頼まれて、私達の後方で倒れている二人に歩み寄った。
一人は私多分だけど私よりも年上の男の人で、もう一人は年下の男の子だ。
二人共気を失ってるだけで確かに生きている。
「!」
私は、先に体の小さな男の子の治療を始めようて男の子の体に手を掲げようとしたら、私の喉元に刃がキラリと光った。
「お前のその力は何だ?回復アイテムを使ったわけじゃねぇのに何故怪我が治せる?」
私の喉元に刃を向けたのは勇者さん。
その勇者と言う呼び名の似合わない鋭い視線に、私は思わず手を引っ込めてしまった。
「な、何って魔法です。回復の。」
ヒィィィ~。
怖いぃぃ。
「まほう?」
あれ?
魔法なんてしりません?的な反応。
「ええ、魔法です。知らないわけじゃないでしょ?」
「いんや。知らねぇ。」
勇者さんの変わりに応えたのはザイル君。
知らないって、ちょっとおかしいよね。
「あなた達だって私を呼び出すのに召喚魔法を使ったじゃない?」
ここがどこだかわからないけど、召喚魔法で呼び出されたんだし。
「・・・・・?」
私の言葉にわけがわからないと言った表情をする二人に一抹の不安が過る。
「私を呼び出したのって、誰?」
もし、この二人が魔法ってものを知らなかったら。
「ああ、おれ。」
私を呼び出したのはどうやらザイル君らしい。
「呼び出したからには帰せるんだよね?」
「帰すって、どうやて?」
私の不安が的中しそうな嫌な予感。
「送還魔法を使って、よ?」
「あ~・・・・・。」
呼び出すのが召喚魔法なら、元に送り帰すのが送還魔法。
呼び出したからには帰してもらえると言う事を全く疑わなかった私の心の中が嫌な音を立ててざわめきはじめる。
「わりぃ。帰し方、わかんねぇや。」
それは、テヘッっと可愛い子ぶって笑うザイル君に対して殺意が芽生えた瞬間でした。