呼ばれまして、こんにちは。2 〜橘さんの場合〜
「あの、怪我さえ治せれば良いんですか?」
さっき後ろにいる人が怪我をしてなきゃ勝てる相手だって言ってた。
まだ私の手にはここに召喚されそうになってた時に集めた魔力があるから、攻撃力のある魔法は苦手だけど得意な回復魔法なら、いつもより早く身体を回復させられる。
「治す手立てがあれば・・・の話だがな!」
毛むくじゃらな生物が前方の男の人にパンチを仕掛けたが、男の人は手に持った剣でそれを受け止めた。
男の人の剣の刃が毛むくじゃらの拳に接しているのに、毛むくじゃらな生物の毛が少々削げた位でその肌は傷付かずに力比べの状態になっているが、とてつもなく大きな生物相手にボロボロの男の人の体が徐々に押されてくる。
「治します!」
今の危機的状況を打破するにはこの男の人の怪我を治す事が1番だろうと判断した私は、魔力の集まっている手により魔力を集めながら手に男の人の背中にそっと触れ、回復魔法をその体に急激に流し込むようにかけた。
「!!」
私の魔力が回復魔法に変換されて癒しの色と光を放ちながら男の身体を包み込み、急速に怪我を治していく。
そして癒しの色と光が男の人の体内に全て吸い込まれるように消えると、男の人は毛むくじゃらな生物の拳を強く押し返し、大きくて毛むくじゃらな体を吹っ飛ばしていた。
「お前、一体何をした?」
毛むくじゃらな生物を吹っ飛ばした男の人は信じられないと言った顔で私に顔を向けた。
「!!」
この人、顔怖っ!!
顔立ちはとても端正だけど纏う雰囲気は怖いくて目付きも鋭い彼は、お世話にも好青年とは言い難い。
それにあの大きな毛むくじゃらな生物を吹っ飛ばした力と言い、私はとんでもない人を回復させちゃったんじゃって思うと蛇に睨まれた蛙の如く固まってしまう。
「お前はザイルの後ろにいろ。」
男の人は目を見開いて硬直する私を見て溜め息を吐くと、私に背を向けて再び剣を構えて走り出した。
男の人の前方にはさっき吹き飛ばした毛むくじゃらな生物がこっらに怒りの表情を向けている。
「ザ・・イル?」
ザイルって何??
「ザイルっておれ。おれの名前。」
その声に振り返ると、やっぱりボロボロで怪我をした男の人が力なく笑っている。
あっ、ザイルって人の名前だったのね。
「ザイルさんも酷い怪我。」
この人達を信用して怪我を治しても良いの?って自問自答するけど・・・怪我してる人を放っておくなんて私には出来ない。
「ザイルさん、なんてやめてくれよ。呼ばれ慣れねぇ呼び方されるとむず痒くなっちまう。」
私の『さん』付けに照れたのか、頬を少し赤く染めてザイルさんは笑った。
「じゃあ、ザイル・・君で良いですか?」
年齢も近そうだし、初対面の男の人を呼び捨てってそれこそ慣れないからちょっと抵抗あるし。
「ああ。でも敬語もなしな?」
ザイル君はそう言うとゆっくりと体勢を変えて地面に腰を下ろした。