呼ばれまして、こんにちは。 〜橘さんの場合〜
〜橘さんの場合〜
今、目の前にいらっしゃるコレは何?
毛むくじゃらでとてつもなく大きな身体と長い腕に、口も大きくて、その口からはこれまた長い舌と鋭い牙が見える。
どうしよう。
私、自分の置かれている状況がわからないんだけど。
うわっ、目が合っちゃった。
「・・・・・。」
人ってあまりにも現実離れしたモノに出会ってしまうと、考える事さえも放棄してしまうのかもしれない。
この目の前にいる毛むくじゃらのナニカと私が見つめ合ったのは、多分数秒。
そのお世辞にも知性的とは言えない毛むくじゃらの瞳と振り上げられた長い腕の先に光る鋭い爪が、今まさに私が危機的状況に陥っている事を教えてくれている。
「チッ!」
考える事を放棄した脳に誰が鳴らした舌打ちの音が響いたと思うと、強い力が腕を引いた。
ドオォォォン!!!!
毛むくじゃらの腕が降り下ろされると同時に地面が抉れ、その後から土埃が立ち上る。
「・・・・・。」
あれが当たっていたら命がなかったとわかり、体が震えてしまう。
「命が惜しいなら、いつまでも呆けてるな。死ぬぞ?」
突然かけられた声に首を動かすと、私の腕を掴んだ男の人が立っていた。
「大層な道具だなぁ?ザイル。」
苛立たし気にそう言葉を発したのは私の腕を掴んでいる男の人。
その男の人は顔は見えないけどあちこち怪我をしていてボロボロで、苦しそうに大きく呼吸をしながらも毛むくじゃらな生物に対峙して剣を構えている。
「すんませんでした!まさか女の子が出てくるなんて予想外で!!」
今度は私よりも後方から声が聞こえた。
「国宝だったアイテムなんだし、回復するとか何とかなるとかなんないかな~?なんて思っちゃったりして。」
力なく笑う声に振り向くと、そこには前方にいる男の人みたいにボロボロで、片膝をついた男の人がいる。
よく見ると更に後方に誰かが倒れているみたいだ。
「ゴオォォッ!!」
毛むくじゃらな生物が自身の胸を叩きながら咆哮をあげた。
「・・・・・。」
状況から察した所、どうやらヤバイと言われる状況らしい。
それで後方にいる彼がこの状況を何とかしたくて切羽詰まってこの状況を打破出来る何かを召喚したかった・・・のかな?
なのに、この状況に不似合いな私が登場しちゃったってわけね。
「すんません。怪我さえしてなきゃ勝てる敵なのに。おれがアホやったばっかりに。」
私の腕を掴んでいた男の人は後方の男をチラッと見て短く溜め息を吐くと私の腕を離し、毛むくじゃらな生物の攻撃に備えてもう一方の手で構えていた剣を両手で構え直した。