表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/75

そんな二人の旅立ちの時3

「桐生君の魔力って凄いね。」


桐生に桐生の回復役を名指しで指名された橘は回復魔法をかけるため桐生の隣まで来ると、先程の桐生の魔力により抉られた地面を眺めて呟いた。


「コントロール出来ればな。」


橘の呟きに当の桐生はダメージが大きいのか寝転がって苦笑いをしている。


橘はそんな桐生の胸の上に手をかざしてしゃがむと精神を集中させるためにふぅっと短く息を吐いた。


回復魔法に限らず全ての魔法を繰り出すために必要なのは『魔力』とその魔力を正しく理解しコントロールするための『想像力』だ。


桐生や橘の通うこの魔法学校では、己の中の魔力を正しく魔法に変換させるための想像力を養う事を主としているのだが、魔力こそ校内でもトップクラスの強さを誇っている桐生は、その魔力の強さにコントロールしきれずにいる。


「桐生君ならコツさえ掴めば直ぐに凄い魔法が使いこなせるようになるよ。私にはあんな強い爆発は起こせないもん。」


桐生を慰めるように微笑みながら魔法で桐生を回復させていく橘も桐生よりかは若干弱いが校内でも指折りの強い魔力保持者だ。


しかし橘はその穏やかな性格も影響しているのか回復系や防御系の魔法は得意なのだが攻撃力の強い魔法は苦手で、威力は弱い。


「でも怪我には気を付けてね。」


攻撃力は弱いが多種多彩な魔法を使いこなす優等生な橘とは違いって魔力だけは強い桐生は回復魔法など使えず、それを知っている橘は桐生を気遣ってか心配そうに首を傾げた。


橘は優しい。


魔力ばかり強く、魔法で失敗して怪我をする度に教頭や他の教師にまたかと呆れられている桐生に回復魔法をかけてくれるのはいつも橘だ。


始めの内は橘が生徒の中でも回復魔法が上手だからと教師達から頼まれていたのだが、いつの頃からか優しい笑顔で魔法をかけてくれる橘を桐生本人が指名するようになっていた。


橘は嫌な顔をせずに承知してくれる。


桐生はそれが嬉しかった。


「まだ痛い所ある?」


体の傷のほとんどが癒え、寝そべっていた上半身を起こした桐生に、橘はまだ心配そうな表情を向けている。


「・・・。」


橘が可愛い。


いや、元々可愛らしい顔立ちをしているのだが。


桐生が上半身を起こした事で桐生を見上げる橘の上目遣いに出会い、桐生の胸が橘の視線に射ぬかれたようにキュンと痛んだ。


「桐生君?」


「好きだ。」


桐生は胸の痛みを恋の痛みだと理解出来ていたのだろうか。


その告白は衝動的で突然であった。


「えっ?」


「あっ?」


桐生の突然の告白は橘だけでなく桐生本人をも驚かせていた。


橘は優しい。


橘は可愛い。


そんなのは今わかった事ではない。


橘は失敗を呆れず心配をしてくれる。


橘は認めてくれる。


橘は励ましてくれる。


それがいつもたまらなく嬉しかった。


橘が好きだ。


橘に好かれたい。


橘の側にいたい。


橘を自分だけのものにしたい。


今までも桐生の胸の奥底にあっただろう想いが、好きだと声に出した事をきっかけに桐生の心いっぱいに溢れ出している。


「好きだ。おれの彼女になって欲しい。」


桐生が突然の事に戸惑いで揺れる橘の瞳を見つめた時、桐生と橘を思わぬ事態が襲った。


「桐生君っ!橘さんっ!!」


少し離れた場所から聞こえた教頭の焦った声に辺りを見回すと、見慣れない魔方陣が桐生と橘の下に描かれている。


教頭が二人の元に走るが間に合いそうにない。


「それは召喚魔法の魔方陣です!すぐに打ち消しなさいっ!!その魔方陣を構成する魔力に強い魔力をぶつけて相殺するのです!!」


初めての緊急事態に動揺しつつも、教頭の言葉通りに魔方陣を打ち消そうと橘の手には強い魔力が集まっていく。


ドォォォン!!


「キャッ!!」


橘の短い悲鳴と共に魔方陣内の空間が歪む。


魔方陣に強い魔力をぶつけたのは橘ではなく桐生だ。


橘の魔力はまだ橘の手にある。


「橘ぁぁっ!!!」


桐生の魔力により2つに割れた魔方陣と消えていく景色と桐生の橘を呼ぶ声。


全てが消え失せたその跡には、今まであったその姿も残ってはいなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ