そんな二人の旅立ちの時
「今日は魔法陣を用いて魔力の具現化の授業を行います。」
初夏の風が吹き抜ける運動場に、全身黒ずくめに眼鏡と言う典型的な魔女スタイルの教頭の声が響いた。
初夏とは言え、夏。
太陽の日射しを受け、見ているだけで暑苦しい黒ずくめの魔女スタイルを汗一粒たりとも流さない教頭の姿を授業を受けている生徒達はうんざりと眺めている。
「ある程度魔法を極めると暑さを感じなくなるのかねぇ。」
学校指定の半袖のポロシャツとジャージと言う黒ずくめの教頭よりか涼しげな格好をしている女生徒が額の汗をハンカチで拭いながら隣に座る女生徒にぼやいた。
「先生が自分で作った魔法具で身体の周りに常に魔力を張り巡らせて体感温度を調整してるってきいたよ。さすが魔法具作りの第一人者だよね。」
魔法具とは、読んで字の如く魔法の道具だ。
魔法を教える魔法学校の教頭に就任出来るほどの魔力を備え、魔法具作りのエキスパートでもあるこの先生には体感温度を調整する魔法具作りなど造作もない事なのだろう。
「古賀さん!橘さん!!先生が説明している時に無駄口は慎みなさい!」
「「す、すみませんでした!!」」
そんな会話が耳に届いたのか、教頭に鋭い声で注意された2人はビクッと身体を震わせたが、二人が素直に謝ると教頭は一瞬だけ二人を睨み授業を再開させた。
「・・・(ごめんっ!)」
古賀と呼ばれた女生徒は顔の前で手を合わせて橘と呼ばれた女生徒に謝罪のジェスチャーを送ると、橘も申し訳なさそうに眉を寄せる古賀にOKのジェスチャーと共に笑顔を送る。
この地獄耳の教頭の前では例え小声でも私語は慎んだ方が良さそうだ。
「魔法陣は直接地面に書く方法と魔力で描く方法があります。魔法陣を描く上で重要なのは、具現化したい力をを正しくイメージして正確に描くと言う事です。イメージや形や呪文に間違えがあると予測不可能なモノを具現化してしまったり、魔力が暴走しまったりするので気を付けて下さい。特に桐生君!!」
「へ~い。気を付けまーす。」
教頭先生に名指しで注意を促された男子生徒は
人の話を聞かない事の多いこの桐生と呼ばれた男子生徒は知識はともかく魔力だけは強いのでちょっとしたトラブルメイカーとして有名なのである。