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博士はとても難しい事を仰います。
私はちゃんと博士に言われた通りに、微笑んでいるのに何が違うのでしょうか?
以前も、悲しみや怒りをと仰っていました。
喜怒哀楽と、私はデータ道理に顔の筋肉組織を動かし表情を作ったのに博士は今日のようにお一人で考え込んでしまいました。
何がいけないのでしょうか?
メアリーは部屋の掃除をしながら、老人の望みを叶えてあげたいと思っていました。ですが、その答えはいっこうに出ないままでした。
「そろそろ、ティータイムの時間ですね。」
メアリーは掃除を終えると、キッチンへと向かいました。老人が好きな紅茶とシュホンケーキをリビングへと運んでいきます。
「博士、紅茶がはいりましたよ。博士?」
老人は瞼を閉じたまま、メアリーの返事には答えません。
「博士?どうしたのですか?」
メアリーは老人の肩に触れました。すると老人の体は、まるで糸が切れた人形のようにソファーに倒れていきました。
「博士?眠るのでしたら、お部屋までお連れいたしますよ?」
「………。」
「は、はか、せ??」
老人は、ついに最後の時を迎えます、穏やかに穏やかに、老人の時は止まっていきます。
「博士!!」
「……。メア、リー。」
「はい。はい!博士!私はここに居ます!」
「笑って、おくれ、メア、リー。」
老人は霞む視界のなかメアリーに言いました。メアリーは老人に言われた通り微笑みます。
「…。私は、とても悔しいよ。メア、リー。」
空をかく老人の手をメアリーは握り締めました。
「私は、私は笑えていませんか博士?」
メアリーの問いに老人は苦笑します。
「私が、悪いんだ。きみを、完璧に造ることが、出来なかった。メアリー……。私は、悔しいよ、……………………………。」
「はか、せ?………っ博士!!!!」
そして老人の時は止まりました。
己の人生を全てかけたアンドロイドに見守られながら、長いようで短い、天才と呼ばれた科学者の命が星になってしまった瞬間でした。