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「今朝は、散歩をしていたパン屋のマークさんに挨拶をして、家の前に死んでいた小鳥を庭に埋めました。とても可哀想でした。」
メアリーは眉を下げ悲しい表情をつくりますが、何故か口元だけは微笑んでいました。
老人は言います。
「メアリー。悲しい時は口元は笑わない。」
「ですが博士。博士から与えていただいたデータでは、悲しいときでも人は笑うと有ります。」
「……。なぁメアリー、君は賢い。色々な事を考え吸収し成長していく、私の最高傑作だ。」
「有り難う御座います。博士。」
「だが、君は何もわかっていない。」
「?」
老人はため息をつくと、席をたちソファーへと腰かけると頭を抱え込んだ。
何が足りないんだ!
何十年という月日を!
私の生涯全てをかけているのに!
メアリーには人間の生物としてのココロが無いんだ!
色々なデータを与えた、私が知りうる色々な感情もどういう状況でその感情になるのかも、全て教えたのに!!
「何故なんだ!メアリー!!」
老人は悔しさと悲しさが入り交じった感情をメアリーにぶつけました。ですが、感情を、心を知らないアンドロイドには老人が急に大声を上げたことしか分からないのでした。
「どうしましたか博士?」
「メアリー、もう一度笑ってくれないか?」
はい。とメアリーは微笑みました。
「違う。」
「博士?笑えていませんか?」
「違う。君のはただ口角を上げているだけだ!」
「それでは駄目なのですか博士?」
「…。少し一人にさせてくれメアリー。」
「かしこまりました。」
メアリーは老人に一礼するとその場を離れ、壁に掛かった鏡の前で微笑んでみましたが、
「何が違うのでしょうか?」
メアリーには老人が言っていた意味が、分からないままなのでした。