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企画参加作品

冷たく白い肌。

作者: 梨野可鈴

なななん様主催、「夏の涼」企画への参加作品です。


 窓の閉め切られた、薄暗い部屋の中に、足を踏み入れる。寒気がしたのは、気のせいではない。

 彼女は、床に横たわっていた。その肌にそっと手を触れる。


 白い肌は冷たくなっていて、僕の汗ばんだ指に、ひやりとした感触を伝えた。


 群青のカーテンの向こうからは、蝉の鳴き声が聞こえてくる。

 外は、肌を差す太陽の光と、夏の活気と、熱と喧噪に溢れている。それら一切から、切り離されたかのような、この部屋。空気は淀んで、どこかムッとした臭いが鼻につくようになった。


 彼女が僕の部屋に入り、そして出てこないまま三日経った。

 そろそろ限界だな、と思う。


「さてと……」






 僕はエアコンの電源を消し、一気にカーテンと窓を開け放った!

 降り注ぐ真夏の陽光!

 彼女は、ドラキュラの如く悲鳴をあげ、ぎゃっ、と日陰になる位置へと転がり飛んだ!


「いつまでこの部屋に居座るつもりだ! エアコン修理が終わるまでという約束じゃなかったのか!」 

「嫌だ外に出たくない! 暑いよ、溶けちゃうよ、死んじゃうよ!」

「あっ、また設定温度下げたな!? 28℃にしろって言っただろうが!」


 彼女は僕の妹だ。


 一人暮らししている部屋のエアコンが壊れたから、助けてえと、ゾンビのような顔でやってきたのが三日前。可愛い妹が熱中症と脱水症状で死んでもいいのかと喚くので、エアコンが直るまでという約束で泊めさせた。


 妹の下宿先の大家さんから、エアコン修理が終わったと連絡があったのが二日前。


 と、同時に大型の低速台風が僕達の住む町を直撃。危ないのでそのまま妹を部屋に留めたのが一日前。


 そして、台風一過、気持ちいいくらいに晴れた、青空の眩しい、今日は日曜日。


 妹は大学が夏休みなのをいいことに、僕が会社に行っている間、一日中部屋でゴロゴロゴロゴロしているようだ。

 妹は本当に暑がりで、夏はクーラーの効いた部屋から一歩も出ないため、妹の肌は日焼け一つなく真っ白だし、一日中冷風に当たり続けた手足は冷たくなってしまっている。

 ここが一番ひんやりしているからと、エアコンの吹き出し口の真下、床に直接体をくっつけて寝るのはいかがなものか。玄関の三和土で寝ていた、実家の猫を思い出す。


「あんまり冷やすと、夏風邪をひくだろ。ほら、台風も過ぎたし、だいぶ涼しくなった。いい風が入ってくるぞ」


 扇風機を回せば、生ぬるいけれど優しい風が、部屋を通っていく。

 近所の公園から、盆踊りの太鼓の音が、風に乗って聞こえてきた。


……はい。涼しさを感じていただければ。

企画を主催していただいたなななん様、お読みいただいた皆様、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 夏場に手足が冷たくなるほど 冷房の効いた部屋にいる。 はい、すごく気持ちがわかります(笑) と笑った作品でした。
[良い点] 読ませていただきました。 開始数秒はホラー系かと思いましたが、途中から雰囲気がガラッと変わり、印象的でした。 ゴロゴロする妹は可愛らしかったです。 描写がしっかりとあるところも凄いなと思い…
[良い点] 最初の冷たく美しい描写から一転。ぱっと明るくなる、兄妹のほっこり描写! まんまとだまされました! 妹さん(笑)お兄ちゃん優しい。 いやぁ、面白かったです。
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