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友情なんてクソくらえ!  作者: ありま氷炎
第3章 純粋な関係
9/46

3-3

たける


 翌日、新規の会社への会社訪問を終わらせて、会社に戻ろうとするりと腕を組まれる。


玲美れみ?!」


 俺はぎょっとして足を止める。


 本当、猫みたいだ。

 気配を感じなかった。


「お前なんで、ここに」

「ふふ。知りたい? 秘密。教えてあげない」


 玲美は大きな目を細くして、腕を絡めたまま俺を見上げる。


 いやあ、本当に可愛い。

 シャムネコって感じだよな。


 いやいや、違う。


 するりと玲美から離れる。


「悪いけど、俺は好きな女がいるんだ。だからこういうのはちょっとな」


 そうそう、生まれ変わるんだ。


「ええ? 誰? あのデカイ女のこと?」

「デカイ女? 眞有まゆのこと知ってるのか?」

「……知らない。知らないわ。ねぇ。武。ご飯食べましょ。もうお昼だし」


 玲美は口を尖らせ、おねだりする猫のように俺を見上げる。


 そういや、もうお昼。

 しかも、玲美は眞有のこと知ってるみたいだし。

 よし、飯でも食べながら探りをいれるか。


「いいぜ。何食べたい?」

「やった。じゃあ。お寿司が食べたい」

「寿司ぃ?」

「うん。だめ?」


 目を大きく見開き、じっと見つめられる。


 ああ、これってどっかで見たことあるシーンだな。

 可愛い。

 逆らえないよなあ。


「わかった。行こう」

「ありがとう」


 玲美は、にこっと笑うと俺の腕に腕を絡め、ぐいぐいと歩き出す。


「玲美!?」



「ああ、おいしかった」


 回転ではなく、普通の板前のいる寿司屋に連れて行かれ、結構出費するなあと思ってたが、清算したのは玲美だった。玲美はゴールドカードを財布から颯爽と出し、店員を渡した。


「……悪いな。ありがとう」


 なんだか女性におごってもらうのはいい気分じゃないと思いながら、俺達は店を出る。


 謎な子だよな。

 金持ちの子女?

 だろうなあ。


 しかし、眞有のこと、うまいくらいはぐらかされた。


「武。私のこと知りたい?」


 先を歩いていた玲美がふと振り返る。


「……ああ」


 謎が多すぎだ。

 だいたいなんで俺に絡むんだ。しかも眞有のことも知ってるみたいだし。


「今後会ったとき教えてあげるわ。だからまた会おうね」

「え?!」

「いいでしょ」


 玲美は俺のところに小走りに戻ってくると、腕を掴んで見上げる。


 か、可愛い。

 ま、いいよな。

 会うだけだし、変なことしてるわけでもない。


「わ、わかった」

「じゃ、約束ね~!」


 嬉しそうに笑うと玲美は走り出す。


「玲美!」


 そう呼ぶ俺の声は聞こえていないようだ。

 あっという間に彼女の姿は見えなくなった。


 本当な謎な子だ、猫みたいだし。


「げ?」


 ふと腕時計をみると二時になろうとしていた。


「やばい。会社にもどらないと」


 確か二時半からミーティングだった。

 

 間に合うか。


 俺は玲美が消えた場所とは反対側を向くと、慌てて走り出した。



 結局ミーティングに遅れ、上司から小言ももらった。しかし、訪問した会社から手ごたえのある返事をもらったことを伝えると、態度が一転、がんばれよっと笑顔を見せた。


 用は結果なんだよな。

 結果が伴えば多少のことは目をつぶってもらえる。


 それは俺がここにきて学んだことだった。




「いらっしゃい」


 仕事帰り、自宅で暇をするよりは飲んだほうがましだと、木村さんの店に寄った。カウンターには霧元きりもとさんがすでにいて、タイミングが悪かったと店を出たくなる。

 しかし、それでも家にいるよりはましかもなんと座りなおした。


 頼んだグラスを煽りながら、考える。


 玲美はなぜ眞有のことを知ってただろう?

 俺の行動を知ってるかのごとく、現れたし。 

 俺って見張られてる?

 まさかな。馬鹿らしい。


 グラスに入ったウォッカを口に含む。


 カウンター右端の霧元さんに目を向けると、木村さんと楽しげに話をしていた。

 男同士といえ、好きな奴と話すのは楽しいよな。


 俺もそうだし。

 

 眞有……


 今ごろ仕事か、撫山って奴と一緒か。

 今回は相当綺麗みたいだからな。


 六年間、彼女を見てきた。

 自称美形ウォッチャーの彼女が、褒め称えていた撫山の外見……

 むかつくな。

 他の男を褒めまくりやがって。


 俺は眼中にないってことだよな。


「はあ……」


 気がつくと、大きな息を漏らしていた。


「池垣さん、どうしたんですか?」 


 俺の様子を見かねてか、木村さんがそう尋ねてくる。すると霧元さんの鋭い視線が刺さる。


 いや、いいですから。

 俺のことは。

 あの視線が痛すぎるし。


「なんでもないです。ちょっと疲れてるだけですから」

「疲れ? よく寝てる? 睡眠が一番大事ですよ」


 木村さんはそう言って笑いかける。


 すると霧元さんの視線に殺気がこもった気がした。


 いや、俺のことはまじでいいから。


 やっぱり、今日はもう帰ろう。

 なんか闇討ちとかされても怖いし。


「木村さん。俺もう帰ります。また来ます」

「もう?今日は早いですね。ああ、そうです。言い忘れてました。僕、支店を出すことにしたんです。場所は見山です。しばらく支店のほうに常駐するから、暇があったら来てください。これ名刺です」


 木村さんは二コリと笑うと俺に名刺を渡す。

 

 見山か、眞有の会社の近くだ。

 今度誘ってみるか。


「おめでとうございます。ぜひ顔を出しますね」


 霧元さんの鋭利な視線が俺を射殺そうとしていた。


 こえぇ。


 お勘定を済ませると、逃げるように店から退散した。


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