3-1
ちょっとだけ外野でBL要素があります。
「映画に付き合って」
そう強引に玲美に言われ、前回途中で帰った詫びと思い、誘いに乗った。
映画は『幽霊になった元カノ』というもので、祟り系の怖い話し方と思ったらラブコメディだった。なんでも女たらしの男の元に、高校生の時に付き合った彼女が幽霊になって現れて、過去の女遍歴を見せていくという話だった。
最後はどれだけの人を傷つけてきたかと男が反省し、自分が本当に好きな人と結ばれて終わっていた。
男は俺のことかよと思うくらい似ていて、かなり痛かった。
しかし隣に座る玲美は笑ったり、目をうるうるさせたりと感動して見ていたようだった。
「あーいい話だったね」
映画を観終わり、俺達は夕食をとるため近くのレストランに入る。玲美は大満足で、映画の感想を楽しそうに話していた。
ぎこちない笑顔を浮かべながら、適当に相槌を打つ。
なんか、どうなんだろう。
俺もあの映画に見習い、ここは反省するところなんだろうなあ。
本当に好きな女のこともわかったわけだし。
「武! 聞いてるの?」
「あ、悪い。なんだっけ?」
俺は悪びれずにそう答える。
すると、もうっと言い、玲美は口を尖らせた。
可愛い。
玲美は二十代前半の可愛い女の子だ。
多少子供っぽいが、可愛いから許せてしまう。
やっぱり可愛いって大事だよな。
眞有はガタイが大きいから、可愛いタイプじゃない。
性格もあーだし。
なのになんで俺は……
「武ったら!」
またぼーとしていたらしい、玲美に上目遣いで睨まれる。
唇がつやつやと輝き、キスを待たれているような錯覚を覚える。
いやいや、だめだ。
俺は生まれ変わるんだ。
誘いに乗りそうな本能を押しとどめて、グラスを煽り、中の水を口に含む。
そしてタイミングよく、注文した前菜が運ばれてきて、俺は安堵した。
「きたきた。この店のアスパラガスとローストビーフのサラダはお勧めなんだ。食べてみて」
俺は二コリを笑うと、テーブルに置かれた前菜を勧める。玲美は一瞬不服そうな顔を見せたが、「いただきます」と食べ始めた。
「じゃ、また。今日は楽しかった」
夕食を終わらせ、もう帰るの?という玲美を押し切って、彼女に別れを告げた。彼女は溜息をついた後、送ろうかという俺の申し出を断り、その場で別れた。
玲美は謎の子だよな。
あの名刺も名前だけしかなかったし。
ま、いいか。
駅に向かって歩きながら腕時計を見る。
時間はまだ午後九時だ。
木村さんとのとこでも寄って帰るか。
俺は家近くのバーで飲むことを決めると、足を速めた。
「いらっしゃい」
店の扉を開けると、穏やかな声がかけられる。
狭い店内には、数人の客がいた。しかし、カウンターの席は空いており、安堵して座る 。
「池垣さん、今日もウォッカ?」
「うん」
いつものようにそう尋ねる木村さんにそう答え、鋭い視線を向けられていることに気づく。それは右端に座る男で、黒のスーツを纏った四十代くらいのビジネスマンだった。髪は短く切られており、額が見えるほどで、少しきつめの瞳を俺に向けていた。
知り合いか?
いや違うはず。
しかし男はじっと俺を見つめていた。
いや、男に見つめられても嬉しくないんだけど。
どっかで見たことあるかな。
俺は記憶を探る。
「はい、どうぞ」
そう木村さんの声がしてカタンと俺の前にグラスが置かれると、男が視線を緩めた。
「霧元さん。この人は僕の常連さんで池垣武さんです。池垣さん、こっちは霧元建都さんで僕の友人です」
友人というところで霧元と呼ばれた男が苦笑する。
えっと、そういうことか。
だから俺が敵視されていたわけね。
俺は納得し、無害な笑顔を浮かべた。
「霧元さん。俺は池垣武です。木村さんの単なるお客なのでご心配なく」
「……池垣さん!」
木村さんが少し赤くなって俺の名を呼ぶ。
予想的中か。
ま、そうだと思ってたけど。
俺は対象外でよかった。
安堵してると霧元さんが再度睨んできた。
「それはよかった。よろしく、池垣武くん」
フルネームで君付けにかちんときたが、俺もいい大人だと思って二コリと笑顔を返した。
「宜しくお願いします」