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友情なんてクソくらえ!  作者: ありま氷炎
第2章 可愛い女たち
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2-2

「ではまた来週、来ます。本日はお時間を割いていただき、ありがとうございました」


 初めての会社に営業に来た。手ごたえが十分で来週のアポも作った。俺は意気揚々と会社を出る。

 時間は午後六時、報告書は明日でいいよな。

 電話をポケットから取り出し、彼女の番号を見つめる。


 朝から考えていた。

 四時からアポをいれた会社は眞有まゆの会社の近くだ。

 何時に終わるか、わからなかった。

 だから事前に眞有と約束するのもと思って、電話をしなかった。


 でも……。

 今日は空いてるか?

 来週の初めに飲んだばっかりだ。


 駄目か。


 ええーい、俺らしくない。


 俺は覚悟を決めると電話をかけた。


「武?近くにいるの?いいわ。私も今終わったところだから」


 眞有はすぐに電話に出た。

 彼女の言葉に心が躍るのがわかった。

 それはまるで初恋にも似た感情で、自虐的な笑みを浮かべる。


 まったく、どうかしてる。


 そんな風に思いながらも、待ち合わせの場所に意気揚々と向かった。



 いつものように、眞有は甘ったるいカクテルを頼み、俺はウィスキーにした。グラスを煽りながら、一週間ぶりに彼女を見つめる。


永香えいかに会ったんだ」


 眞有から今日のことを聞き、驚きを隠せなかった。


 永香はとてつもなく可愛いが、性格がちょっと不思議な女性だ。一緒に飲んでいた時、頭に何度かクエスチョンマークが浮かんだことを覚えている。

 そんな彼女に会って、眞有が何か余計なことを言われたんではないかと、なぜか心配になる。


「で、なんか言われた?」


 平静を装い、そう尋ねる。


「言われたわよ。あんたに純粋な女友達がいるのがめずらしいんだってさ」

「そうか。言われたなあ」

 

 やっぱり。

 まあ、俺が結構遊んでるのは眞有も知ってるからいいけどな。 

 でもなんだか、いい気分ではない。


 苦い顔をして見つめる彼女に、言い訳がましい笑顔を向ける。


「そういえば、加川姉とどういう知り合いなの? 取引先か何か? ああ、そんなわけないわよね。さすがにあんたでも取引相手とは寝ないでしょ?」

「……よくわかってるな」


 さすが眞有。

 でも誉められてるのか、けなされてるのかわからないけど。


「仕事と私情は別にしてるでしょ。有能会社員」


 彼女は苦笑したまま、ばしっと俺の肩を叩いた。


 これは一応誉められてるのか。

 仕事ができるってことで。

 

 眞有は仕事が好きだから、きっと仕事ができるほうがいいんだろうな。

 顔は彼女の好みだと思う。

 大学の時は明らかに好かれていたと思うし。


 あの時はまったく興味がなかったからなあ。

 デカイから目立ってたし。


 ふと視線を向けると彼女がじっと見ているのがわかった。

 俺は生真面目な眞有をふいにからかいたくなり、にやっと笑う。


「今日はやりたくなった?」

「じょ、冗談!」


 驚いた彼女は飲んでいた液体を気管にいれてしまったらしく、涙を浮かべてむせはじめた。

 

 本当、からかいがいあるよな。

 可愛い。


 俺はくすくすと笑いながら、眞有の背中をさする。


「一回、くらいいいだろう。減るもんじゃないし」


 背中をさすりながら、俺は落ち着いてきた彼女の羞恥に染まる顔を見たくて、顔を近づける。


「だーれが、あんたなんかと。私は一生あんたとは純粋な友達のつもりよ」


 すると彼女は俺の視線を避け、顔をそむけた。


「純粋か」


 やはり、眞有にその気はないか。

 このまま、無理に抱きしめて、キスしたらどうなるんだろう。

 嫌がる? それとも……


 俺は彼女の背中に手を触れたまま、そんな想いに駆られる。


「ああ、もう。武。やっぱり、あんたと飲むのはこれで最後にするわ」


 しかし、彼女はするりと俺から逃げるように椅子から立ち上がった。

 そして鞄を掴む。


 嫌だ。

 まだ一緒にいたい。

 子供じみた思考が頭をよぎる。

 そして彼女の腕を掴む。


眞有まゆ。俺が悪かった。もう変なこと言わないから」

「本当?」


 必死に口にだした言葉に、彼女が疑わしい視線を向ける。


「本当だ。約束する」


 守れない約束を口にする。


「じゃ、いいわ」


 しかし彼女はそれで安堵したようでそう答えた。


「よかった」


 眞有とはずっとこうして一緒に飲んでいたかった。

 もしかしたら、そのうちチャンスが回ってくるかもしれない。

 悪魔な俺がそう脳裏で呟く。

 

「じゃ、乾杯しようぜ」 


 眞有を引き留めたくて、そう言う。


「何に?」


 彼女が椅子に座りながら訝しげに俺を見た。


「俺達の友情に」


 俺はグラスを掲げながら、そう返す。


 友情、俺は実際そんなこと、考えてもいない。

 これは愛情、恋だと思う。


 ここ数日、俺を悩ましていた感情、それが恋だということが、今わかる。

 でも、今はそんなことを言うべきじゃない。


 今、眞有が欲しいのは友人としての俺だ。

 

「そうね」


 彼女は俺の想いに気付くことなく、微笑んで頷くと、テーブルの上のグラスを掴んだ。


「乾杯」


 彼女の微笑をまぶしく見つめながら、グラスを重ねた。


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