2-1
「武?」
目の前の猫のような可愛い子、玲美が上目遣いで俺を見る。
ああ、そうだった。
あれから数日後、玲美から電話があり、一緒に飲むことになった。
俺としたことが、こんな可愛い子のことを忘れており、電話で説明されるまで誰かわからなかった。
ここずっと気になっているのは可愛げのない女、眞有。
夢にまで出てくるようになったもんなあ。
重傷だ。
キスの感触が忘れられない。
キスよりもっと進んだ関係になりたいと思っている俺がいる。
この感情は何なんだろう。
好き?
まさかな。
ありえない。
「武?聞いているの?」
玲実は少し怒った顔をして俺を見上げる。
可愛い、とても可愛い。
以前の俺であれば、甘い言葉をかけまくり、お持ち帰り。
しかし、そんな気分になれなかった。
誘いに乗らなければよかったなあ。
「玲美。悪い。ちょっと体調が悪いんだ。帰ろうぜ。また次回、飲み直そう」
「ええ?」
腰を上げて財布を取り出した俺を玲美は不服そうに見つめる。
俺もそう思う。
こんな可愛くて、抱きしめたら柔らかそうな体なのに、なぜかそんな気分になれない。
「悪いな。誘ってもらったのに。今日はお詫びに俺がもつから」
「えー!? お礼のつもりで誘ったのに」
「いいからさ。じゃ、別の機会にお礼をしてよ」
彼女の肩をぽんぽんと叩くと笑いかける。すると玲美は目を細くして俺に微笑を返した。
「いいわ。次は絶対に最後まで付き合ってよね」
最後までって……
可愛い顔してよく言うな。
ああ、以前の俺なら次と言わず、今日そのままホテルでも俺の部屋にでも連れ込むのに。
いかんせん、やる気がない。
「ああ、楽しみにしてるよ」
そう答え、俺達は別れた。
家まで送ればよかったかなあ。
駅に向かいながら、そんなことを思ったが彼女は必要ないと断った。
その頑固な様子をおかしいなと思いつつ、眞有のことを考えてしまい、そのことはすぐに忘れた。
俺、やばいな。
どうしたんだろう。
自分の状態が解らず、戸惑いが募る。
落ち着かせようと夜空を見上げ、星を探す。
しかし、都会の空は明るすぎて星を見つめることができなかった。
そういえば、実家の空はきれいだったなあ。
空気もうまかったし。
ふいに十年近く帰っていない実家を思い出す。
まあ、弟がうまくやってるだろう。
家業をつぐなんで嫌だ。
こうやって自由気ままに過ごしたい。
ポケットに手を突っ込むと駅への道のりを速足で歩いた。