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友情なんてクソくらえ!  作者: ありま氷炎
第1章 彼女の可愛い後輩
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1-4

 予定より少し遅れていくと、不機嫌そうな眞有がカウンターに座っていた。飲んでいるのはいつもの甘いカクテルだ。

 本当、飲み物は可愛いよな。


 そう思いながら、いつものようにウォッカのロックを注文する。


 眞有はじっと俺を睨みつけると今日あったことを話して聞かせた。


「受けるわ。それ!」


 眞有の話に爆笑した。

 どうやら、昨日キスしたのを後輩に見られたせいで、軽い女と思われセフレになってくれと頼まれたらしい。


「受けるじゃないわよ!あんたのせいでしょ!」


 彼女は涙を浮かべて笑う俺に鋭い視線を向ける。


「俺のせい?」

「そう。あんたのせい。キスなんかするから!」


 そう抗議する彼女の顔は紅潮し、可愛く見えた。


「でもうまかっただろう?」


 俺は彼女をもっと怒らせたくなり、そんなことを言ってみる。


「うまかったわよ。さすがに池垣いけがきたける様よね」


 しかし彼女は俺の言葉に乗らず、ふふんと笑う。


「様か、様」


 しかもなぜか様付け。

 どういう意味だ?


 俺は訝しげに彼女を見る。


「だって、加川くん、あの池垣いけがきさんって言ってたわよ。あんた、そんなに有名なの?」

「加川?あの子、加川っていうのか?」


 心当たりのある苗字だった。


「え?言わなかったっけ?」


 眞有は俺の反応に意外そうな顔をする。


加川かがわ永香えいかっていう女性を知ってる。そういえば顔が似てる気がする。姉弟きょうだいか…」


 加川かがわ永香えいか

 人形みたいに華奢で可愛くて俺の好みにぴったりな女だった。

 しかし、いざベッドに誘うと、全然普通の子でがっかりした。


 あの後輩確かに、永香の弟と言われれば納得するような可愛らしさだったよな。

 なんで気がつかなかったんだろう。


「げー、なんでつながってるの」


 彼女は苦虫を噛み潰した顔をして、うなる。


「ま、世界は狭いっていうからな」


 本当狭すぎだ。


「はああ。明日からどうしよう」


 彼女は頭を抱えるとうつむいてしまった。


 どうやら、本当に困ってるらしい。


「どうしようって。困ってるのはあっちだと思うぞ。なんせ、僕、童貞です。やり方教えてくださいっていっちゃたらさあ」


 そうそう。童貞なんて女に知られたら痛いよな。

 俺だったか会社辞めちまう。


「ど、童貞っては言ってなかったわよ」


 彼女はアラサーのくせに少し赤くなってそう言う。


 まったく眞有は不思議な女だよな。

 童貞って単語くらい、照れる必要もないのに。


「でも初めてだから童貞だろ?」


 俺がそう言うと彼女が口を尖らせた。


「まあ、そうだけど」

 

 可愛い。

 

 まじ、俺おかしいな。

 眞有が可愛く思えるなんて。


「眞有。やっちまえばよかったのに。あれだけの可愛い顔だ。楽しめると思うけど」


 自分の思いを消したくてそう言葉を続ける。


「ふん。悪いけど、私はあんたと違って節操なしじゃないの。やっぱり愛がないと」


 彼女は鼻息を荒くそう言うと、カクテルの入ったグラスに手をかける。


「ふーん。愛ね~」


 愛なんて馬鹿らしい。

 心がつながってなくても、気持ちいいことすれば、感じるし。

 気持ちなんてどうでもいいのに。


 愛って言葉に吐き気を覚えて、俺はテーブルの上の小さなグラスを煽る。


「あんた、そんなのよく飲めるわね」


 苦い酒が苦手な彼女はうえっと顔を歪めて、そう言う。


 こういう顔が眞有らしい。 

 ほっとする。


「おいしいぞ。試す?眞有はお酒だけは可愛い奴飲むよな」


 俺はグラスを傾け、彼女に勧める。


「お酒だけは余計」


 眞有は眉間に皺を寄せるとグラスを両手で持った。


 こういう表情が、彼女らしい。

 可愛い表情をする眞有を見ると、どうしていいかわからなくなる。

 

 なんだろう。俺。

  

 こういう飾らない眞有だから、一緒にいて楽だし、ずっと関係を続けたくなる。

 なのに、昨日から俺はおかしい。

 彼女を可愛いと思い、抱きたくなる。

 彼女は俺の友達だ。

 友達にすぎないんだ。


 自分にそう言い聞かせて、新しいグラスを手にする。

 

「眞有の失恋に乾杯」


 にこっと彼女へ微笑み、グラスを掲げる。自分の想いが友情であることを再確認したかった。

 眞有はそんな俺に苦笑しながら、自分のグラスを重ね、カクテルをその口に含む。


 おいしいと笑った彼女の笑顔を可愛らしく見え、驚く。

 濡れた唇に色気を感じる。


 どうしたんだ。俺?

 眞有は友達にすぎない。

 

 それなのに。


「眞有。俺がお前のこと好きだって知ってた?」


 俺は自分の想いを試したくてそう口にする。


「はあ?」


 彼女が口を歪める。

 

 当然だ。

 俺もおかしいと思う。


 でもなんだろう。

 眞有とこのまま一緒にいたいと思ってしまう。

 一緒にいて、彼女に触れ、キスしたい、抱きたいと切実に願う。


「だから今日はいいだろう?」


 俺はウォッカの入ったグラスを煽り、誘いをかける。


「冗談」


 しかし彼女は俺に冷ややかに答えた。


 眞有らしい。

 彼女は隙を見せない。


 だからこそ、彼女を求めるのか。

 その隠された部分を見たいと思って。


 俺は自分のそんな想いを胸に潜め、眞有と酒を飲み続けた。



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