10-5
がたん、がたんと電車がゆれる。
俺と奴は眞有をはさんで座っていた。
乗客が先ほどからちらりと、ちらりと俺達に視線を向ける。真ん中に挟まれた眞有は少し窮屈そうな様子だった。
なんで奴は眞有の隣に座るんだ。
乗客の視線よりも、彼女に話しかける奴のことで苛立ち、怒りを押さえられなかった。
「眞有は次の駅で降りるんですよね?」
「はい」
奴の問いに眞有は頷く。
「俺も一緒に降りる。眞有のお母さんにも心配かけたし」
彼女の肩を引き寄せ、奴を牽制する。
早く奴から離れ、二人っきりになりたかった。
「じゃ、眞有、池垣さん。また」
奴はそんな俺に肩をすくめてみせただけで、それ以上何も言わず、電車を降りる俺達に手を振った。
俺は彼女の手を握ると、無言で階段を降りる。
彼女の戸惑いが伝わったが、奴から早く眞有を離したかった。
奴がいい人だということがわかるたびに、彼女を失う不安を覚えた。
奴は俺より彼女にふさわしい。
でも俺は彼女が必要だ。
改札を抜け、駅を出たとき、足を止めた。
そして、眞有に確認したくて詰問する。
「眞有。やっぱり、お前は撫山が好きなのか?」
「そ、そんなわけないでしょ!」
彼女は怒ったようにそう答える。
嘘を言ってるように見えない。
でも彼女を信じられなかった。
「だって、俺はわがままだし、あいつみたいにお前を想えない。だから、もしお前が撫山を好きだったら、俺……」
「どうするの? 武は私を好きなんでしょ? 違うの? 宮元さんと結婚すればよかったと思ってるの? 後悔してるの?」
「!」
彼女の言葉に胸を抉られる。
俺の気持ち、彼女も信じてないのか?
俺は彼女を選んだ。
すべてを捨てて。
「そんなこと思ってるわけないだろう! 例え、お前が撫山と付き合ったとしても、俺は玲美と結婚するつもりはない!」
怒りまかせにそう叫ぶ。
「なんでそこに港が出てくるのよ。私が好きなのは武なんだから!」
俺の怒声が彼女を泣かせてしまったのか。
彼女の瞳からぽろぽろと涙がこぼれる。
「……ごめん!」
胸が締め付けれるように痛みを覚え、彼女を抱きしめる。
泣かせてしまった。
そんなつもりないのに。
「離して!」
彼女はそう叫び体をよじり、俺の腕から逃げ出そうとする。そんな彼女を抱きしめ、その肩に顔をうずめる。
「俺が悪かった。不安なんだ。すごく」
「池垣さん、ありがとうございました」
俺と眞有は気まずい雰囲気のまま、彼女の家に到着した。
玄関を開けると、眞有のお母さんがほっとした様子で出てきて頭を下げる。
「すみません。俺が不安を煽るような電話をしてしまって」
それを見て頭を下げた。
心配をかけさせたかもしれない。
こうやっていつも回りに迷惑を掛ける。
「いえいえ。とんでもないわ。本当、うちの娘も連絡くらいすればよかったんだけど」
しかし彼女のお母さんは大らかに笑う。
「か、母さん。何かやってたんでしょ。早く行ったら!」
「わかったわ。池垣さん。本当、今日はありがとうございました」
そんなお母さんに眞有が慌てて言うと、彼女はぺこりと頭を下げると家の奥へ戻っていった。
いいお母さんだな。
さすが眞有の母親だ。
「……じゃ、俺会社に戻るから。またメールする」
お母さんの背中を見送り、眞有に笑いかける。
ぎこちない笑みだとわかっていた。でも彼女をつなぎとめたくて笑顔を作った。
「うん」
彼女の返事に安堵しながら、家を後にする。
眞有が好きだ。
でもうまく伝えられない。
彼女を信じられない俺がいる。
小さくなる眞有の家をもう一度振り向く。
そして息を吐くと、駅に向かった。




