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友情なんてクソくらえ!  作者: ありま氷炎
第9章 最後の決断
32/46

9-1

 目覚まし時計の音で目覚めると、部屋には誰もいなかった。


「玲美?」


 一人で帰ったのか?

 彼女らしくないけど。

 ま、いいか。


 俺は深く考えず、大きな欠伸をするとソファから体を起こす。

 そして、ふとテーブルに置いていたノートパソコンを見ると電源の明かりが見える。


 あれ?俺、昨日使ってないよな。

 消し忘れ?


 そう疑問に思いながらも、電源を消すとシャワーを浴びるため、バスルームに向かった。




『眞有。おはよう。今日はパーティーだな。がんばれよ』

  

 出社するとそうメールを送る。

 携帯を使うと玲美のチェックが入りそうで、会社のメルアドを使った。しかし返事が返ってこなくて気分がめげる。

 

 まあ、今日は忙しいからな。


 そう思うことにして、仕事に集中した。


 お昼近くになって、玲美から連絡を受ける。お昼の誘いだったが、電話口の声が怒っていて、昨日の公衆電話のことかと思い、溜息をつく。しかし断るわけにもいかず、待ち合わせの場所に向かった。


「武。へんなこと考えてるみたいよね」


 喫茶店についた俺に開口一番で言ったのはそんな言葉だった。


「へんなこと?」


 椅子に座り、メニューを店員から受けとりながら、そう聞き返す。


「言いたくなければいいけど。でも思い通りにはさせないから。今日、あの女の会社のパーティーなんでしょ?父に誘いがあったみたいだけど、私が代わりに行くことにしたの。武、もちろん、あなたも一緒よ」


 玲美は艶やかに光るピンクの唇を皮肉気にあげて、微笑む。


 ばれてるのか?


 眞有達がパーティーをきっかけに玲美の父親に近づいて、俺の用意した報告書を見せ、ホテル建設を諦めてもらう算段だった。


「今日六時、会社に迎えにいくわ。ワインことはよくわからないけど、楽しみだわ。武もそうでしょ?」


 玲美が肘をテーブルにつき、俺を見上げる。口元には微笑が浮かんでいたが、その瞳は笑っていなかった。


 断れるわけがない……か。

 眞有、ごめん。


 ふと眞有を想い、息を吐く。 


「さあ、武。お昼にしましょ。何が食べたい?」


 しかし、玲美は俺のそんな様子を無視して、楽しげにそう尋ねた。




「さ、武、行きましょ」


 午後六時、時間通り玲美が現れた。そして藤川の車でホテルに向かう。

 豪華なシャンデリアが頭上で輝くロビーで立ち止まった俺の腕に玲美が腕を絡ませ微笑む。

 昼食を一緒にした後、自宅に戻ったのか、着ている服は青色のフリルが付いたワンピースで、首元に光るネックレスが煌びやかに輝いている。


 こう見るとやっぱり令嬢なんだな。


 玲美に引きずられるようにエレベーターに乗り込む。

 三階に上がり、宴会場へ辿り着くと、眞有の姿が見えた。爽やかな男前の隣に立ち、客に向かって頭を下げたり、にこやかに話をしている。相変わらず可愛げのない地味なパンツスーツを着ており、彼女の性格が表れていた。

 少し離れたところには、撫山が外人達と一緒に立っていて、華やか雰囲気を醸し出している。しかし奴の穏やかな視線は眞有に向けられ、胸が焦がれるがわかった。

 

 奴は眞有が本当に好きだ。

 俺と違って、真面目で、誠実な男。

 でも渡したくない。


「武」


 そんなことを考えていると、玲美がぐいっと俺の腕を引き、眞有のいる受付へ近づく。

 彼女が必死に笑顔を取り繕うとしているのがわかった。


「こんにちは。宮元カンパニーの宮元玲美です」


 玲美はそんな眞有を無視して、受付の男前にそう伝える。その側に立つ彼女は顔を張りついた笑顔を浮かべていた。


 その表情が辛くて、顔をそむける。


「宮元カンパニーの方ですね」


 男前は硬い声色で玲美の言葉を復唱する。


「ごめんなさいね。父は来られないわ。私が父の代理で来たの。婚約者も一緒よ」


 玲美は男前に向かって、にこやかに笑う。

 

 眞有、ごめん。


 眞有に対面する勇気がなく、顔をそむけたまま、玲美の側に立つ。


 何もできない無力の俺が情けなかった。


「ご来場ありがとうございます。パーティー開始まで後三十分ありますので、中でワインなど試飲しながらお待ちください」


 一呼吸間があり、男の代わりに眞有の震えた声が耳に届いた。

 

 その声は俺に彼女の苦しみを伝え、胸に痛みが走る。


 彼女を苦しめている自分が情けなかった。

 でも、何もできない。


「安田さんでしたっけ?私ワインのこと、詳しくないの。始まるまで時間があるみたいだから説明していただけるかしら?」


 玲美はそんな俺と眞有をあざ笑うようにそう口にする。


 できるわけない。

 なんて女だ。

 明らかに眞有への嫌がらせだ。


 でも、俺が悪いのか。

 玲美に気持ちを持たせた……


「宮元様、かしこまりました」


 しかし眞有は静かにそう答え、目を閉じる。



 そうして俺と玲美は、彼女の案内で会場に入る。

 眞有は置かれたワインの前に立ち止まり、笑顔を作りながら説明してくれた。

 

 その姿は可憐で、彼女を抱きしめたくなる。

 しかし、玲美はそんな俺に猫のように纏わりつき、俺に言い聞かせる。


『わかってるの?』


 触れられる腕から、そんな玲美の言葉が聞こえ、眞有への気持ちを押しとどめる。


 

「武、これ試してみたら?」


 ふいに玲美が、勧められた試食用のワインを口に含んだ後、そのグラスを俺に渡す。戸惑う俺の前で眞有がきゅっと唇をかみ締め、顔をそむけた。


 最低だ。

 俺は。

 彼女にこんな表情をさせるなんて……


 しかし、すぐ側に玲美の『飲まないの?』という視線を感じる。


 ここで拒否したら、結果はわかってる。


 でも限界だ。

 

 好きな女にこれ以上、こんな思いをさせるわけにはいかない。


 俺の脳裏に十年前の、弟と父の姿が浮かぶ。

 しかし、俺は目を閉じるとそれらを掻き消した。


「悪いけど」


 息を吐くと、渡されたグラスをテーブルに戻す。そして玲美から離れると、眞有の隣に立った。彼女が驚いて俺を見上げるのがわかった。


 眞有、今までごめん。


 心を決めると、彼女を安心させようと笑いかける。


「玲美。家の事で俺はお前と結婚するつもりだった。でも、俺はこれ以上、お前の言いなりになるつもりはない。お前との婚約は解消する」

 

 一気にそう言葉を吐き出すと、眞有の腰の手をあて、側に寄せる。家を切り捨てる怖さを眞有の暖かさで慰めて欲しかった。 


「武?!そんなことをしたらわかってるの?」


 玲美は俺を睨むと、そう叫ぶ。周囲の視線が一気に俺達に集中した。


「ああ、わかってる。お前の好きにしたらいい」


 覚悟を決めると玲美を見つめ返した。


 俺は好きな女と幸せになりたい。

 好きな女を傷つけることなんかしたくない。


 自分が家を捨てることが怖かった。十年前に捨てたつもりだった。でも本当はずっと心の中にあった。

 でも今日で完全にお別れだ。


「!」


 ふわりと包み込むような暖かさを背中に感じる。それは眞有の手で俺は心が安らぐのがわかった。


「ふん、どうなっても知らないから!」


 そんな俺達に玲美は噛みつくようにそう言い、会場を後にする。周囲の客がざわざわと話をし始めるのがわかった。

 

 終わりだ。

 でも、これでよかったんだ。


「武……?」


 眞有が俺を心配そうに見上げる。彼女に心配かけないように笑顔を作る。


「ごめん。眞有。始めからこうすればよかった。俺はお前が好きだ。だからいいんだ」 


 そう言うと彼女を抱きしめる。

 それは彼女というよりも俺のためだった。


 心に忍び寄る罪悪感が、俺を苦しめ、怖くなった。

 


「武……」


 彼女は俺のそんな気持ちがわかるのか、涙を流し、俺の胸にしがみつく。


「眞有。泣くな。俺が決めたことだから。お前は気にしなくていいから」 

 

 彼女のせいではない。

 俺が決めたことだ。


 そう囁きながら、彼女の涙を拭った。


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