6-3
翌日、ソファで目を覚ました。
ラッキーなことにいつもよりは早く目を覚まし、どうにかシャワーを浴び身支度を備えて、マンションを出る。
会社に着くとぎりぎりで、部長はちょっと酒臭い息を吐きながら出社していた。
「はい。五時ですね」
部長や他のやつらに捕まらないように、就業時間ぎりぎりで外の用事を作る。
今夜こそは眞有と過ごすつもりだった。
午後四時半、顧客の会社に向かう途中、携帯電話が鳴る。ディスプレイを確認すると玲美だった。
長らく鳴った後、やっと切れ、俺はすぐにサイレントモードに切り替えた。
『武。お疲れ様。今日はどこで会う?』
携帯を入れているポケットが再度揺れ、待たされている待合室で携帯電話を取り出す。すると眞有で顔の筋肉がゆるむのがわかった。
五時半か。
この調子じゃ、六時半までかかりそうだ。
どうしよう。
今いるのは中田か。あ、家に近いな。
そうか、眞有に駅まで来てもらおう。
家に近くにうまいレストランがあったし。
『お疲れ!今中田町で打ち合わせ中。瀬田駅まで来れる?おいしい店を知ってるんだ』
そうメールを送ると、お客さんが姿を見せ、俺は携帯電話をしまうと腰上げる。そして打ち合わせを始めた。
「今日は貴重なお時間を割いていただきありがとうございます」
夜の付き合いに誘ったほうがいいかと思ったが、眞有に会いたい一身で、そのまま会社を後にした。
次回、次回誘えばいいんだ。
自分にそう言い聞かせると、携帯電話を取り出す。
『いいよ。何時?』
返事がきていて、慌てて電話をかける。
「眞有。ごめん! 今どこ? 俺、やっと打ち合わせが終わったんだ。瀬田駅? ああ、わかった。今からすぐ行くから」
電話を切り、駅まで猛ダッシュした。途中、電話が鳴り、ディスプレイを確認する。それは玲実で俺は無視を決め、眞有が待ってるはずの駅構内へ駆け込んだ。
「なあ、うちで飲みなおさないか?」
最後に運ばれてきたデザートを食べ終わり、嬉しそうな眞有を誘った。
「う、うち?」
彼女はぎょっとして俺を見つめる。
「そう。うち。近いんだ。家飲みの方が楽だし、そうしようぜ」
「……うん」
眞有は戸惑いながらも俺の誘いにうなずいた。
「眞有」
飲んでるうちにどうも我慢ができなくなり、キスをした。触れるほどのキスから始めた俺だったが、そのうち彼女をもっと感じたくて、深く口づける。甘ったるいカクテルの味が俺の脳内を刺激する。
自分で飲むのはごめんだが、こうやってキスして味わうのはうまいかも。
そんなことを思いながら、眞有をソファに押し倒す。彼女がきゅっと俺の背中に手を回し、頼られているようで嬉しくなる。
着ているシャツからちらりと鎖骨が見え、彼女の隠された肌が見える。もっと彼女が見たくて、彼女のシャツのボタンに手をかけた。
「ダイエットするまで待ってて」
手を掴まれ、我に返った眞有が俺を見つめていた。
「なんだよ。それ!」
俺は思わず子供みたいに文句を言う。
気持ちが高まり、今日は絶対に抱きたかった。
「だって、お腹ぶよぶよだし。ちょっと見られるのが嫌」
彼女は俺の背中から手を離し、赤くなりながらそう答える。
「だったら電気消せばいいだろう」
そんなの気にしてないのに。
見られたくないなら電気を消せばいいのかと思い、ソファから体を起し電気を消そうとする。
「嫌、頑張ってダイエットするから。待ってて」
しかし、眞有はぎゅっと両手でシャツの胸元を隠すように掴んで、俺を見上げる。
それがなんだかいつもの勝気な彼女らしくなく、小動物のように思え、ますます抱きたくなる。
「ダイエットなんていいのに。俺は柔らかい方が好きだから」
彼女をその気にさせたくて、深く口づける。しかし、彼女は強情でその両手は守るように胸元に置かれたままだ。
「なあ、眞有。だったら、服着たままでいいから」
裸が気になるなら、そう囁くと彼女を早く味わいたくて、その首筋をぺろりと舐める。
甘い、とても甘い。きっと中はもっと甘くて気持ちいい。
「着たまま?!」
彼女は俺の言葉にぎょっとして目を見開く。
「うん。その方がそそられそう。オフィスで愛を確かめ合う男女ってシチュエーション。どう?」
我ながらいい思いつき。
試したことないけど、眞有とやるなら絶対に気持ちいいはず。
俺がそんな妄想をしていると、彼女はするりと俺の腕の下から逃げ出した。
「眞有」
「だめ、ダイエットしてから」
彼女はすくっと立ち上がると請うようにそう言う。その瞳からは涙が出そうで、あきらめて溜息をつく。
「頑固だなあ」
体を起こすと、ソファに座り直す。
そして眞有を見るとなぜか真っ赤になって顔をそむけた。
なんだ?
俺を見てた?
やっぱり眞有もそういう気持ちはあるんだよな。
「俺は眞有の今が見たいのに。きっとベッドの上のお前は全然違うはずだし……」
抱きたい。彼女を食べたい。
彼女の気持ちを変えたくてそう言う。
しかし、ふいに携帯電話の音が鳴り響き、俺を見ていた眞有が鞄の置いてあるところに走る。そして携帯電話を取り出すと音を消した。
「誰から?」
誰だ?なんでとらない?
「誰でもない。アラームセットしてたの。時間忘れるとまずいから」
しかし眞有は顔色を変えずそう言うと携帯電話を鞄に戻す。
「ふーん」
本当か?
撫山じゃないよな?
俺の疑いに彼女は苦笑する。
眞有が嘘つくわけないと思うけど、あの撫山はかなり危険だ。
そんな嫉妬まみれの俺にかまわず、彼女は乱れたシャツやスカートを整え始める。
「じゃ、武。私、今日は帰るね」
「え、帰る?なんで?」
セックスはなくとも泊まっていくんじゃないのか?
鞄を持った彼女を止めようとソファから立ち上がる。
「明日は朝から打合せがあるから早く帰りたいの」
しかし彼女はさらっとそう答え、俺に笑いかける。
「……それって撫山の?」
思わず、俺はそう聞いていた。
「うん」
撫山か。
会って欲しくない、それが仕事だとしても。
子供っぽい俺はそう思って口を開く。
「……行くな」
「?!」
彼女が両目を見開き、俺を見つめる。
「行くなって言ったら?」
無理だよな。
仕事だから。
半ばあきらめて再度そう言葉にする。
「無理に決まってるでしょ」
彼女は驚いたまま、そう答える。
そんなこと、わかってる。
「冗談だよ」
子供じみた俺が馬鹿らしく、苦笑する。
「?」
眞有はそんな俺が奇妙に思えたのか、戸惑いの表情を見せる。
大丈夫。彼女は裏切らない。
そう自分に言い聞かせるといつもの笑みを浮かべた。
「今度来る時は着替えもってこいよな」
俺の言葉に眞有が安堵したのがわかった。




