6-1
そっと自分を撫でる手で目が覚める。
「母さん?」
「武、ごめんね。私を許して」
「母さん?」
ぼんやりと目を開けて母さんを見つめる。暗闇の中、母さんが泣いてるのわかった。
「どうしたの?」
「なんでもない。ごめんね。武」
母さんはぎゅっと俺を抱きしめる。
不思議に思ったが、母さんに抱かれ安心してそのまま眠りについた。
それが母さんに抱かれた最後の記憶だった。
ジリリリリリ!
けたたましい目覚まし時計の音で目を覚ます。そしてベッドから這い出すと時計を止める。
「うるさい、まったく!」
十数年ぶりに見た夢の後味の悪さも加わり、俺の目覚めは最悪だった。
ああ、昨日、眞有と一緒に飲めたらよかったのに。
そしたらこんな夢見なかったかもしれない。
そう思いながら、ベッドから降り立ち、仕度を始める。
俺の彼女、眞有とは昨日結局会えなかった。
せっかく彼氏彼女になったんだから、一緒に過ごしたいと思ったのに、俺は接待で、彼女に会えなかった。
くそっつ。
ああ、胸糞悪い。
自分たちを捨てた母なんて大嫌いだった。男と出て行くなんて最低な女だ。
歯磨きをしながら、大嫌いな母のことを思う。
ツルルル、ふりに着信音がなり、俺は慌てて口を濯ぐ。
誰だ?
洗面所から慌てて外に出て携帯電話を取る。ディスプレイを見ると『玲美』と表示されていた。俺は迷ったが、取らずに顔を洗うために、洗面所に戻る。すると着信音は数回鳴った後、止んだ。
玲美、不思議な子だよな。
しかも藤川が一緒にいるなんて、ますますおかしい。
ま、俺はもう女遊びはしないから。
関係ないか。
タオルで顔を拭くと、鏡を睨む。
鏡の中の俺は、ふふんと楽しげに笑っていた。
『おはよう。今日は元気にがんばろうぜ。今夜は会える?』
電車の中でそうメッセを送る。数分後、『おはよう。そうだね。今日もがんばろう。今夜、会えるといいけど』と眞有から返信がある。
それだけでなんだか嬉しくなる。
『会いたい。また連絡する』
そうまた返事を返すと、駅を降りた。
重症だよな。
キャラが違う。
いままでこんな風にマメに連絡することなどなかった。メールなんて面倒だった。でも眞有にメールするのは違った。
さあ、今日もがんばるぜ。
気合を入れると会社の入ってるビルに入った。
「玲美?」
昼休み、面倒だから、コンビニで飯を買おうと思って会社を出ると、玲美に遭遇する。
彼女がなぜか怒っており、大きな瞳をますます大きくさせ、口をとがらせていた。
「なんで、お前が……」
「武! なんで電話に出ないの!」
俺の言葉を遮って玲美がそう言った。
いや、そんな風に言われても。
俺は眞有と付き合ってるし。
戸惑う俺を玲美はじっと見つめている。その瞳がうるうるとし始め、慌てて彼女の手を掴む。
「ちょっと場所変えよ」
会社近く、しかもコンビニ側だと目立つ。
彼女を手を引き、近くの公園に連れて行った。
「玲美。電話出なかったのは悪かった。でも、俺は彼女ができたらか、もう遊ぶつもりないから」
「彼女って、あのデカイ女?」
玲美は俺を見上げてそう聞く。
確かに玲美に比べれば眞有は大きい。
でも俺からすれば可愛い女の子だ。
「デカイは余計だ。隠してもしょうがないと思うけど、俺の彼女は安田眞有。だからもう俺に電話かけてくるなよな」
用はないと彼女に背を向ける。
「絶対に諦めないから!」
背後で彼女が叫ぶ。
だけど、彼女の叫びを無視して、公園を抜け出た。冷たいようだが下手に同情するのはよくない。
だめなものはだめだから。




