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友情なんてクソくらえ!  作者: ありま氷炎
第1章 彼女の可愛い後輩
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1-2

「じゃ、また明日な!」


 夕食を同僚たちと共にして、所帯持ちの奴が帰ると言い出し、俺達は別れた。どこかに寄る気分にもなれなく、繁華街を通って、駅に向かって歩いてた。

 すると、ふと右手の居酒屋の窓から見知った顔を見えて、驚いた。


 眞有まゆ

 向かいの奴は……。

 ああ、噂の可愛い後輩か。

 確かに可愛い。


 え?

 酔ってる?

 

 可愛い男が、ことんとテーブルに顔を伏せたのが見えた。

 眞有がぎょっとして、必死に呼びかけている。


 気がつくと、店の中に飛び込んでいた。


「あれ。眞有まゆ?」


 そう聞いた俺の声は普通だっただろうか?

 眞有まゆは俺の顔を見て顔を輝かせた。


「武!助けて!」


 そして必死に俺の腕を掴んだ。



「よいっしょ」


 眞有まゆの願いを受け、彼女の後輩をうちに泊まらせることにした。

 ベッドに彼の体を横たえると、眞有に向き直る。

 

「これがお前の可愛い後輩か」

「そう」


 彼女は持っている鞄がぎゅっと両手で掴んでそう答えた。

 なんだか緊張しているようだった。


「ラブホに連れて行ったらよかったのに」


 そんな彼女に俺は軽口を叩く。


「誰が、そういう既成事実を作るのは嫌いなの」


 彼女は幾分緊張を和らげと生真面目にそう答える。

 

 そう彼女はこういう女だ。

 

 眞有まゆを困らせたくて再度言ってみる。


「ふーん。こんな可愛い奴と寝る機会なんてもうないかもしれないのに」

「うるさいわね。じゃ、ごめん。加川くんをよろしく」


 俺の言葉に彼女は完全にむっとして背を向けた。


 帰すつもりはなかった。

 だいたい、なんで何も知らない奴と一夜を過ごさないといけないんだ。

 女の子なら大歓迎なのに。

  

「帰るのか?! 冗談だろう? お前の後輩だろう? 朝まで責任とれよな」


 その背中に向かって攻めるように言葉を発す。


「……わかったわよ」


 彼女は大きな溜息をつくとソファに座りなおした。


「何か飲む?」


 眞有まゆの横に座るとその顔を見た。彼女の頬が緊張なのか、なんなのか少し赤くなっているのがわかった。


 触れたい。


 そんな思いが俺を支配する。しかし彼女は俺から逃げるように視線をそらす。


「うん。お茶か何かある?」

「ウーロン茶がある」

「じゃ、お願い」


 彼女にそう言われ、飲み物を取るために腰を上げる。そして背中を向けたとき、彼女が安堵したのがわかった。


 だめだ。

 今日は彼女をどうしても抱きたい。

 なんでだ?

 

 自分の衝動がわからなかった。

 好みではない。


 冗談で誘ってきたが、こんな風に心の底から抱きたいと思ったのは初めてだった。



眞有まゆ…? まじかよ」


 台所からウーロン茶を入れたコップを持って戻ると、ソファで眠りこけている眞有まゆがいた。


 寝やがった。

 信じられない!


 俺は脱力し、飲み物をこぼしそうになった。

 しかし、息を整えるとテーブルにコップを置く。


 そして向かいのソファに座って彼女の寝顔を見つめる。

 柔らかな、優しい顔だった。

 

 こんな表情もできるんだ。


 彼女の穏やか顔から目が離せなくなっていた。

 ソファから腰を上げると、彼女の頬に触れる。

 

 肌は三十歳前だというのに、二十代前半のようなきめ細かい柔らかな感触だった。

 唇は半開きに開かれて、俺を誘っているように思えた。


 キスしたい。


 本能のまま、彼女に唇を重ねる。

 俺のキスに彼女が答えたような気がした。


 そして眞有まゆが目を開く。


「な、何してるのよ! 馬鹿!」


 彼女は俺の胸を押して、唇から逃れた。


「キス。だっておいしそうだったから」


 俺がそう言うと、彼女の顔が羞恥に染まる。それがなんだか、俺をますます刺激する。


「おいしそうって。ふざけないでよ。なんで寝込みを襲うのよ。馬鹿!」


 眞有まゆは俺から逃れようと体をよじる。しかし逃がすつもりがなかった。


「だって、起きてたら絶対に無理だろう。ずっと誘っていたのに眞有まゆはいつも断るから。でも今日はいいだろう?」


 俺はそう言って再度キスをした。彼女の抵抗する手を掴み、体をソファに押し付ける。


「!」


 彼女が言葉を発しようとするのを俺の唇が許さなかった。

 

 抱きたい。 

 逃がさない。

 

「あ。あれ?」


 しかし、間の抜けた声が背後から聞こえ、油断した。すると眞有まゆがその隙にするりと俺の元から逃げ出す。


「安田さん? あれ、僕?」


 声の主は彼女の後輩だった。噂にたがわぬ可愛いらしい顔で驚きの表情を浮かべている。


 くそ、間が悪すぎだ。


 俺の苛立ちに反して、眞有まゆが明らかに安堵している様子がわかった。


「加川くん、えっとこっちは私の大学の時の友達で、池垣いけがきたける。酔っ払ってる君をどうしていいかわからなかったから彼の家に連れてきたのよ。もう大丈夫? 家まで送るわ。家どこ?」


 彼女は後輩の横に立ち、そう話す。彼は驚きながらも、聞かれていることはわかったらしく口を開いた。


「家は山野町です」

「ああ、私の家の近くだわ。一緒に帰りましょう。たける、ありがとう。またね」


 眞有は、にっこり笑うと彼の腕を掴み、俺から逃げる。


眞有まゆ!おい、ちょっと」


 慌てて追いかけたが、鼻先で玄関の扉が閉められた。ノブに手をかける。しかし、俺は扉を開けるのをやめた。


 次回がある。

 眞有まゆは嫌がってはいなかった。

 次回はきっと……。


 俺は次回にリベンジすることを誓う。

 そして急に襲ってきた眠気に従い、部屋に戻った。


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