4-2
2012年の作品の修正版のため、スマホ時代ではありません。
まじかよ。
しかし永香の表情は真剣だった。
まあ、言いたい事はわかるけど、俺が彼氏だったら引くな。
永香のお願いとは、うまいセックスのやり方を教えてほしいということだった。
なんか、下手とは言え、こんな可愛い女性とできるのは嬉しいけど。
そんなのありかよ。
ああ、でもボランティアと思えば……
別に後ろめたいことはないよな?
「池垣さん、だめかしら? 今度こそ本気なの。がっかりされたくないの、私」
いや、がっかりとか。
そういうのないと思うけど。
まあ、確かにあの時は外見とはまったく異なり、全然素人の永香には驚いたけど。
普通はそれでいいだろう。
俺の言ったこと気にしてる?
「教えてくれたら、お礼はするわ」
答えない俺に彼女はそう言葉を続ける。
お礼か。
そういえば、彼女の弟は眞有の後輩だよな。
弟を使って眞有と撫山の関係を聞き出すって手段があるか。
「いいぜ。じゃ、お礼というのもおかしいが、弟の携帯番号を教えてくれ」
「友亜貴の?」
とたん永香が驚いた顔をした。
ま、突然だもな。
「池垣さんが、弟に興味があるなんて知らなかったわ。でもごめんなさい。弟は渡せないわ」
「……」
……今、何て言った?
弟に興味がある?
ありえないだろう。その思考……
俺は気が遠くなりそうになるのをどうにか、こらえる。
「永香……。何を勘違いしたか知らないけど、俺はお前の弟には興味がない。単にちょっと聞きたいことがあるんだ」
「あ、そうなの。それならいいわ」
ほほほと永香は笑う。
ほほほじゃねーよ、まったく。
忘れていたけど、彼女はこういう摩訶不思議な生き物だったよな。
「えっと、読みあげるから記録してね」
俺を待とうともせず、永香は携帯電話を取り出すとそう口にする。
「ちょっと待って」
俺は慌てて携帯電話のメニューを触る。
「080-xxxx-xxxxx」
「OK。弟の名前なんて言うんだっけ?」
「友亜貴よ。友達の友に、亜熱帯の亜、そして貴族の貴よ」
「OK。ありがとうな」
よっし、これでスパイを一人ゲット。
撫山っていうハーフのことを明日にでも聞いてみよ。
「それじゃあ、教えてくれるかしら」
携帯電話を鞄に仕舞い込んだ永香がカウンターに肘をつき、重ねた両手に顔を乗せ、俺を見上げる。長い睫が影を作り、物憂げに見える。唇はピンク色で艶やかに輝く。
色っぽい、極上な女だ。
なのに、なんでなんだろうな……
ま、いいか。
今日は俺も楽しもう。嫌なことを忘れて。
そう思って、ホテルに場所を移そうと誘いをかけようとした時、店の入り口に眞有の姿が見えた。
幻?
いや違う。
本物だ。
「あれ? 眞有?」
「安田さん?」
俺の声に反応し、永香も同様に入り口を振り返る。
「ちょっと話があるんですけど」
眞有は怒りのオーラを放ち、俺たちに向かってそう言った。
「じゃ、眞有はいつもの甘いのな。スプモーニとかでいい?」
「うん」
俺の問いに眞有はむっつりした顔でうなずく。
これは妬かれているのか?
ちょっと嬉しく思いながら彼女を見る。
眞有は俺と永香の間に座っていた。俺の隣に座らせようとしたのだが、永香がさっと腰を上げ、彼女は俺達に挟まれる形で座ることになった。
思えば永香って、眞有のこと気にいってる感じだよな。
まあ、普通の女じゃ永香と話すと頭にきそうだし。
眞有なら、普通に話せそうだからな。
そんなこと思ってると、眞有がかなり鋭い視線を永香に向けた。
「加川さん。今日芋野さんとデートしてたんじゃなかったんですか?」
芋野?
誰だ、それは?
俺が疑問を抱えていると、永香がその可愛いらしい瞳を大きく開き、頬を真っ赤に染める。
「知ってるのね。そうよね。同じ会社だものね」
「はあ」
ああ、そっか。
眞有の会社の奴か、芋野って男は。
なんだ、眞有はその男のことを思って怒ってるのか。
俺のために妬いてるとかそういうのじゃなかったんだ。
多少がっかりしたが、それを見せないように二人の様子をうかがう。
眞有は相当怒っていて、目が爛爛と輝いていた。
しかし、対する永香はまったく気にしていないのか、顔を恥ずかしそうに真っ赤にさせてる。
なんだかおかしい状況だ。
俺はコントを見ているような気分になり、笑いがこみあげてきた。
「加川さん、芋野さんは優しい誠実な人なんです。彼を弄ぶのはやめてください!」
しかし眞有はそんな永香に怯むことなく、再び厳しい視線を投げかける。
「弄ぶなんて、そんな。ひどい」
永香はその視線を受け、心底傷ついた顔をする。
俺達の周りの人々の興味がこちらに向くのがわかった。
いやあ。
こういうときってやっぱり可愛いって得だな。
眞有が完全に悪者だから。
しかし、彼女は周りの視線に臆することなく言葉を続ける。
「加川さん、そんな演技をしても騙されませんよ。撫山さんだって、あなたによって傷つけられたんです。その上芋野さんまで傷つけたら許しません!」
まあ、もっともな言葉だ。
正論だよな。
しかし、眞有、ビジュアル的に不利だぞ。
「撫山さんって、あれは本当に好みじゃなかったもの。外人顔はだめなのよ。本当。でも芋野さんは私がずっと探し求めていた人なの。眼鏡を取ったのは残念だったけど、あの優しげなまなざし、奥手のところなんて、本当……」
永香は怒りをぶつける眞有に構わず、うっとりする表情を見せる。
眞有はどう対応していいかわからず、瞬きを繰り返し呆然としていた。
よっし、ここで俺の出番だな。
「眞有。永香は今回は本気らしいぞ。苦手な俺を呼び出してセックスの指南を求めるくらいだから」
そうフォローしたつもりが余計なことだったらしい。
眞有はますます、驚いた顔をした。
そこにちょうどいいのか、悪いのか木村さんがスプモーニをかたんと眞有の前に置く。彼女はじっとピンク色の液体を見て動きを止めた。
「眞有? 大丈夫か?」
俺は心配になって、彼女にそう呼びかける。
そこに宇宙人のような思考の女、永香はさらに彼女を混乱させるような言葉を吐いた。
「安田さん。そうだ。いいこと思いついたわ。池垣さんに教わるのはなんだし、安田さんが教えてくれない?芋野さんとはいい関係を築きたいのよ」
っていうか、その展開はないだろう。
永香はやっぱり摩訶不思議な生き物だな。
眞有はどう答えていいかわからず、言葉を失っている。
なんか、妙に可愛いな。
彼女のこういう顔、なかなか見ないよな。
普段ハキハキしてる眞有の、こういう顔もなかなか可愛い。
困っている彼女には悪いが、そう思ってしまいニヤニヤしてしまう。
そうして俺達三人はそんな状況のまま、飲み続けた。




