3-4
「で、なんで俺に電話?」
「だって、いいじゃない。どうせ今彼女いないんでしょ」
翌日、仕事から家に帰って服を着替えたら、不意に眞有から電話があった。そして俺は彼女と木村さんの店で飲むことにした。木村さんは支店のほうに行ってるとかで店には別のバーテンダーがいた。
ま、いいか。
しばらく待ってると眞有が来て、隣に座り真面目な顔をして俺を見る。
「武、どうしよう。好きになるかもしれない」
彼女は俺から視線を外してそう言った。
誰を指しているのかは、わかってる。
「……そのハーフの美形か?」
撫山だ。
「うん」
彼女は、こくんと頷く。
なんで彼女はいつもそうなんだ。
「やめとけ。そいつは永香が好きなんだろう?」
俺は眞有をあきらめさせたくて、思わずそう口にする。
「……うん。多分。まだ」
彼女は俯いたまま、そう答える。
傷つけた。
でも眞有を側につなぎとめておきたい。
「じゃ、無理だろう。やめとけ」
俺の声は多分冷たいものだっただろう。
撫山というハーフの美形が眞有に興味をもっているかなんて、わからない。でもどんな可能性があるかわからない。だから、彼女をあきらめさせたかった。
「そうだよね」
しばらく黙っていた眞有は大きな溜息をつくと、グラスを持つ。
「今日は普通よね?」
「うん。いつのもやつだ」
嘘をついた。今日こそは飲ませたかった。
彼女を俺のものにしたい。
「げ、武の馬鹿。違うじゃないの!」
彼女は顔を真っ赤にさせて、怒る。
それが可愛くて、俺は彼女を抱きしめたくなる。
「たまには酔えよな。面白くない。大丈夫、家まではちゃんと送ってやるから」
しかし俺の理性が必死にその衝動をこらえ、そう言葉にした。
「あんたの大丈夫は信用ならない」
彼女は顔を赤くしたまま、頼んだ水を飲む。
その仕草がやはり可愛く見えて、俺の心臓が跳ねる。
「つまんないな。眞有。一度くらい俺と試してみない?」
気がつくと俺はそう口にしていた。
「誰が!」
彼女は、ばんっとテーブルを叩くと立ち上がる。
「帰る」
怒った彼女を止めようと俺も慌てて腰をあげる。
すると目の前で眞有がバランスを崩した。
「眞有!」
俺は必死に手を伸ばし、その腕を掴み、抱きしめる。
「あ、ありがとう」
眞有が羞恥に染まった顔で俺に礼を言う。その顔に何とも言えない色気を感じて、俺の動悸が速まる。俺たちの距離はとても近く、彼女の息遣い聞こえるようだった。彼女が俺を見ているのがわかる。そしてその瞳に、ふいに驚きの色が浮ぶ、それは徐々に大きくなり悲しみに変わった。
「眞有?」
俺は心配になり、彼女の名を呼ぶ。
「ごめん。やっぱり帰る。ありがとう」
彼女は泣き出すのではないかというような、悲しげな表情で小さく答えた。
「眞有」
しかし俺の心配をよそに、眞有は俺の腕をするりと抜ける。
どうしたんだ?
急に?
俺のせい?
わけがわからなかった。
「またね。武。おやすみ」
しかし彼女は俺を再び見つめることなく、手だけを振ると店を出た。
からんと扉が開いて閉まる。
俺は眞有を追えなかった。
その背中はすべてを拒絶していた。
どうしてだ?
俺はそう何度もそう問いかけながら、一人で飲み続けた。




