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友情なんてクソくらえ!  作者: ありま氷炎
第1章 彼女の可愛い後輩
1/46

1-1

「ごめん。やっぱり、もうチョイ真面目な人と付き合うから」


 昼食時、急に呼び出され指定されたファミレスで待っていたら、言われた言葉がそれだった。


「そうか。そうだよな」


 俺は軽く頷く。

 元から重い女だと思っていた。結婚なんて考えていない俺とは未来が見えないと見限ったのだろう。

 体の相性もよくて、料理もうまくて、最高の女だったけど、しょうがない。

 結婚なんてばかばかしい。


「じゃ、武。そういうことだから」


 女――恵里はそう言うと席を立つ。


「昼食、一緒に食べないのか?」

「……食べれるわけないでしょ。馬鹿!」


 恵里の瞳がきらめいた気がした。

 泣いてる?

 なんで? 俺が振られたんだぜ?


 驚いている俺を尻目に恵里は踵を返すと、カツカツとハイヒールを鳴らし店を出て行った。


「あ、あの……ご注文は……」


 背中を見送っていた俺に店員が恐る恐る話しかけてくる。


「ああ、ハンバーグセットで」


 俺は店員に微笑むとそう答えた。



 最後の一口のハンバーグを口に含み、まあまあだったなと食べ終わる。口を拭いてコーヒーを飲みながら、携帯を触っていると、安田やすだ眞有まゆという名を見つけた。本人が油断している時に取った写真も一緒に保存していて、いつのきつめの視線が和らいで、ほんのり笑っている笑顔に目が奪われた。


 そう言えば眞有まゆと最後に会ったのいつだっけ?

 

 三か月前か。


 最後に飲んだ時の様子を思い出し、俺はほくそ笑む。彼女は面白い女だった。


 元気かな?

 

 俺は彼女のことが気になり始め、コーヒーを飲み終わるとすぐさま電話をかけた。


「もしもし?」

眞有まゆ? 俺、武だけど」


 彼女の名前は安田やすだ眞有まゆ。大学時代からの友人だ。出会ったころは、他の女同様、俺に熱い視線を向けていたが、そのうち冷やかに見るようになった。性格はまっすぐで隠し事ができないタイプ。飾らない物言いと一緒にいても男友達といるような感覚で、楽しく時間が過ごせ、いつの間にか飲み友達になった。


「じゃ、バー・ルナで。八時な」


 俺は約束を取り付けると電話を切る。久々に眞有まゆとの再会だった。


 そしてどうしたものか、さっきまで別れを告げられたショックで萎えていた心が、急に元気になった。同時に今夜は楽しい時間を過ごせそうだと心が浮き立つのも感じた。



「なんだ。久々に一緒に飲めると思ったら男の話か」


 酒を注文し、話された内容に俺の心が幾分しぼむ。

 眞有まゆに男っ気はなかった。仕事大好きな彼女は、遅くまで仕事をしていることが多い。しかも彼女の好みは特殊だ。

 どうもいわゆるイケメンを好きになる体質らしかった。


「そんなんじゃないわよ」


 俺の視線を受け、彼女が頬を膨らませる。

 その表情が可愛く見えて、俺は目を瞬かせる。


 眞有まゆは背が俺より10センチほど低い。しかし、俺がかなり高い方だから、彼女はいわゆるデカイ女だ。顔立ちも女性らしくはない。まあ、不細工ではないんだが、もてるタイプではない。でも彼女が好むのはもてるタイプの男ばかり。おかげで俺は彼女と出会ってから彼女が付き合ったという話を聞いたことがない。

 悪い顔じゃないんだから、好みを変えれば彼氏ができるはずだ。しかし、彼女が好きになるのはいつもイケメンだった。


「で、どんな男なんだ?」


 俺は苦笑しながらそう尋ねる。今度もイケメンに違いなかったが、聞いてみることにした。


「うーん。男っていうより男の子なんだけど」

「うわ。ショタか。犯罪だな。それは」

「失礼ね。二つ年下よ。ただすごく可愛くてさあ」


 彼女は顔を少し赤らめてそう言う。

 こういう顔はかわいいと思う。

 ふとそんな考えがよぎり、俺はそんな自分に驚く。


「可愛いって。男にいう台詞じゃないだろう」


 自分の想いを消すように茶化して俺はそう言った


「でも可愛いのよ。すごく」


 彼女はふふふと笑ってそう答える。その笑顔がまたゆるくてかわいらしく思えた。


「可愛い、可愛いって。男を可愛いって言い始めるのはおばさんの始まりだぞ?」


 俺は自分の驚くべき思いを消去しようと、容赦ない言葉を投げかける。


「うるさいわね~」


 すると彼女は先ほどの笑顔を消して、俺を睨みつけた。その表情がいつもの眞有で俺はほっとする。


「そういえば、あんたの彼女どうしたの?こうやって飲みに誘うということは振られた?それとも振った?」


 眞有まゆはふと思い出したようにカクテルを飲みながら俺を見つめる。


「わかる? 今回は振られた。なんだかショックでさ。眞有まゆに慰めてもらおうと思って」


 ふと仕掛けてみようと思い、俺はそう尋ねた。すると、彼女は苦笑した。


「飲むのはいいけど、体はだめ。そういうの嫌なんだ。寝ると終わりでしょ。私達の関係」


 ずばっとそう返されて俺は幾分がっかりする。


 ま、当然なんだけど。


 ずっと前から、眞有まゆと寝たらどうなるかと思っていた。

 強い彼女、そんな彼女がベッドの上でどうなるか、見たいと思う。

 しかし、彼女は俺のそんな思いをいつも打ち砕く。俺も彼女とこういう風に飲めるのが楽しく、誘うのはいつも冗談混じりだった。

 寝ると関係が壊れる。 

 確かにそうかもしれない。


 でも興味がある。


「ちぇ。つまんないな」


 俺がそう言うと、眞有まゆはあからさまに嫌そうな顔をする。


「だったら、帰る。体を慰めて欲しければ別の友達呼べばいいでしょ」

「嘘だよ。眞有まゆ。飲もうぜ。な」


 俺は帰ろうと腰を浮かした彼女の腕を慌てて掴む。腕を掴まれた彼女は大きな息を吐く。


「だったら、今日はおごりね。よろしく」

「わかったよ……」


 おごりかよ。 

 さすが、眞有まゆだよな。


 ま、でも一緒に飲めるのは楽しいし。


眞有まゆ、今日は俺の失恋の酒だ。最後まで付き合えよな」

「え?! 明日仕事なんだけど」

「タクシーで送るから」

「……わかったわよ」


 そうして俺たちは遅くまで飲み明かした。


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