魅力と才能の無駄遣い
すらりと伸びる銀髪、真珠のような大きな瞳、全身から溢れる桃色の雰囲気。数千年に一度の美女とはまさに彼女のために生まれてきた表現であろう。
僕はそんな彼女、瀧安寺アイリの横顔を見て思わず頬が緩む。しかし、自分の間抜け顔に気づいてすぐに平静を取り戻す。そう、絶対に彼女に対する好意を悟られてはいけない。
彼女は今、本を読んでいる。口笛を吹きながら。僕も今、本を読んでいる。彼女の口笛を聴きながら。同じことをしているはずなのに、なぜだろう?この圧倒的敗北感は。こちらはミステリー小説、あちらは明らかに高校で習う分野を超越した数学の本、英語ではない見たこともない外国語の参考書の二枚同時読みである。
そう、彼女は世間で言うところの天才なのだ。
高校のテストではいつも満点。授業中はいつも高度なの専門書を読みふけっている。今年の夏休みには、某国立大学の教授と一緒に研究を行ったらしい。まだ高校生なのに。
天才美女、瀧安寺アイリ。誰もが羨む彼女の完璧さにも、唯一弱点がある。それはコミュニケーション能力の欠如だ。それも完全な欠如。他人との会話が苦手というレベルではない。彼女は他人と会話を全くしない。つまり、この学校で彼女の声を聞いたことがある人は1人もいない。僕を除いては…。
「ノイマンくん!」
僕がアイリの第一声を聞いたのは、図書館で彼女に呼びかけられたときだった。ノイマンとは、僕の名前である。僕は純日本であるから、ノイマンではないのだが、アイリがどういうわけか僕のことをノイマンと呼ぶ。彼女によれば、ぼくはノイマンに似ているらしい。ノイマン…誰だろう?
というわけで、ぼくはノイマンになったのだが、そんなことより衝撃的だったのは、彼女が喋ったということだった。澄み渡った綺麗な声。その風貌に劣らない美しい声色だった。
そのときすでに僕は無意識のうちに彼女に恋していたのだろう。彼女の美しい外面だけを見て。
僕はまだ知らなかった。瀧安寺アイリはただの美女ではなく、野獣でもあるということを…。