議題1.ボーイミーツガール――彼女に見せたい、彼の日常。けど、読者はそれを知りたいの?
私が書いた作品を、友人に見せたときのことです。
少し前のことなので、多少の脚色が入っています。
【このシーンの状況】
主人公の少年少女が出会い、翌日、一緒に出掛けます。
目的地は、少年がよく遊びに行く店。そこで、ある人物と会う約束をしているためです。
しかし、行ってみると相手がいません。なので、少年は暇つぶしに、いつもの仲間とカードゲームに興じます(賭けトランプ)。
ゲームが終わったころに、約束の相手が到着します。
店に着いてから、カードゲームをして、目的の相手が来るまでのシーンについて、友人の感想。
友人
「……ゲームのシーン、たるい。
最終的に、どうなればいいわけ?」
【このシーンで達成すべき課題】
少年が約束の人物と会って、情報を得る。
友人
「遊んでいるシーン、全部、要らないじゃん。
約束の相手が、初めから店にいればいいだけじゃん」
私
「ええっ!? 確かに遊んでいる間は、事件に関してはまったく進まないよ。
けど、主人公ふたりは会ったばかりなんだよ。お互いどういう人物か分からないわけじゃない?
地の文で、少年はこれこれこういう性格で、って説明するよりも、普段の遊び場での様子を書くことで、少年の性格、生活を書くほうがよくない?」
友人
「あー、そういう意図ねぇ。その発想は、なかったなぁ!
でも、ただ行動が書かれているだけで面白みがない。読者が知りたいのは、この先の展開だと思う。もたもたしていると、興味が薄れちゃう。
それに遊び仲間の友だちが、薄っぺらなモブ。そのくせ、ひとりだけ名前がついているのが鬱陶しい。名前を覚えるのが面倒臭い」
私
「『友だちと遊びに興じること』が書きたいことであって、『友だちひとりひとり』は、重要じゃないんだ。だから、友だちの言動を詳しく書いたら、それこそ余計じゃない?
名前がついているのは、この店の息子で、店主に名前を呼ばれるからだよ」
友人
「それを聞いても、やっぱり間延びするだけだと思う。
個人的な意見としては、削除がいい。
けど、それでも入れたいと言いはるのなら、このシーンを『意味のあるもの』にしよう。
モブはモブだから目立たせないほうがいいと思う。これは同意。
でも、出てくるからには、モブだって使う――モブを使って主役を立たせる!
彼女、『物凄い美人』だよね? そんな子がこんな店に来たら、そのへんの男どもの反応はどうなる?」
私
「でも、彼の連れだよ? 色目使うかな?」
友人
「『それが分かっていても、ちらちらと見てしまうくらいの美人』なんだよ、彼女は!」
私
「なるほど!」
そして、こんなふうになりました。
【このシーンの意味と作者の意図】
・彼の日常を書く。
→『出会ったばかりの彼女に、自分をよく知ってもらいたい、という彼の気持ち』を表す。
『作者が読者に、彼のこんな面を知っておいて欲しい』という意図がある。
・モブキャラの言動。
モブは目立ってはいけない。伏線のように見せてはいけない。だからといって、本当に意味のない人物なら登場させないほうがいい。
→彼らがどんな言動を見せるかによって、彼女の美しさを示す。
また、少年が彼らの中で、どんな位置にいるのかを示す。
・「繋ぎ」のシーンなんて作らない。ここ単独でも面白いシーンにする。
→書きたいのは『ゲーム』ではない。『人間』である。
せっかく名前付きのキャラがいるのだから、彼の少年に対する感情を出す。
彼が持つライバル意識は、彼の個性であるかもしれないが、主役の少年を立たせる効果も期待できる。
これは、私が出したひとつの結論です。
キャラクターやシーンに思い入れがなければ、削除するのが自然だったかもしれません。
この結論は、あくまでも、『このシーンを残すことを選んだ場合』における、『私たちが思いつくことができた』最良の手法だと思います。
さて、このシーン。あなただったら、どうしますか?
こっそり宣伝。
このシーン、 http://ncode.syosetu.com/n6974cx/16/ のことです。
と、連載小説のど真ん中を言われても、困ると思いますが。