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12、マジック・ドール・マジック


「確かにね、祐五郎ゆうごろうさんは耳が聴こえなかったんだよ。それで、耳の聴こえない奇術師っていうので、有名になったのだけど、祐五郎さんは、同情で話題にされたようで、くやしかったんだろうね。耳のことなんて関係ないくらいの技を身に付けてやるって、アメリカに渡ったの。

 ハナさんは祐五郎さんについて行って、祐五郎さんの代わりに、通訳したり、打ち合わせしたりして支えて、祐五郎さんを成功に導いたのよ」


 ひいばあちゃんの納骨のうこつが済み、食事をしているときに、ぼくは、この不思議な出来事をみんなに話した。そこで、和江かずえおばさんから、そんな話を聞かされたのだ。

 しかし、かりんのことは、和江おばさんも、ほかの親戚も、だれも知らなかった。


「ハナさんのことだから、そういう辛い思い出は言わなかったんだろうな」


「ほんと、心の強い人だったから、ひとりで何でもやって、愚痴ぐちもこぼさず、悲しみも見せなかった」


 おじいちゃんの兄弟たちが、くちぐちにそう言った。


「待てよ。母さん、毎年秋になると、大きな花束を持って、どこかに出かけなかったか?」


「そういえば、そうだね。どこに行くの?って聞いても、『ちょっとね』と言って、行き先は教えてくれなかった」


「かりんさんのお墓参りだったのかもな。西条家のお墓には、かりんさんの名前は見当たらないし」


「もしかして、その教会とか?」


「そうかもしれないよ。だから、かりんさんのお墓のある教会で待ち合わせしていたんじゃないかな?」


 親戚たちの話で、ぼくもそんな気がしてきた。



 次の週の連休前に、ぼくは三峯さんといっしょに、小淵沢のあの教会を訪ねた。

 日曜日ではないので、教会の扉は鍵がかかっていたけど、芝生の庭から裏手に回れるようになっていて、その奥に、小さな墓地があったのだ。

 その墓地のお墓はみな、日本のお墓のように背の高い墓石が重ねられているわけではなく、横長の背の低い石に横書きで名前と生きた年が書かれている。

 日本語で彫られた名前もあるが、たいていは日本人の名前でもローマ字で書かれている。


 ぼくたちは、そのお墓の名前を一つ一つ確かめなくてはならなかった。

 ほかに人はいなかったけど、墓地を探し回るのは、あまり気分が良くない。


 それほど大きな墓地ではないのに、かりんのお墓は簡単には見つからず、ぼくたちはへとへとになっていた。

 やっぱり思い違いだったのかと思ったとき、三峯さんが墓地のいちばん奥で声を上げた。


「まどかくん! あった!」


 墓地のいちばん端の、大きなかしの木の下に、草にうもれるようにして、小さな墓石があった。その墓石には、こんな文字が刻まれていた。


―― Caroline Middleton Saijo  1931 - 1944 ――


「カロリーン・ミドルトン・西条」


 三峯さんが、その名前を読み上げる。

 そのすぐ横には、かりんのグランパ ―― 正確にはひいおじいちゃんだけど ―― のお墓もあった。 


 ぼくたちは、伸び放題でかりんの墓をおおい隠していた草を取り、墓石をぴかぴかにみがいて、かりんが喜んだあの大きな花束を供えた。


「まったく、お騒がせな幽霊さんね」


 三峯さんが、この夏に起きたことを、まるでよくある出来事のように言うので、ぼくもなんだかほっとした気持ちになった。


「ほんと。またやってきても、今度はあんまり目立つようなことはしないでよ」


 そのとき、かしの木の陰から、女の子がくすくすと笑いながらのぞいているような気がしたのは、ぼくの思いすごしだったのかもしれない。



*************************



 オルゴールの音色に合わせて、ビスクドールが踊っている。

 それは、本物の女の子のようにしなやかで、とても誰かが操っているようには見えない。オルゴールの音が鳴りやむと、人形もぼくの方を見上げた姿勢で動きを止める。


 機械仕掛けでも、操り人形でもない。

 そのからくりは、誰にも分からない。


 ビスクドールが動きを止めたのを合図に、ぼくのショーが始まるのだ。


 マジック・ドールが、今のぼくのアシスタントだ。ぼくは『彼女』といっしょにマジックをする。ショーの名前は


―― まどか&かりん マジック・ワールド ――



「まどかくん、これだけは私にも教えてくれないのよ。人形のかりんがどうやってあんな滑らかな動きで踊れるのかってこと! そんな派手なマジックじゃないけど、何気にすごいのよね」


 よく三峯さんが関係者にそんな愚痴ぐちをこぼしている。


 だって、三峯さん。これはマジックじゃないんだもの。

 ぼくがマジシャンになったのは、ひいじいちゃんにあこがれていたからっていう、それだけの理由じゃないことは、前にも話したはずさ。


 そう、ぼくは、本当の魔法が使えるんだ。

 でも、みんなびっくりするだろうし、ぼくのことをこわがるかもしれないから、今は『人形のかりん』にしか使っていないけどね。


 あ、あの女の子には、もうすっかりバレていたんだっけ……。



                                           

    おしまい






最後までお読みいただき、ありがとうございました!


手品師の男の子が、大魔術師のおじいさんの部屋で、人形を見つけ、それを手品に使おうとするが、その人形には秘密があって……


そんなあらすじを書いたまま、古いパソコンがご臨終。

あらすじを書いたものの、その先が決まらず、考えるのも面倒だったので、放置していたのですが。


冬の童話祭という起爆剤が、私の脳を活性化させてくれたのか、満足のいく形に仕上がりました(←自分基準)


しかし、このお話。ちょこっと歴史的な物を入れ込んだために、計算計算のお話になってしまいました。


この主人公は、他の作品にも登場させているため、その話との時間経過はどうしようか。

かりんとひいおばあちゃん、それ以外の親戚は、いったいいくつ?

キャロラインと祐五郎さんは何年生まれ?

映画『オズの魔法使い』が公開された年は?


すべてに『計算』が必要で、大したものではないけど、簡単なものでも計算の苦手な私には、とんでもない宿題になってしまい、果たしてその計算がすべて合っているのか未だに分かりません。


いくら文学といっても、理系の能力は必要ですね~。


しかしその後、取って付けたように調べていたら、面白い発見がいっぱい!


童話『オズの魔法使い』が出版されたのは、カロリーンが住んでいるといっていた(実際にはキャロラインの故郷)シカゴだったんです!


映画が公開されたのは戦前の1939年だけど、日本で公開されたのは、その15年後。


ここはちょっと計算ミスでしたが、キャロラインが読み聞かせていたのを覚えていて、死後に観に行ったということにしておきましょうか!?


何て具合に、計算ミスも、偶然の一致も、読み流していただけたら、幸いです^^


そして、その計算は、物語の流れにも。


不具合を起こした仕掛けのガラス箱の中身が入れ替わったのは、誰の仕業だったんでしょうね?


表現ひとつも、計算ですね^^;





***


この物語を、今年、天国に旅立った大切な友人に捧げます。


***



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