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第五話『判決』

ここでやっと物語が始まります。

「先生…」

「よう、みんな揃ってどうしたんだよ」

 

 先生はいつもの笑顔で俺らを迎えてくれた。

 何も知らない子供のような笑顔に、俺は胸を締め付けられるような思いだった。

 

「まあ座れよ。椅子四つも無いけど」

「ああ、いいっすよ。俺ら立ってます」

 

 俺達は遠慮して立ったが、詐欺師は一人で当たり前かのように座り始めた。

 何なんだ、こいつ。

 

「で、どうしたんだよ、いきなりやってきて」

 

 若林先生が嬉しそうに聞く。生徒が見舞いに来てくれたのがそんなに嬉しいのかな。

 

 …俺の中で天使と悪魔が喧嘩している。

「今がチャンスだよ、謝りなって。今なら先生も許してくれるかもしれないよ」

 天使が俺を説得する。

「ほっとけばいいんだよ、死んでなんかいないんだ。五年ぐらいで時効になるだろ」

 悪魔が俺にアドバイスをしている。

 

 おい、天使。もし犯人が俺じゃなかったらどうするんだよ。

 おい、悪魔。もし犯人が俺だったらどうするんだよ。

 だけど、俺ができることはこれしかない気がするんだ。

 

 

 

 許してくれ、悪魔。

 

 

 

「先生」

「んっ?」

「話、聞いてくれませんか?」

 

 病室に重い空気が纏わりつく。

 俺はゆっくりと正座の形になり、土下座を始めた。

 額が床に当たるぐらい頭を下げた。

 

「あの日、先生を轢いたのは俺です!しかもそのまま逃げました!先生の全てを無くしました!本当にすみませんでした」

「拓真…」

 

「本当にすみませんでした!」

 気付けば、目から涙が溢れ、床を濡らしていた。

 

 子供の頃から、俺は泣かなかった。

 転んで膝を擦りむいても、兄貴に頭を叩かれても、自転車に上手く乗れなくても、泣かなかった。

 『全米が泣いた!』と騒がせてる映画を見ても、泣いたりはしなかった。

 

 そんな俺が物心がついてから初めて泣いた。

 先生も友達もよく分からん詐欺師もいるなか、ボロボロ涙を流している。

 心の中に貯めていた色んな物が、涙へとなったかのようだ。

 

「…」

 先生は無言のまま、俺を見つめている。

 構わない、殴られたって、捕まったって、どうだっていい。

 

「すみませんでした!」

 えっ?

 気付けば山田も藤原も剛も土下座している。

 

「関係ねぇだ――」

「逃げようと催促したのも、前を見ろって注意をしなかったのも俺らです!俺らも共犯です!」

「俺らは何でもします。覚悟も出来てます!ただ、拓真だけのせいじゃないんです!」

「それだけでも覚えていてください!お願いします!」

 

 

 俺は、なんて最高の親友を持てたのだろう。

 何があっても、こいつらは俺の傍にいてくれた。

 こんなくずみたいな俺を、かばってくれている。

 俺にはもったいねえぐらいだ。

 

「お願いします!」

 三人が必死に頭を下げている。

 俺も頭を下げた。

 

 暫く、無音の空気が病室を包む。

 

「成功だな」

 そんな空気を詐欺師が壊すかのように口を開いた。

 

 は?成功?

 

「そうですね」

 若林先生が詐欺師に敬語で応える。

 

「どうゆうことですか?」

 

「うん、知ってたよ。お前らが轢いたって」

 何だって!?

「轢かれた時、まだ意識あったんだよ。んでお前らの声も聞こえてさ。逃げた時はムカついたけどな」

 

 終わったな。

 ああ。

 

 俺らは心の中で会話をした。

 暗い暗い牢屋の生活が俺らを待っている。

 


「別に大丈夫だよ、俺の不注意でもあったし。警察に被害届けを出す気にもならねぇ。気にすんな」

 先生は純粋な笑顔で俺らに言った。その笑顔はあまりに純粋すぎて輝いて見えた。

 

「せ、先生…俺…すいませんでした!」

 俺はサッと立ち上がり、頭を下げた。

 あの時も泣いていたのかもしれない。頬に何かが通ったような感触があった。

 

「だけどな」

 

 先生は真剣な顔になって、俺らの顔を見渡した。

「俺らはデビューしたかった。教師を続けながらバンドをやりたかった」

 だが、それを奪ってしまった。その罪はあまりに重すぎた。

 

「判決を言う」

 判決とは…。俺らは顔を見合わせ、覚悟を決め、先生の判決を待つ。

 

「俺らの代わりにバンドを組んで、デビューしろ。それが判決だ」

 

 えぇえええええ!?

 中学生の時、俺と藤原はバンドを組んだ事がある。

 本気でモテるだけを目標に頑張っていた。

 

「俺!!ボーカル!ボーカル!」

「ドラムって楽じゃね!」

「何このギター?弦少なくね!?」

「それベースだろ!!」

「また千切れたぁああ」

「うわぁああああん!!」

 もう何もかもわからないから地元でライブハウスでライブを見てみた。

 

 

 

 解散した。

 

 

 

「バンドなんてできねーよ…」

「いや、捕まるよりはマシだろ」

「捕まえる気なんかねぇよ!」

 

 先生はこう言うものの、無理に決まってる。ましてやデビューなんて、10回連続サイコロの出目を当てるぐらい難しい。藤原なんてベースとギターの区別もわからなかったし。

 

「言っておくが拒否はさせねぇぞ。俺はもうやる気満々だ」

 詐欺師は腕を組み言った。

「何を言ってるん」

「やるとしても入れる気ねぇし」

「なっ。お前もだろ?藤原」

 藤原に同意の声は聞こえなかった。

 藤原は詐欺師の顔を色んな方面からジロジロ眺めている。気持ち悪いな、そっちの気があるのか?

 

「あーーーー!!」藤原が急に叫んだ。

「なんなんだよ!詐欺師の顔を見たり、いきなり叫んだり…」

「ちっ、ちがっ…おえ…この人…」

「落ち着け落ち着け。まずトイレ行け」

「平気。それよりこの人」

「ん?詐欺師がどうした」

「詐欺師じゃねえよ!この人はドリーム・ユーのギタリストで、全楽曲を作った伝説のバンドマン。川崎ユウヤだよ!」

 なっ、こいつがドリーム・ユーの…。

 

「やっと気付いたか、おせーよ」

 川崎が呆れた顔で言う。頭をボリボリ掻いて、照れている。

 

「全楽曲ってことは…」

「ペペロンチーノが世界を制するも?」

「ダセー!!」

 

 その後、俺と剛と山田の三人は藤原にボコボコにされ、危うく病院で病院送りされそうだった。上手い事は言ってない。

 俺らはメンバーに川崎ユウヤを加え、五人でバンドを組む事になった。


いよいよバンド小説の始まりです!

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