表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

第四話『人殺し』

次で物語がやっと始まります。

 結局、俺が人を轢いたためライブハウスに行けるはずもなく、朝までダーツバーで遊んでいた。

 

 ダーツバーのマスターは勘が鋭いのかわからないが、俺らの心情を察し、普段は夜の12時に閉めるのに朝まで営業していた。

 マスターの笑顔のおかげで少しだけ心が安らいだ気がした。

 

 この日が金曜日だったため、土日は寝て食べるだけの生活をした。

 轢いてしまった奴がどうなったか考えると、吐き気が起こるから、なるべく考えないようにして二日間を過ごした。

 ただの二日酔いかもしれないと考える暇さえ無かった。

 

 月曜日、ちゃんと先生に謝らなければならねぇと思い、吐き気を堪え、なんとか教室まで来れた。

 ん?騒がしい。

 もう授業が始まってもいい時間帯なんだが…。

 ガラガラと引き戸を開けると、何組かのグループで話してて、黒板には『集会後自習』と書かれていた。

 

「おう拓真。また遅刻かよ」

「どうだ、参ったか」

「何に参るんだよ?(笑)」

 クラスメートの一人が話し掛け、俺がそれに応える。いつもの風景だ。

 だが、なんか違うぞ。

 いつもの会話の中に緊迫とした空気が流れてる。ここは異世界か?

 

「おう拓真。来たのか」

「よう剛」

 剛もなんか緊迫とした空気が流れてる。異世界の住人なのか?

「ちょっと便所付き合ってくれねえか?」

「別にいいけど」

 俺達はコソコソと教室を出た。

 

 教室を出た途端、この階にトイレがあるのに、渡り廊下を通り、特別な用事でしか使わない校舎へと入り、そこにある男子トイレへと入った。

「どうしたんだよ。トイレなら教室の近くにあったじゃねえか」

 俺はダルそうに尋ねる。

「ここじゃなきゃダメなんだよ」剛は真剣なまなざしを俺に向けながら答える。

 

 おい!まさか禁断の告白か!?

 

 剛がジワジワと俺に近寄る。

 俺は普通の青春がしたかったな…。

 

 

「若林先生が轢き逃げにあったんだよ」

 はぁ、若林先生が轢き逃げね……!!!

「どこで!?」

「声でけーよっ」

「どこでよ?」

 注意されたから小声で訊く。

「金曜日にあのライブハウスの前で」

「マジかよ…!?」

 おい…まさか、犯人はバイクに乗っていた。とかじゃ……。

「警察が調べたらよ、バイクだと思われるタイヤの跡があったんだと」

 俺の心の中を読まれたかのように剛が答える。

 

「それってよ、まさかな……」

 全身が寒気で覆われていく。足も震え出した。窓が開いているわけでもない。

「まだ決まったわけじゃねえって」

 剛が必死にフォローする。

 そんな剛も、唇が震えてるじゃねえか…。

 

「俺に決まってるじゃねえか!」

「だから声が――」

「俺が先生を殺したんだ」

「落ち着けって――」

「俺が先生を…」

「まだ死んだわけじゃねえって!」

 動揺している俺の肩を掴み、剛が怒鳴る。

 

 まだ死んだわけじゃない。

 俺はその一言で希望が満ちた。また先生がチケットを俺らに売り裁く姿が目に浮かんだ。

 

「だけど…」剛が話を続ける。

 

 

 

「歩けないんだと」

 

 

 

 全ての雑音が聞こえなくなっていた。

 トイレの換気扇の音も、微かに聞こえてたどこかのクラスのざわめきも、全て聞こえなくなった。

 

 

 

「教師も辞めるし、バンドも解散するってよ」

 

 

 

 ただ剛の話す声が、耳の奥まで届いた。

 

 

 

 

 気付いたら俺はショルダーバックを背負い、家路を歩いていた。

 無意識の内に早退してしまったのだ。

 

 ショックが大きかった。俺が若林先生の人生をグチャグチャにしてしまった。償おうとしても償えないぐらい大きなものを、なくしてしまった。

 俺は一体、これからどう生きればいいのだろう。

 

 荒川は太陽光の反射でキラキラ輝き、太陽が光を放ち、視界に入るとすごい眩しい。空は、綺麗だ。

 

「空はいいよなぁ」

 

 気付いたら詐欺師と同じような事を言っていた。何考えてるんだ俺?子ウサギの死体なんて売りたくねえよ。

 しかも、偶然にも前方に詐欺師らしき人物がいるし。

 折り畳み式のパイプ椅子に座って、アコギを弾いている。何の曲を弾いているのかわからない。

 

 気付かずに通り過ぎようとしたら、小声で何か歌っている。俺は気になり、そっと耳をすます。

 

 ペペロンチーノが世界を制する。

 ペペロンチーノが世界を制する。

 

 この曲は…。

 

 俺が歩むのを止めた途端、詐欺師はニヤリと笑い、「久し振りだな」と言った。

 もしや俺、ハメられた!?

 

「はぁ、久し振りです」俺は徐々に後ずさりしながら応える。

「逃げるなよ、今日は何も持って来てない」

 確かに白いバンのトランクからは、開いてあるアコギのケースしかない。俺は安心した。

 

「どうしたんだよ、なんかあったか?」

 詐欺師が核心をついた質問をする。

 瞬時にさっき起きた事が蘇ってくる。

「俺はとんでもない事をしたかもしれない。いや、それは俺がしたのかもわからない。むしろ後者の方を期待している。そんなんだったらまだ俺は反省してないのかな」

 俺は遠巻きに話し始めると、詐欺師は数回頷き、白いバンを指差し「乗れ」と俺に言った。

 

 何考えてんだ?こいつ。

 

 だが、詐欺師は俺の考えを破壊するかのように、俺を助手席に引きずり込み、ドアを閉め、シートベルトを締め、エンジンを吹し、アクセルを踏み発進させる。それをビデオを早送りさせたような早さで行なった。

 

 もう逃げられないと確信した俺は、シートベルトを締めようと後ろを振り返った。

「よう」

「おっ、よう」

 剛に挨拶を済ませ、シートベルトを締める。

 

 

 

 ん?

 

 

 

「なんでここにいるんだよ!?」

 後部座席には剛だけではなく、山田、藤原も乗っていた。

「拉致られた」

 山田が詐欺師に指を差し、小声で状況を説明する。

 一方、犯罪まがいな事をした詐欺師は笑顔で口笛を吹いている。

 

 本当に何がしたいんだ?この男。

 

 バンが大通りを出て15分後、ある所に到着した。

 そこは街で一番でかい総合病院だった。

「行くぞ」

 詐欺師が車を降りて、俺達を誘導する。仕方なく詐欺師についていく。

 何回か逃亡を計ろうとしたが、その度に詐欺師が笑顔で「無駄だよ」と呟いたから怖かった。

 

 七階のある病室に着くと、詐欺師はノックをしてゆっくり引き戸を開けた。

 

 そこには、ベッドで横たわってる若林先生がいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ