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その3

 「飯島いつになく慇懃無礼な態度だぁああ! やはり今大会決勝まできたとしても初出場の初心者。お前は俺の足元にも及ばないといわんばかりの挑発だぁああ! これに対して早乙女はどうするのかああ!」

 MCのアナウンサーもヒートアップしそれにこたえるように会場もわきあがる。

 飯島のパフォーマンスを鼓舞する歓声が聞こえる。

 若干『余裕こくなー』と俺の言葉を代弁してくれている罵声もまじっているが。


 俺は飯島のハンデに乗ることにした。

 「ありがとうございます。ありがたく頂戴いたします」


 「どうぞどうぞ。ではわたしのターンは終わりです。早乙女さんどうぞ」

 一礼すると飯島は楽しそう微笑んだ。


 「受け入れたぁああ! 意地でも勝ちを取りにいくという執念がうかがえますね。そして何もしないまま飯島の最初のターンは終わり、早乙女のターンになります!」


 エスカレートしていく実況の声が会場内に甲高く響く。

 「では俺のターンで」


 「後攻早乙女ノターン開始シテクダサイ」


 俺はカードを一枚デッキから引く。


 先攻は先に場にカードを展開して場を制圧できるかわりにカードは引けない。

 後攻は先攻に場の支配を許すかわりにカードを補充し展開力を上げることができる。

 公平に片方が露骨なアドバンテージをとらないように、考えられたルールだ。


 だが、飯島の場には展開されているカードはない。


 つまりは場の最初の支配権とカード一枚補充するという最初得られるアドバンテージをどちらも得られているという状況なのだ。


 これはカード一枚で場が戦況が変化するカードゲームで自殺行為に近い。


 そう、これは死亡宣告も同じなんだ。


 七枚目のカードが手札にきたときにそれを確信してしまった。


 「ではいきますよ」


 勝ったと。


 「モンスターを召還」


 俺は手札からウサギの絵が描かれているカードを場に出した。


 このゲームでモンスターカードと呼ばれるもので通常の方法では一回のターン中に一枚しかだせない。


 だが、能力や効果を使った召還は無制限で行える。


 「効果を使い、デッキから同名のカードを一枚出します」


 「そしてデッキから同じカードを展開」


 デッキからさきほどのウサギのカードを出して、デッキをシャッフルしなおす。


 そして。


 「手札から効果を発動します。同名のカードが存在するときに他の手札をすべて捨てて手札からこのカードを召還」


 今度は手札から狼の絵が描かれたカードを出した。


 このカードは特定条件で場に出せる能力を持っている。


 条件は場に同名のカードが二枚以上あることとこのカードを手札から召還する際にこれ以外のカードをすべて墓地に捨てること。


 墓地に捨てられたカードは5枚。


 「捨てたカードの能力を発動。墓地に五枚以上カードがあるとき墓地からこのカードを場に召還」


 次に魚のカードを場に出した。


 「さらに場に三種類のカードがあり、かつこのカードが墓地に送られているときに場に召還してもいいという能力を発動して、こちらの鳥のカードも召還します」


 墓地から鳥のカードを出す。


 飯島の表情がみるみるうちに凍り付いている。


 だが、まだ終わりではない。


 「さらに一回のターンにモンスターカードが四枚召還されたため、墓地のこいつを使ってデッキからカードを一枚手札へ加えます」


 さきほど墓地に捨てたカード、トカゲのカードを相手に見せてデッキから黄金の竜のカードを手札に加える。


 デッキをシャッフルしなおす。


 「ではアタックします」


 カードを横向きにして相手プレイヤーに攻撃宣言をする。


 このゲームはモンスターのかかれているカードで相手に計六回攻撃が通るとその相手は敗北するというルールなのだ。


 つまり俺の場にいるモンスターはうさぎが2体、狼が1体、魚が1体、鳥が1体、計5体でダメージを与えられる。


 場に相手のモンスターがいれば攻撃を防げるのだが、飯島は何も出しておらず防御手段がない。


 「な、なんだこれは……」


 飯島の嘆きにも似た声が聞こえる。


 「計5回ダメージです」


 「待った! おれは手札からこのカードを使って攻撃を一度無効化する」


 そういって飯島は手札から猫のカードを出してきた。


 相手の攻撃宣言のときに一度だけ使用できるものだ。


 そのあとはこのカードは墓地に送られてしまう。


 「この攻撃はなかったものになる」


 猫のカードは攻撃自体をなかったものにするため、計5体の攻撃はすべてなかったものになってしまう。


 普通の状況ならばだ。


 「わかりました。では、手札からこいつを墓地に送ります」


 俺は手札からさきほどデッキから持ってきた黄金の竜のカードを墓地に置く。


 「こいつの効果によって一度だけ無力化された効果を無力化します。これにより猫のカードの効果は消滅し、攻撃は再開されます」


 「え……」


 黄金の竜が書かれているカードは手札から墓地に送ると効果を無力化する能力がある。


 猫と同等の能力でこの能力をつかい、猫の効果を消したのだ。


 「5回ダメージが通ります」


 「くっ……追い込まれたか」


 「いえ、違います」


 「え?」  


 俺は墓地から一枚カードを手元にもっていき相手に見せる。


 それは先ほど捨てた黄金の竜のカードだった。


 「まだこいつの効果は終わってません」


 「なに……」


 「こいつの効果にある、一回のターンで5点以上ダメージを与えた場合、墓地からこのカードを召還できます。そして召還した黄金の竜で攻撃」


 「ふぇ……」


 「六回目の攻撃です。俺の勝ちですね」

 勝った。


 相手に六回攻撃をして終わり。


 「ま、負けました」

 相手の負け宣言を聞いた瞬間、俺はガッツポーズを決めた。


 高々とあげる腕、そして気が付いた。

 会場が静まり返っていることに。

 観客はもちろんのこと、MCのアナウンサーからも声は聞こえない。


 「か、勝ちました!」

 高らかに勝利宣言をして再度ガッツポーズをしてみるが、なんら反応はない。


 静まりかえるアリーナ。

 何千人といる中、あれほどの爆音だった歓声は今はなく、あおっていたアナウンサーも言葉を失っている。


 なんだろうか、この状況は。


 勝ったことは間違いない。

 なのに割れんばかりの歓声が聞こえてこない。

 俺を賞賛する声も聞こえてこない。


 「か、かったぞぉお! おおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 会場にこだまするのは、俺の叫びだけ。

 人は誰一人として声をあげず、ルールを監視する『玉座』も沈黙をつらぬいたままだった。


 「審議!!」


 数秒後、テーブルの外で見ていた主審が声を上げた。


 テーブルの外で観戦していた審判団がその声を合図にぞくぞくと入ってくる。


 数名の審判団にテーブルを取り囲まれる。

 「両者そのまま手札を置いてテーブルには触れずに手を上にあげてください」


 「え……俺が勝ったんじゃあ――」


 「静粛に! 審議が終わるまでは一切発言は認められていません」


 「ですが――」


 「静粛に!! 問答無用で失格にしますよ!」

 審判団の一人に怒鳴られしぶしぶ無言になり、両手を開きそのまま頭の上に移動する。


 飯島も同じようにしていた。顔は今でも呆けていて何が起きたか理解できない様子だった。


 数名の審判団が話しあっている。


 その間、何度もデッキをチェックして俺と飯島のボディーチェックが入る、イカサマがないかどうかチェックしているのだ。もちろんデッキ以外のカードを持ち込むことは禁じられているから持ってはいない。


 ルール上もなんら間違っていないし、モンスターのテキストの効果についての解釈の仕方も間違っていない。


 日本語のテキストだと解釈の違いで効果がわかりずらいものも多々あるため、使用する際に役所のルールを設定しているところに効果を誤解していないかどうか調べてもらい、使用可能であると連絡をもらったのだ。


 もちろん、カードの積み込みやイカサマなどもしていない。


 たまたま運がよかった、そして飯島が運がなかっただけだ。


 もっと言えば、飯島が余裕綽々で最初のターンで何もしていなかったのが敗因でもある。

 あの時点でモンスターを展開されていたら、こちらの攻撃を通すこともなかったしこちらが同じように追い込まれていたかもしれないのだ。


 運と飯島の慢心が生んだ結果だ。

 飯島の負けだ。

 監視のために数名の審判員が残り、主審と副審が話し合っている。


 数分後主審がマイクを持ち会場に語り始めた。


 「えー、ただいまのプレーについて説明いたします。今の試合、早乙女選手のプレイングが高度であったために判定がわかりずらく選手同士で勝ち負けの判断が付きづらい状況になりました」


 会場がざわつき始める。

 何をいっているんだ。俺が勝ったんだ、飯島も負けを認めていたじゃないか。

 主審の発言が理解不能だった。


 「この試合は無効試合として早乙女選手のプレイングがカードゲームルールに抵触するものではないか、審査いたしますのでその結果が出るまでは暫定的な処置ですが飯島選手の優勝として扱うものといたします。よって!――」


 もはや呆然とその様子を俺は聞いていた。


 主審が言っている言葉の意味がまるで理解できなかったからだ。


 思考が完全に停止していた。


 そして、主審は飯島の腕を持ち高らかに宣言した。

 「勝者、飯島マサハル!!」

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