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flat.  作者: 詩音
3/7

FILE2:恋人


今日も喫茶店『flat』にいる。


先ほどまでゆったりとしていたが……


「本当に、別れたいの?」

「…うん。」



今は修羅場となっている。


カウンターから少し離れた丸テーブルに座る男女。

私がオーナーの方を見れば、相変わらずコーヒーを作っている。


慣れているのだろうか。


正直私はこういう場面をテレビでしか見たことがないため、つい横目で二人の様子を見てしまう。


「他に好きな女でも出来た?」

「そういうわけじゃ…」

「じゃあ何で?」

女の質問は止まらない。男はただ曖昧に答えるだけ。


「…もうはっきり言ってよ。」

涙声で女が言う。


「…付き合ってもう一年経つだろ?…毎日が同じに思えて、つまらなくなった。」

「…それが理由?」

女の問いに男がうなずく。

店内に痛々しいほどの沈黙が流れた。




「お待たせいたしました。」

修羅場の中へ飛び込んだオーナーはいつもの柔らかい笑顔を見せていた。


「注文ならもうしましたけど…」

「これは私からのおすすめです。ただでかまいませんから、その代わりに私の願いを叶えていただけませんか?」


私はオーナーのおすすめという言葉に反応した。横目で見るのをやめて、現状をじっと見つめる。


「…お願いって何ですか?」

「それはこのコーヒーを飲み終えてから。」

女の問いに答えた後、オーナーはお辞儀をしてこちらに戻ってきた。


「癒しのコーヒーですか?」

「さぁ…どうなりますかね…。」

私とオーナーは行く末を見つめることに。



「ただでって…怪しくないか?もう出よう。話はここじゃなくても出来る。」

男は去るためにコートに手を伸ばした。


「あたし飲む。」

「お前何言ってんだよ…。」

「だって、もうこんなこと二人で出来なくなるじゃない。」

「…。」

伸ばした手を膝に戻し、男はカップを見つめる。


「「いただきます。」」


二人は同時にコーヒーを飲んだ。


「…旨い。」

「それだけじゃないよ。懐かしい味…あたしこんなコーヒー飲んだの久しぶり。」

「俺も。」


恋人達はポツポツと会話を交しながら、コーヒーを飲み終えた。




「いかがでしたか?」

「凄く美味しかったです。」

「…頼みって何ですか。」

「お二人にしか出来ないことです。」

「…?」



「二人で思い出の場所巡り…それで何か変わるんですか?」

二人が店から去った後、私はオーナーに尋ねた。


「私にはわかりません。ただ、隣にいるのが当たり前と思って欲しくなかったんです。」


「…。」

オーナーはどんな過去を生きてきたのだろうか。

彼の言葉にはいつも重みを感じる。



それから一ヶ月後、オーナーから一枚の写真を見せられた。


純白のウェディングドレスとタキシードに身を包んだ例のカップルの姿。


「結婚したんですか?」

「ええ、手紙と一緒に写真が入ってました。」

「手紙…」

「あの後…flatを出た後、本当に思い出の場所巡りをしてくださったみたいで。公園や水族館、色々巡った後、最後にたどり着いたのはこの店だったそうです。」


「…どういうことですか?」

私の問いにオーナーがニヤリと笑う。

「あの二人が始まった場所は『ここ』なんですよ。」


そう言われても、いまいち頭がついていかない。

そんな私に気付いたのかオーナーはわかりやく説明してくれた。


「告白した場所が、flatだったんです。二人はその時お互いに緊張してて、どの喫茶店で想いを伝えたのか覚えてなかったそうですけど。」


「…まさかオーナー、それ知ってたんですか?」

「面白かったですよ。メニューを逆さに持ったり、トイレに行こうとして外に出るドアを開けたり。」


…まるで漫画のようなボケだ。それなら自然と記憶にも残るだろう。


「それを思い出したのが二人同時で、昔の気持ちから何も変わってないことにも気付いたそうです。…隣にずっといて欲しいとも。」


「…うらやましい話ですね。」

「お客様もいつか連れてきてください、恋人を。」

「…努力します。」

何年後になるかまったくわからないが…


私は少々苦いコーヒーを口に運んだ。




…カップルって死語でしょうか?何だかわからなくなってしまいました(>_<)

読んで下さり、ありがとうございました!!


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