第3話 「桃太郎」
家に入った二人は相談して赤ちゃんを育てることにしました。
「ばあさん、名前はどうするかね?」
おじいさんは一生懸命考え、決めました。
「ばあさん、桃から生まれたから”ももろう”というのはどうじゃ?」
おばあさんはしばらく考えた末、こう言いました。
「・・・太郎、太郎はどうですか?」
「いい名前じゃあ」
おじいさんは満足げな顔で太郎を抱かかえました。
その隣で、おばあさんはにっこり微笑んでいました。
そして、二人はきれいに桃を食べました。
──その夜、鬼は町を襲い、食料や宝物や女の人を奪い去って行きました。
やがて太郎はすくすくと成長していきました。
数年後のある日・・・
5才になった太郎はおじいさん、おばあさんと一緒に町に出かけました。
太郎は町に行くのは初めてです。
町に着くと買い物を始めました。
太郎は始めてみるものばかりで興奮していました。
興奮している太郎に町の人が声を掛けてきました。
「ぼうや、名前は? あのおじいさんとおばあさんのお孫さんかい?」
「ぼくはたろう。ぼくはももからうまれてきたの」
「もも? ももってぇとあの果物の桃かい?」
「そうだよ」
「そうするとぼうや、桃太郎じゃな。がははははは」
町の人は大声を上げて太郎を馬鹿にしました。
それから太郎は町の人々から”桃太郎”と呼ばれるようになりました。
数日後、再び太郎達は町にやってきました。
買い物をしていると太郎くらいの年の女の子が声を掛けてきました。
「こんにちわ、わたし”おはな”ってゆーの」
「ぼく、たろう。ももからうまれてきたんだ」
「ももからぁ? へんなのぉ」
二人の会話に気が付いたおじいさんが言いました。
「太郎、お友達ができたみたいじゃんの。遊んでおいで」
「やったぁぁ」
太郎はとても喜びました。二人はおおはしゃぎで走り出します。
おじいさんとおばあさんは遊んでいる姿を見て、とても幸せそうでした。
が、そんな幸せの瞬間も束の間。
町のはずれから大声を上げて走ってくるではありませんか。
「なんじゃ、なんじゃ」
「おーい、鬼が来るぞー。みんな隠れろぉ」
町はざわめいた。あの日以来、鬼は姿を現していなかったからです。
「ばあさん! 太郎は?」
おばあさんは慌てて太郎の方に駆け寄り、太郎を抱きかかえました。
「太郎、逃げますよ」
「ばあさん、鬼がすぐそこまで来ているぞい。どこかに隠れるのじゃ」
三人は近くの倉庫に隠れました。
やがて大きな声が聞こえてきた・・・。
「人間ども、宝石をだせ! 食料をだせ! 女をだせ!」
──鬼の声だ。